11話
ギルドで依頼を受けてダンジョンにやってきた。ハイゼンの街の近くにあるダンジョンは外から見たら遺跡になっていて、入り口のアーチを潜るとダンジョン内に飛ばされるらしい。
すべてのダンジョンは浅層、上層、中層、下層、深層の5つに分かれている。このハイゼンダンジョンは浅層は平原、上層は森になっていて資源が多く採れるダンジョンだ。
一週間の間にハイゼン家でダンジョンの情報は一通り頭に入れてある。地図も一応買ってはいるけどCランクで入れる中層までは記憶してきた。まあそもそもこのダンジョンは下層の途中までしか攻略されてないので完全な地図があるのは中層までだが。
(依頼は中層の入り口辺りに生えてる薬草の採取。とりあえず進もう。)
中層は洞窟、上層の森の中にいくつも入り口がある。依頼の薬草を採取してからちょっと探検して帰る予定だ。最初は迷うことなんてない。遠くに見える森に向かってまっすぐ進むだけだ。
浅層は見通しのいい平原でモンスターはほぼいない。いても小さいのばかりでちょっと威圧すれば逃げていく。低ランクの冒険者が狩るものらしいので倒さず森を目指す。
(で、森の入り口まで来たわけだけど…後ろの人たちどうしようかな。)
入り口から付いてきてるのが二組いる。私は歩幅も小さいし、追い抜きもせずずっと後ろにいたのは私をつけてきたってことで間違いないだろう。
片方は結構近い距離、悪意とか害意みたいなのを感じる。もう片方はちょっと離れたところ、ギルドで話しかけてきた人かな。こっちは心配してるだけっぽい。
「まてよチビ。森に入っていいのはDランクからだぞ。ちっといい装備してるからってルール違反はいけねえな?」
まあとりあえず無視して進もうと森に踏み込んだところで声をかけられた。振り返ったところに居たのはニヤニヤと笑う三人組だ。
「あたしたちがギルドに報告したら冒険者やめさせられちゃうよ?それがいやなら…わかるでしょ?」
「そうだな、お前のその防具と有り金全部で勘弁してやる。特別に剣は残してやるよ。」
なんの反応も返していないのだが、勝手に盛り上がっている。というか追い剥ぎをするのに相手に武器を残すとかどういう事なのか。私の見た目から提げてる剣は飾りだとでも思っているのだろうか。
うん、無視でいいね。襲ってきたら潰そう。まだごちゃごちゃと喋っている三人を無視して再度森へ向かう。
「あ!?おいコラ待てやガキ!逃げられると思ってんのか!?」
それを見た三人はすぐに追いかけてきて私を取り囲む。それぞれが武器を抜いてこちらを睨みつけている。
「どうにもならねえのは分かってるだろうが。さっさと装備と金を出しな。」
その言葉を無視して私も剣を抜く。冒険者同士の争いを禁止するルールがあったからいったん無視してたけど、ここまでくればもういいだろう。
「なんだ?まさか抵抗する気かよ。死にてえみたい…」
「待ちな!てめえらそこまでだ!ここからはこのCランク冒険者、ヴァイスが相手になってやる!」
剣の試し切りの相手もこいつらでいいかと思っていたら、付いてきていたもう一人が来た。ああ、うんそうだよね。心配して来てたならこの状況で出てこないわけないよね。
「なんだオッサン、Cランクだからってガキ守りながら三人相手に勝てると思ってんのかよ!」
「俺もそれなりに長く冒険者やってるんでな。勝てない戦いをするほど馬鹿じゃねえよ。」
私を置いて言い争い始めた二人にもういろいろと面倒くさくなったので、追い剥ぎ三人サクッと殺して終わらせることにした。私はダンジョンに依頼と探検をしにきたのだ。
§
ギルドでたまたま居合わせたリスティアという子供。Cランクだと分かったときは衝撃で固まってしまったが、どうしても心配で後ろからこっそりと付いてきてしまった。
(だが、それで正解だった。)
Cランクだったとしても囲まれしまっては危ない。ましてまだ小さな女の子だ。おそらくは非常に強力なスキルを持っているのだろうが、対人では一瞬の躊躇が命取りになる。
目の前の男を見据えつつ、視界の端にリスティアと残りの賊を捉える。リスティアが囲まれている状況から抜け出せば、おそらくDランクであろう賊三人に負ける要素はなくなる。リスティアが人を殺すのを躊躇うのなら、隙だけ作ってもらって俺がトドメを刺せばいい。
「ヴァイスさん。ギルドでも言いましたけど、私もCランクなので大丈夫ですよ。」
「は…?」
少し呆れたような、平坦な声のリスティアの言葉に賊が理解を拒むような声を漏らす。
同時に、轟音。視界に捉えていたはずのリスティアの姿が消える。
「な、にが!?」
慌てて視線を向けるとリスティアは賊の一人がいた場所に立っていた。血に濡れた剣を持ち、足元には腰辺りで上下二つに分かれた賊が転がっている。もう一人の方も少し離れたところで同じように二つになっていた。
(殺した…のか。一瞬で二人を、声も上げさせずに…!)
「あ…は?なん、なに…?」
俺と言い合っていた男も何が起こったのかわからず混乱している。
「私は今日、依頼をやってダンジョンを探検する予定なんです。邪魔なんですよ、あなたは。」
剣の血を払ったリスティアが一人残った男に近づいていく。男はガタガタと震えている。
「ひっ…う、わぁああああああ!」
「さっきの言葉をお返ししますよ。…逃げられると思ってるんですか?」
悲鳴を上げて逃げた男に対してリスティアが声をかけ、再度轟音が響く。次の瞬間には男は二つに分かれ、リスティアは剣を収めるところだった。
(今度は、ちゃんと見た。リスティアはただとんでもない力で踏み込んでるだけだ。どんなスキルならそうなるんだよ…。)
「あ、ヴァイスさん。心配だからってこっそり後をつけるのは止めたほうがいいと思います。とくに私はCランクの冒険者だってわかってたでしょう?」
リスティアがこっちに歩いてきながら俺に注意をする。子供に叱られるのは初めてだ。
「いや、Cランクどころじゃ…あー、まあ、そうだな。悪かったよ。どうしても冒険者やってる子供を見るとな。」
見たものが衝撃的すぎて言葉が出てこなかったが、とりあえず謝っておく。実際リスティアには余計なお世話にしかなっていなかったようだし。
「たしかに私は小さいですけど、見ての通り大丈夫ですから。その優しさはほかの子にあげてください。それじゃあ私は行きますね。依頼をやらなきゃなので。」
「お、おう。邪魔して悪かったな。」
リスティアはそのまま森の中へ進んでいった。そして目の前の惨状を見て思う。
(ギルドに報告は…しとくべきだよなぁ。死体が消える前に誰かに見られたらイレギュラーモンスターが出たと思われそうだし。)
ただこの目で見てもなかなか信じることが出来ない事実を、ギルドが信じてくれるだろうか。
俺はそんな心配をしながら、賊に成り下がった冒険者の死体からギルドカードを回収して帰路につくのだった。




