16、閑話 勇者の小休止
「アルちゃん、リオンの仕事はこれで終わりかのう?
元の世界に戻してあげたほうがいいかもしれんの」
《それなんだけど、まだ完了フラグたたないの》
「ふらぐ?そういう設定もあるんじゃな
妾も知らんことがまだまだ多いの
仕方ない、もう少し様子をみるか」
*****
魔王軍が飛び去ったのと入れ替わりに、伝令が黒い封蝋の封筒をもってきた。王は「今度はなんだ」と思い、ゆっくりと封を切った。
それは魔王の直筆で書かれており、要約すると
娘が早合点してそちらに向かったので、何かあってはと思い急いで書いた。
瘴気で土地が使えんので、国境付近の誰も住んでない高山地帯を貸してほしい。
翼があるから問題なく使える。そのかわり、瘴獣が王国にもれるようだったら助けてやるぞ
と言った内容だった。
ユグレナ国王は頭を抱えた。
「もう遅いわ。先に言え。何も悩むことなかったではないか……」
そう呟きながら、魔王も大変な娘を持ったものだと、心の中で同情していた。
*****
俺は勇者ということで迎賓扱いとなり、しばらく王城に滞在することとなった。
貴賓室に向かう途中、ボロボロになった兵士たちが次々と魔法で回復するのを見た。
「さっきはやばかったなー、足吹っ飛んでたしなー」「俺なんて、生き返るの3回目だぜ!」
バルコニーから城下町を見下ろすと、瓦礫の山だった建物が逆再生のように修復され、街の人々は何事もなかったかのように日常へ戻っていく……
「魔法ってすげーな。この国にはとんでもない魔法使いがうようよいるのか?」
「いえ、あれぐらいでしたら、誰でも使える魔法ですよ?」
付き添ってくれているアナスタシアがキョトンとした顔で答えてくれた。そういえば、これだけの被害を受けていながら、誰も気にしてないようだった。俺が知っているライトノベルで得た魔法世界のイメージが、ガラガラと音を立てて崩れていく。
「こんなの、チートもらったとしても、あまり役に立たなさそうだな……」
「ちーと?ってなんですの?リオン様」
「あ、ああ、勇者の特殊能力と言うか……
まあ俺にはないんですけどね」
期待されても困ると思い、正直に話したが、アナスタシアの瞳の奥が「ギラリ」と光ったかと思うと、
「とんでもない!!
先程、無の空間からお菓子を出現させたではないですか!
あんな魔法見たことありません!」
と「フーフー」と息を荒らげてギラつく目でリオンに一気に詰め寄った。その勢いに思わず後ろに逃げようとしたが、すぐ後ろにはバルコニーの手すりがあり、上半身がはみ出てのけぞった。
アナスタシアは「しまった!」という表情をうかべ、「コホン」と咳払いとともに一歩後退する。
「と、とにかく、ぜひ今度あの魔法を研究させてください。」
*****
そうして、アナスタシアに城下町を案内してもらったり、出現魔法(アルゴノスの転送)についてしつこく聞かれたりしつつ、特に目立ったことは起こらないまま数日が過ぎた。
ただ、アップルパイについて聞かれるのは辛かった。俺だって楽しみにしていたのに、あのロウェナが全て平らげてしまい、味見すらできなかった。こっちの世界でもいつかアップルパイを作ってやる!と決意したのだが、キクリからしばらく様子見てと言われたので、それはもう少し先になりそうだ。
「失礼します。食事をお持ちしましたので、ご用意させていただきます」
「おねがいしまーす」
アナスタシアの侍女がそう言って貴賓室に朝食を配膳する。
「いただきまーす」
と手を合わせてから食べる姿は最初の頃は侍女に珍しがられたが、今はすっかり慣れて特に反応はない。
パンとサラダと肉料理。と聞くと朝から豪華なような気がするが、基本この世界の料理はシンプルだ。
なんでも簡単に魔法で調理できてしまう分、焼くか煮るかの単純調理。味付けも塩コショウ程度。
空腹を満たせばいいという価値観なんだろう。
「肉も野菜も新鮮で、
こんなシンプルな料理でも十分うまい!
とはいえ、少し飽きてきたな
自分でなにかできないかな
今度一回厨房みせてもらおう」
*****
神界で、キクリがアーカイブに保存しておいたロウェナとのやり取りを見返して、一人ゲラゲラ笑っていた。
その傍ら、アルゴノスは独り言をつぶやく。
《リオン、いえ、私の勇者
あなたにやってもらいたいことは、
これからが本番なの
あなたの世界のためにも……》
第一章はこれにて完了です
4話ぐらいで終わるかと思ってましたが16話にもなってしまいました!




