10、どう考えても無理ゲー
「この決闘、受けて立とうぞ!」
と、ロウェナがドヤ顔で高らかに宣言。
俺はとても良くないこの状況をなんとか回避しようと、「投げるつもりはなかった」「たまたまあたってしまった」「本当に申し訳ない」といろいろ言い訳したが、ロウェナは俺を見下ろすばかりで一切聞く耳を持ってくれなかった。
「ごちゃごちゃうるさいわ!
決闘はわっちの宣言を持って成立済みじゃ
それよりまず名を名乗るのじゃ!!」
「ひぃぃー、松平 理央と申しますううう!」
このお姉さん怖い!!!俺よりも高身長なのに加え、背筋をピンとはり、そのモデルのような姿勢から見下されるのは迫力がある。顔も相当美人なんだろうか。怒った顔がきつすぎる!
「マッデーライオー?」
「あ、あ、いや、リ、リオンとお呼びくださいぃぃ」
思わず本名を名乗っていたことに気が付き、キクリにつけてもらった名前に言い直した。反応からしてもキクリが言うようにめんどくさい名前なんだろう。
周囲の者は「なんて情けない勇者だ」「そんなんで決闘申し込むとは……」などと思っているが声には出せない。目配せで、皆も同じ気持ちだと察した。
聖女は聖女で「こんなはずじゃなかった」「ありえないありえない」「私の研究は完璧なのよ……」と蚊が鳴くような声でブツブツいっている。
「そうか、リオンと申すか。ちと説明してやろう。
うぬが負けると、わっちの命令に従うしきたりでな……
そうじゃのう、今までのやからと同じ様に
魔瘴境に住まう魔竜のもとに遠征にいってもらうとするかのう……」
「「「ひぃぃぃ」」」と今度は魔族たちが恐怖で体をこわばらせている。
こんな屈強な奴らがビビっている。どんなところかわからないが、ヤバそうなところとだけはビンビン伝わってくる。まずい、俺にはそもそもチートがない。そんなところでやっていけるわけがない。
それもそうだが、俺の爆発体質がどんな暴走するかもわからない。
それだけは勘弁してほしい。
「あのう……、もし、私が勝ったら……」
ロウェナはその言葉を遮るように「はっ!」と一蹴した。
「この決闘で勝てると思っているのかえ?
勇者はおもしろいことを言うのう
わっちはな、この決闘は 100 戦全勝なのじゃ
お前のような貧弱なものに負けるわけなかろう!!!」
はい無理ゲー!そもそも遠征の前にここで命が大丈夫かどうかもあやしい。
俺はインドア派なんだ、体育はいつも最低評価、勝てる要素なんて一つもない!
ここはキクリにお願いして一旦リセットしてもらおうか。
次はこんなことにならないよううまく立ち回らないと……
「もう御託はいいかえ?そろそろ始めようぞ。
こんな茶番さっさと終わらせて、そこの王と会談せねばならんのでのう
得物は好きにえらんでええぞよ?」
ロウェナはキクリに連絡する暇も与えてくれない。得物って武器?いやいや、そんなの使うのは映画の中だけでしょ!?!死ぬって!痛いって!まじで絶望感しかない。もう吐きそう……
「得物って言われても……格闘どころか、運動も嫌いでして……」
「なんと!そちはほんとに勇者なのかえ?
それとも庶民を召喚したのかのう
のうアナスタシアとやら」
聖女は言い返せず「ぐぬぬ……」とどこからかハンカチを取り出し食いしばっている。
「全く持ってつまらんのう。
でもな、決闘はせねばいかんのじゃ。
なんでもいいぞ?お主の得意なもので受けてやろう」
それには思わず魔族の側近が反応し、何が起こるかわからないからという理由で必死にやめてくれと説得したが、ロウェナは聞き入れる気配がない。
ロウェナはいい加減苛立ち、
「何が得意なのじゃ!!!!」
「お、お菓子作りぐらいしか……」
沈黙していた周囲も、これには思わず声を上げた。
「お菓子ってバカにしてんのかコノヤロー」「勇者様……ナチュラルに馬鹿にしすぎです……」「おわった、おわったー」
思わず気迫に押され口走ってしまったが後の祭り。あちゃーやってしまったー。バカにしたとかで不敬罪で死刑もあり得る展開だ。
『キクリ様、キクリ様ー、アルゴーーーーお願い助けてーーーー』
必死に叫んだが、何も反応がない。またサボりかーーー!
古代語に近似したリオンの声は誰も意味がわからない。
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「アルちゃん、ちょっとかわいそうじゃの。助けなくていいかのう?」
《うーん、もうちょっと様子みてみよっか。リオンなら大丈夫かもよ?》




