1話
目の前で神聖な雰囲気を出している水晶玉に触れる。
私、リスティア・リーゼシュタウトは今日5歳になってスキルを授かった。
「リ、リスティア様の初期スキルは、『狂化』でございます…。」
「な、なんだと!?栄えあるリーゼシュタウト家から危険指定スキルが出たと言うのか!!」
神官がスキル名を告げると、父が愕然とした表情で言叫ぶ。
この世界では誰もが5歳でスキルを一つ授かる。そこから5年かけてスキルに慣れ、10歳から見習いとしてスキルを活かした仕事をはじめて15歳で1人前の大人になるのだ。
誰にとっても重要な初期スキルだが、貴族にとってそれは権威を守るためのものでもある。戦うためのスキルをもって民を守る、実りをもたらすスキルをもって民を豊かにする。だからこそ貴族は上に立つものとして認められる。今となってはほぼ建前に過ぎないが、それでもスキルが酷いものだと他の貴族に付け込まれる隙になる。
そしてリスティアが授かった『狂化』のスキルは危険指定スキルと呼ばれるものだ。その危険性から発動そのものを禁じられている、前世の罪に対する罰として与えられていると言われるスキル。
「お、お父様…。」
「黙れ。二度と私を父と呼ぶな。」
リスティアは天才だった。だからこそ5歳であっても、自分がどうなるのかをある程度察してしまった。思わず口から出た父への呼びかけに返ってきたのは、冷たい眼差しと突き放す言葉だけだった。
その後すぐにスキルの発動を封じる首輪の魔導具を付けられて馬車へ押し込まれる。行きは窓が開けられて街の人に手を振っていたが、今は窓は固く閉じられていた。
屋敷へと戻ると自室ではなく小さな物置きのような部屋に放り込まれた。
「この部屋から出ることを禁じる。お前の処遇が決まるまでここにいなさい。」
父は吐き捨てるように言って去っていく。
(直接殺されるようなことは多分ない。家族を手にかけるのは重罪だったはず。貴族は取り調べられるときに嘘を見破る魔導具を使われるらしいし。)
小さな部屋の隅で縮こまるようにして考える。3歳で文字が読めるようになり、今日までに屋敷にあるあらゆる本をすべて読みつくしたリスティアは多くの知識を持っていた。
しかし貴族の黒い部分など本になるはずもなく、自分にいったいどんな処分が下されるのかわからず不安に震えるのだった。
§
「リスティアは転送陣でミスティア大森林の奥地へ送る。すぐに準備にかかれ。」
「かしこまりました。」
リスティアの父、リーゼシュタウト家の当主であるグラン・リーゼシュタウトは書斎に戻るとすぐに指示をだす。
リーゼシュタウト家は古くから続く貴族だ。当然今までにも望ましくないスキルを授かった者もいた。そして、その対処も当たり前のように存在している。
この国では建国当初から家族殺しが非常に重い罪だった。それは直接であろうと指示だけして他の者にやらせても同じだ。絶縁した後なら構わないだろうと縁を切って殺しても罰を受ける。殺すために縁を切ったのだと暴かれるからだ。
だがどうしても家に置いておくと不都合がある者もいる。リスティアのような危険指定スキル持ちだ。
そういう者を処理するために考えられたのが追放処分である。絶縁して転送陣で追放する。その後野垂れ死のうと知ったことではない、という論法だ。
これも細かく追求されればアウトなのだがそうはならない。どこの貴族家でも同じようなことをしているからだ。わざわざ殺すことを指示してその証拠が出たなら話は別だが、そうでもなければ問題とされることすらないのだ。
危険の大きい魔境であるミスティア大森林に送るのも問題ない。危険指定スキルは神から与えられた罰とされている。それを贖うための困難であるで通る、というか通るようになっている。
最近はそもそも危険指定スキルが出たことが不名誉であるから、外向けには追放ではなく病死したと発表するのであまり関係はないのだが。
「ああ、それから死なないように食事は与えておくように。なにかあった時に探られて子殺しの罪を負わされてはかなわんからな。」
「はい。食事の内容は今まで通りでよろしいでしょうか?」
「死ななければなんでも構わん。転送陣の準備が完了次第送れ。首輪は外して回収するように。あれは教会に返さねばならんからな。わたしは立ち会わんが絶縁状は用意しておく。」
グランは追加の指示を出すとそのまま書類を処理し始めた。もはや会うことのない自身の娘への興味はなくなっていた。
§
「これより転送陣を起動し、ミスティア大森林の奥地へと転送します。今をもってリスティアをリーゼシュタウト家から除名し以降リーゼシュタウトを名乗ることを禁じます。」
「はい。」
あの日から一月ほど経ち、突然部屋から連れ出された。着替えさせられ、小さな荷物を渡されて大きな魔法陣のある部屋まで連れてこられ、そこで告げられたのは自分への処分だった。
その処分に特に言うことはない。小さな部屋で食事を摂るだけの一月は、すべてを諦めるには十分な時間だった。
この部屋にいるのは私と、私を連れてきた執事長だけだ。父も、母も、兄もいない。仲がいいと思っていた侍女もいない。今までは誰もが天才だと、勇者の生まれ変わりだと騒ぎ立てていたというのに。
ずっと自慢にしていた勇者の先祖返りらしい黒い長髪、それも今は家族との隔たりを証明するものに思えた。
「なにか言っておきたいことはありますか。」
「…なにも。」
スキル封じの首輪を外されて転送陣の中央に立つ。執事長に最後の言葉を問われるが言うべきことは思いつかなかった。私の返事にわずかに顔を顰めた執事長はそのまま転送陣を起動した。
「そうですか。それではさようなら。二度と会うことはないでしょう。」
足元の陣が光を放ち、視界が一瞬暗転して見たことのない深い森の風景に変わっていく。ざわざわと木々の葉がこすれる音が嫌に大きく聞こえるのは私の不安ゆえだろうか。遠くからは何かの遠吠えのような声も響いている。どれもこれも、屋敷で本を読んでいただけでは知ることの出来なかったものだ。
リスティア・リーゼシュタウト改めただのリスティア、5歳。現在地、ミスティア大森林奥地。捨て子です。誰か拾ってください。
新作が書きたくなっちゃったんですね。
1話2000〜3000字くらいあったほうがいいらしいので意識して頑張ってみます。
とりあえず今日4話まで、以降は月木の週2回更新で。
鬱展開にはしたくない(願望)




