表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
豪商の末っ子は、窮地に立つか。  作者: デンノー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/71

6


 ビクター兄さんには、マイケルと話した翌日に学園に行くことを伝えればすごく心配された。

 勉強の遅れが云々と言えば、それ以上何も言わずに復学する手続きを進めてくれたのだ。僕の口先だけの勤勉さに心打たれたようだった。


 何ごとも、建前は必要なようで、正規の手段での復学はあまりにも時間が掛かる。

 それでもと、後の憂いにもなりえることは先に潰しておくに限る。

 マイケルからは、適当に言って通い直せばいい。とか言われたがあいつは論外である。


 結局のところ僕が学園に復学できたのは、休学してから五十三日目である。ビクター兄さんに話してから二十二日と、なかなかに時間が掛かった。

 その頃には顔の装具も包帯も必要なくなった。

 ただ顔にはまだ青い痣がうっすら付いている。もちろん触れば痛い。


「大変だったね。勉強ついていけてる?」


 僕に聞いてくるアースコット教授。

 僕は学園の講義が終わって、以前のように教授の部屋にお邪魔している。いつもの締め切りの日だ。

 もちろん休学していた分、講義内容は進んでいたが問題ない。全部習っている範囲だ。

 ビクター兄さんには、遅れがとか言ったが別にたいした事じゃない。


「大変っていうか、ちょっと他人事みたいな感じですよ」

「現実を直視できていないんだ。……悩みがあったら聞いてあげるよ」

「悩みというなら、教授。締め切り過ぎてますよ」


 それ以外で。といい笑顔で返す教授は、僕に以前淹れてくれた飲み物を今回も淹れてくれた。

 そんな暇あるんなら、書いてくれよ。


「正直さ、ネタ切れだよね」

「副業終了ですね。契約満了ということで」


 教授はもう無理か。魔術書を書いてくれる新しい人、探すしかないか。

 結構いい感じに買う人もいたからその人達も残念がるだろうな。仕方がない。

 

「いやいや、今さ、レインフォード学院から資料取り寄せてるから、待ってよ」


 レインフォード学院。王国の魔術研究機関で魔術師育成機関。

 最新の魔術開発と数多の魔術師が日々研鑽する魔境。

 マナの少ない僕には一生縁のない話である。

 アースコット教授は、そんな他国のすごい学院に最新の魔術書を取り寄せてると言ったが、そんなコネがあるような人には見えない。

 

「本当ですか? 嘘だったら学園に言いますよ」

「本当だって! 僕ってレインフォード学院の卒業生だよ!」


 それは知っている。だから教授には割高の依頼料を払ってでも、魔術書の作成をお願いしているのだ。


「じゃあ、いつ取り寄せた資料が来るんです? 来年?」


 僕が心配しているのは、アースコット教授が期日をしっかり学院に伝えているかどうかだ。

 以前も同じような事をしていたが、その時はまさかの半年後とか返されていた。

 さすがに僕も、学院の一に問い合わせたけど。結構感じが悪かったのは覚えている。一緒に仕事したくない系の人だったよ。


「もう近頃届く予定だからさ。大丈夫だって!」


 アースコット教授が言う近頃がいつかは聞かない。そこは信用するとしよう。

 僕は教授の淹れてくれた飲み物に口を付ける。

 ほのかに香る花の香りと、砂糖のように甘く飲みやすい舌触り。


「教授。これって砂糖入ってます?」

「さすが大商会の息子だね! 少しだけ入れているんだよ」

「なるほど、お金の無駄使いしたかったらこれからも魔術書の件、よろしくお願いしますね」

「一応の、さ。取引相手だからね。いつもだったらこんなことしないよ」


 乾いた笑いが教授から出てくる。

 砂糖は、単純に高いのだ。それを僕のような生徒に入れるとは。

 ちょっと、僕と一緒に仕事しだしてお金が入ったからって気持ちが大きくなっているようだ。


「話変えよう! ね!」


 教授が切り出す。

 そんなに詰められて困る話でもないだろう。

 砂糖の一匙で貧しい人がどれだけ救えるか。とかは別に言うつもりはないし。


「締め切りだけじゃないでしょ。今日は」

「まぁ。教授と一緒に依頼した書類の受け取り日ですから」

「渡す書類忘れてる?」


 慌てて机の書類を手当たり次第に確認する教授。

 僕はその姿に、ビクター兄さんの面影を感じた。

 

「前に教授に相談した事ですよ。今日事務員さんがここに持ち込む手筈じゃないですか」

「あぁ、あれか! 思い出したよ!」


 もうそれもらってたんだよね! と僕に答える。

 もらっていたのなら、すぐ渡して欲しいものだ。というよりこの話は、五日前にしていたはず。

 そんなに前の話でもないだろう。


 あれー。どこに仕舞ってたっけ? と教授が机の書類をまた確認しだす。

 本当にこの人ってビクター兄さんとそっくりだよ。

 あーあ。書類の机からこぼれてるじゃないか。

 僕も、書類の整理を手伝う。一枚ずつ適当に積んでいた紙が散乱して見てるだけだったらこのまま日を跨ぎそうだ。


「なにやってるんですか。教授」

「ごめんよ。ファビオ君ありがとう。その書類もらうよー」

「これですね。整理くらいしてくださいよ。いい大人なんだから」

 

