31、青白き閃光
昨日のメレンゲクッキーは皆にたいそう評判だった。だったというか、それ以上に大騒ぎだった。
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「リオン、これすっごく甘いのに、
いくらでも食べれちゃう!」
「何じゃこのサクサクした食感は!
わっちは感激じゃ!
リオンを婿にして正解じゃ
のうそう思うじゃろ?爺」
「ゲフンゲフン、
それはさておき、
このお菓子は
今まで食べてきたものが
まるで泥団子のようですな!」
「……!!!」
まあ今までのお菓子事情を考えると、そうなるのはよくわかる。問題はその後だ。
「私、いま魔力が絶賛最高潮なの!
これなら、今研究している魔法陣
らくらく書けるわ!
ツバキちゃん、手伝って!」
といい、アナスタシアはツバキさんと玄関先の広場に出ていった。
ロウェナはロウェナで、
「なんと、この魔力の高ぶりよう
剣をふるいたくて仕方がないぞよ、
爺、久しぶりに相手するのじゃ!」
「受けて立ちましょう!
この爺、肉体が現役の頃に戻った感覚ですじゃ
思う存分やりましょうぞ!」
といって、こちらもすっ飛んでいってしまった。メレンゲクッキーは確かにうまい。シンプルな味で、それでいてついつい後を引き、いつの間にか食べすぎてしまう、そんなお菓子だ。でも、そこまで興奮するお菓子か?とも感じてていた。
「ガーン」「ギィィン」「ドゴー」
ダイニングでのんびりくつろいでいると、いきなり、家が震えるほどの、大音響と突風が吹き荒れる。何事かと慌てて玄関に急ぎ、外を確認してみると、空には火花があちこち炸裂し、そのたびに轟音が響き渡る。何やら高速で二つの物体がぶつかり合っているようだ。片方から大量の火球が放出され、もう片方が全て跳ね返し、その火球は地上に降り注ぐ、周りをよく見ると、あちこちから火の手が上がっていた。
「アナスタシアはどこ行った!」
慌てて探すと、玄関の少し前の空き地で、25m プールには収まらないほどの大きさの魔法陣を描き、一心不乱にマナを注ぎ込んでいる。その目は深い闇を見つめるようで、焦点が合っていないようだった。時折みせる少しニヤけた顔に、背筋が凍るような感覚がした。
上空から舞ってくる火球が数発、アナスタシアの方に向かい
「危ない!」
と思わず声を上げるが、シュっと人影が見えたと思うと、その火球は簡単に弾き返された。あれはたぶんツバキさんだ。
ほっと胸をなでおろすのもつかの間、今度は上空の二つがこちらに向かって飛んできて、そのうちひとつが玄関の真横につっこみ、遅れて衝撃波が届いて俺は後ろにふっとばされる。
「今度は何だー!?」
「あいたたた、ちょっと飛ばしすぎたかのう」
そう言って、ロウェナはムクリと起き上がり、それを空から見下ろす爺が続けて返す。
「どうですかな?
私の全盛期の力は!
降参ですかな?」
「何をたわけたことを
では、次はわっちの番じゃのう」
「もうやめて!
こんなの、立合のレベルじゃねー
家が、家がーーー」
俺の言葉は全く聞かず、ロウェナは剣を水平に構える。すると剣が青白く光だし、バチバチと不穏な音が響き渡る。剣は陽炎に包まれゆらゆらとゆれ、雷雨の後のような、空気が澄んでいてどこか鋭い匂いが漂い出した。
「フンッ」とロウェナは剣を一閃。風圧は尻もちをついた俺の頭をかすめ、家をスパッと水平に分断し、巻き上がる上昇気流とともに、上部は吹っ飛んでいった。剣先からは目を焼くような青白い光の一筋を放ち、それは雲に大きな穴を空け、そこから青空が顔を出す。
その一撃をかすめた爺は、「強くなられましたな……」と気を失い自由落下を始め、地面と激突した。
「ふん!爺も腕が鈍ったんじゃないのかえ?」
ロウェナは、そう言ってからからと笑い、勝利宣言をした。
俺は瓦礫からなんとか這い出し、屋根をほとんど残さない我が家をみて、
「俺の家、どうしてくれるんだ……」
と、ボーゼンと立ち尽くす。ロウェナは「何をいっとるんじゃ」と不思議な顔をし、向こうからスタスタとツバキさんが歩み寄り、さっと手をかざすと、家はバキバキと音を立て、あっという間に元通りになった。
俺だけ一人落ち込んでいたのを、馬鹿にされたような気がして、
「魔法のバカヤロー」
と気がついたら叫んでいた。
*****
やっぱり、昨日の皆の異変は、どう考えてもメレンゲクッキーのせいだよなあ。ローストビーフは、皆美味しそうに食べてくれていたけど、調子が良くなったとは聞かなかったし。俺の料理は、マナが含まれたり、そうでなかったり、法則がよくわからない。
そこにアナスタシアが、目の下にクマを携えて、ダイニングに入ってきた。
「やっと魔法陣が完成したの!
ちょっと一緒に見てくれる?」
そういやすっかりアナスタシアのことは忘れていた。まさか今の今まで一睡もしてないとかないよね?




