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2話

 


 あれから(多分)7年、12歳になった私はいまだにミスティア大森林で暮らしていた。おぼえてる限り季節は7回巡ったはず。



 7年前、このミスティア大森林に飛ばされた私は当然のように死にかけていた。5つの国に接する世界有数の大魔境、本を読んで天才ともてはやされていただけの貴族の小娘でなんとかなるような場所ではなかったのだ。


 そして私は、どうせ死ぬのならと『狂化』スキルを発動した。発動と同時に視界が赤く染まったかと思うと意識が飛び、気付くと全身に血を浴びて死んだ獣に齧りついていた。お腹は満たされていたので意識が戻ったときにはしっかり食べていたのだと思う。


 確認できる範囲では自分は無傷、だが服はボロボロになっていた。あきらかに獣の生の血肉を食らったというのにお腹も下さなかった。つまり『狂化』している間は色々と耐性がついて、5歳が獣を殺せるほどに強化され、おそらくは自己治癒能力もつくという事だ。気づいたときに間近でグチャグチャの血肉を見ても吐いたりしなかったことから常時精神も強化されているかもしれない。


『狂化』スキルについては理性を失い暴れ続けるスキルとしか聞いていなかったので驚いたものだ。



 私は『狂化』を使い続けた。そうしなければ生きられなかったのだから当然だ。危険指定(レッド)スキルで使用禁止なんてこんな大魔境のど真ん中で関係なかった。



 変化が起こったのは2回の冬を超えた頃。なんとスキルを使っても意識が飛ばなくなったのである。スキル中に何かできるわけではなかったが今までと違って起こったことを記憶したままでいられるようになった。


 それまでは気づいた時に倒している獲物が強くなってきていたので、『狂化』の成長は肉体の強化に振られていると思っていた。だが意識を残せるようになったことで希望が出てきたのだ。もしかしたら、『狂化』スキルを自分の意思で制御できるかもしれない…と。



 その考えは間違っていなかった。さらに季節が一巡りしたころ、私は『狂化』を完全にコントロールしていた。気分は高揚するし、自分ではっきり自覚できるくらいには好戦的になりはする。だがスキルの発動中にしっかり意思を保って行動できるようになったのだ。



(これなら森を出て保護を求めて、10歳から冒険者として十分にやっていける…!)



 そんなことを思って森を出る準備を始めた矢先に問題が起こった。『狂化』スキルが『鬼化』スキルに進化したのである。



 5歳の時に授かった初期スキルは、使い続けることで進化する。別に忘れていたわけではなかった。ただ進化するにはまだ早すぎるはずだったのだ。


 スキル進化は才能があっても成人後10年かかると言われている。私がいた王国の公式記録で最も早かった当代の騎士団長でも19歳だったはずだ。



 進化したスキルは強力だった。すべてが『狂化』スキルを超えていた。私の意識を塗りつぶす力も。

『鬼化』スキルを発動して、気がつくと私は大量の魔物の死体の真ん中に佇んでいた。また振り出しに戻ってしまって正直心が折れかけた。


 それでも私は諦めずにスキルを使い続けた。『狂化』を制御出来たのだから『鬼化』も必ず制御出来ると信じて。



 それからは『狂化』のときの焼き直しだ。2年半で意識を残せるようになり、そこから1年で制御を完全にした。


 意識を残せるようになったときに異常に筋肉が膨れ上がった腕でオークをひき肉にしていたのは正気に戻ったあと我が事ながら引いた。もはや人間社会には戻れないのではと思ったものだが、スキルを制御出来るようになってくると筋肉の膨張も抑えられるようになってくれた。


 さらに嬉しいことに完全なコントロール下におくと、『狂化』の時のような高揚や好戦的になる性格の変化が起こらなかったのだ。そのかわりにスキルを発動していてもしていなくても額に二本の角が生えてしまったままでいるのだがまあ些細なことだ。スキルの影響だと言えばそれで済むし、隠そうと思えば隠すことも出来るだろう。




 そして現在。3年でスキルが進化し、さらに3年半かけて進化スキルをコントロールした。そこから半年もの間、私は森で暮らしたままでいる。それはなぜか。その答えは非常にシンプルだ。






 服がない。





 5歳の時に着てきたのは最初のスキル発動でズタボロになり、2回目以降のどこかですべてなくなってしまった。たとえ残っていたところでそれなりに成長した今では着ることは出来ないが。


 今までは良かったのだ。ここにいるのは獣か魔物だけだし、そもそも生きることに必死でそこまで気にする余裕なんかなかったし。服がないことによる不便も無かった。『狂化』の時点で細かい傷程度すぐ治っていたし、『鬼化』に進化した後は多少のことでは傷つきすらしなくなった。



 しかし森を出るなら話は別。最低限体を隠せるだけの衣服が必要だ。服を手に入れなければ私はここから出られない。というより一度気になりはじめると誰に見られるわけでなくても恥ずかしくなってきたのだ。『鬼化』をコントロールしたことで完全に素面になったのも関係しているかもしれない。



 私はこの半年間ずっと身を隠しながら森の外周の少し内側を徘徊しながら、殺して服を奪っても良さそうな悪人を探していた。外周付近だと冒険者をよく見かけるが『鬼化』スキルで色々と感覚も強化されているので見つからないようにするのは簡単だった。



 しかしなかなか悪人がいない。このミスティア大森林を抜ければ他国に行ける。基本的に犯罪者に他国まで逃げられると面倒になるため、各国がしっかり警戒しているらしい。当然の事ではあるのだが、今の私にとっては非常に不都合だった。まさか善良な一般冒険者

 から追い剥ぎするわけにはいかない。



 たまたま冒険者の死体を見つけるとかでもまあいいのだが浅いところで死ぬ冒険者なんかいないし深いところで死んだ冒険者はズタボロだ。


 私が飛ばされた場所付近はそれなりに深い場所なのになぜか魔物が少なく、いても弱いものだったが、普通あの辺りで死んだ冒険者の服なんて着れるような状態じゃない。



 結局今日も収穫はなかった。どうしたものかと頭を悩ませながら拠点にしている場所へ帰る。『狂化』スキルを制御できた段階ならまだ諦めて裸で保護される選択肢があったのだ。あの頃ならまだ捨てられた直後の5歳だと言えた。だがしっかり成長した今は流石に無理がある。事実を話しても5歳からミスティア大森林で生き残っていたとかどう考えてもありえないし、最悪他国のスパイ扱いとかになるかもしれない。



(服を手に入れて大森林を出る。それで出来れば少し離れた街まで移動して冒険者登録。多分それが一番いい。訳ありの冒険者なんていくらでもいるし。)



 そう思っても、そもそも服が手に入らないまま半年を過ごしている事実にため息をついて今日も裸で眠りにつくのだった。





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