 書類を整理していれば、女性の肖像画が何枚も書いてある紙が見えた。

 すごく丁寧に描かれているそれは、女性の特徴をちゃんと描写されていた。


「教授。この紙の女の人って……」

「あぁ! それそんなところにあったんだ! 良かったよ」


 ありがとうね。と僕から紙を取ろうとする教授。

 その手を躱して教授を見る。なにか面白い話が聞けそうだから仕方がない。

 正直、口角が上がってくる。


「へぇ、絵の趣味あったんですね、教授。恥ずかしからなくてもいいじゃないですか。上手ですよ」

「それは、見合いの資料だよ。何を勘違いしてるんだよ。全く」

「教授が見合いですか?」

「私も年頃の男だからね! それくらいはあるさ」


 優良物件でもあるしね。と言ってくるが、教授にはその気はないと思っていた。

 見かけによらずってやつだね。


「この見合いって、もうしたんですか?」

「やったんじゃないかい? 私は行ってないからどうなったか分からないけど」

「行ってないって。それって結構やばいんじゃないんです?」

「親が勝手に組んだ見合いだからね」


 心配性が過ぎるんだよ。と捨て台詞。

 本人が了承していない見合いだから嫌ってことか。


「でも、アースコット家の後継問題はどうするんです? 結構有名じゃないですか」

「姉さんがなんとかするでしょ。私は姉さんの後でいいんだよ。あと人様の個人的な事情に突っ込まない」


 すみません。ととりあえず謝っておく。結構な問題だと僕は思うんだよ。

 アースコット家ってのは、この国でも結構な名家で地主の家である。

 その歴史は、国を興した貴族様よりも古いと言われている。

 そんな家の男子なのだから、それは見合いの一つ二つは組んでくるだろうよ。

 

 それに、教授が自身を優良物件と例えたがその通りだ。

 まだ、三十歳を少し超えた程度の年齢で学園の魔術課教授。 肩書きも収入も平均の何倍とあるのだ。

 その人が身を固めていないのは逆に不自然さすらある。


「これだ! 捨てたかとおもったけどあったよ。確認してみてファビオ君」

「こんなに散らかしてやっとですか」

「まぁいいじゃないか。ほら」


 少し、探せば教授が目当ての書類を見つける。僕に二枚の書類を渡してくる。

 事務員さんはちゃんと仕事してくれたらしい。

 僕は、教授から書類をもらう。


「そんなの調べて何になるんだい?」

「お金になります」

「学生の情報を売るのかい? 犯罪だよ?」


 情報を売るんじゃないよ。本を売るんだよ。

 そんな姑息な商売は、本屋経営から外された時に忘れることにしたんだよ。


「本当に大丈夫かい? 一応僕が監督するって事でその書類を見れているんだよ?」

「その節はありがとうございます。快く受けてもらって助かりましたよ」

「何故だろうか。お腹が痛くなってきたよ」


 もらった書類は、特例中の特例の書類である。

 ライフアリー商会の影響力を全力で使った結果、なんとか見せてもらえた。

 書かれている内容が内容だけに、さすがに監督する大人がいる部屋で閲覧し、持ち帰らずその場で速やかに燃やす事を条件にされた。

 だから、覚えて帰らないといけない。もし写して帰ったのがバレたら退学ではすまなくなる。


「あった。こいつだ」

「この女の子が何したっていうんだい?」

「こいつが僕の顔に痣を付けた元凶ですよ」


 この子に殴られたのかい? そんな印象はなかったけど。と返される。とにもかくにも僕の平穏を潰したのは許せない。

 こいつもエリー姉さんにぶん殴られろ。


「えぇっと。ディオネ・スカンタール君か……知らない子だな」

「僕も知らないですよ」

「でもこの子なんだろ?」

「はい、あの日。最初の講義を受ける前に早退しています」


 それに、こいつの住所がそれを決定づける。

 この都市に唯一ある貧困街。その近くの孤児院がこいつの住所だ。

 このディオネっていう女が書いたのか。それとも別の人間が書いたのかは今のところは分からない。

 ただ、こいつが元凶なのは決定だ。


「教授。ありがとうございました。もうこの紙要らないです」

「あぁ。本当に大丈夫だよね?」

「大丈夫ですって。ほら、どこにも写してないじゃないですか」

「うさんくさいんだよなぁ」


 うるさいぞ。大丈夫だって。

 僕は、教授に二枚の書類を渡す。

 怪訝な顔をしながらその書類を陶器皿の上に置いた。


 魔法陣が教授の手から現れて、書類は端から丸まるように燃えだす。


「じゃあ、今日の所はこれで終わりだね」

「はい。けど締め切りは過ぎてますからね。出来上がったらいつでも呼んでくださいよ。呼ばなくても来ますけど」

「毎日は遠慮したいね。砂糖がなくなる」


 では。と教授に挨拶をして部屋から出る。

 学園の外は既に日差しが傾いて、窓から差し込んでくる。

 眩しい光に目を細めて廊下を歩く。


 今から、明日は休むことを事務員に伝えよう。

 明日、未来の専属作家に会いに行こう。

 それから、ディオネという女の顔も見ておいてやろうじゃないか。エリー姉さんに殴られる前の顔をだ。


 あぁそうそう。あの二枚の書類はエリー姉さんとライアンさんが喧嘩した日に欠席していた学生と早退した学生の一覧とその学生の現住所が書いてある結構な個人情報が書いてある書類だ。

 この計画の立案者はマイケル。ガットマン。実行役は僕だけど。


 けどこんなに早く見せてもらえるとは、僕も正直思いしなかった。

 商会の力様々である。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