斎場にて
「あ、どうも」
「こんな葬式来たくないもんだな」
「最後らへんなんかあいつ死にそうな顔してましたしね」
「狂気じみてるっていうか」
「どっかで病んじまったんだろうな」
「というか、あの人怖かったですよね」
「自分のことばっかりベラベラ喋ってて」
「ブツブツ独り言言ってて、いかにも話しかけて欲しそうで」
「仕方なく声をかけると妙に上から目線で話すし」
「厄介な奴だったよ」
「最初からそんな感じありましたけどね」
「あの話も気持ち悪かったですよね」
「自分以外どうでもいいって感じ」
「それが突然人が変わったみたいに意味わかんないことばっかり言っててさ」
「馴れ馴れしく話しかけて来るし」
「こっちの都合なんかこれっぽっちも考えないで」
「だからこうなってくれてホッとしたっていうか」
「お悔やみ申し上げます……」
「あんな部屋で何してたのかしら」
「汚部屋だったらしいけど」
「いくら一人暮らしって言ったって限度があるよな」
「女性用の小物や生活用品も多かったって」
「人に言えない趣味でもあったんだろ」
「そもそもあれ、ふつうの状態じゃないし」
「話通じない、ってああいうこと言うんだよね」
「というか、全部あの人の妄想でしょ?」
「服装も鏡見てないって感じで、まずは自分に気を使えよって」
「下手に休職とか面倒っすもんね」
「日に日にやつれていくのに誰も言わないって、まあそういうことですよね」
「ま、なんにせよ、ケリがついてよかったわ」
「この度はご愁傷さまで……」
「こっちもヒヤヒヤですよ」
「腫れ物ばっかりで参っちゃいますって」
「もう関わらなくていいことに、正直安心してます」
「お前の世話までは業務内容に入ってないっての」
「気付かない本人だけが幸せってことだろ」
「病みたいのはこっちだって」
「これでやっと仕事だけに専念できますね」
「今抱えてるお荷物も、みんな勝手に、なあ? ……してくれたらいいのに」
「ははは、さすがに不謹慎っすよ」
「でもホント、そう思いたくなるこっちの身にもなってほしいですよね」