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豪商の末っ子は、窮地に立つか。  作者: デンノー


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 ディオネとの言い争いが原因で、結局ライアンさんに実家まで、連れて行かれることになった。

 ライアンさんも、一応は僕と将来の縁戚になるのだろうけど、僕たち三人は商会の敷地に簡単に入れた。

 

 ちょっとゆるい気もするが、あの時はそれどころじゃなかった。ディオネも、敷地に入ってから意味もなく泣き始めたが、遅すぎる。

 学園で泣いておけば、ライアンさんを止めてくれる人がいたかもしれないのに。

 警備員も敷地内ですれ違った人も、泣くディオネの事は気にせず、ライアンさんと挨拶をしていた。僕にも挨拶しておくべきだと思ったが、あの状況で僕に挨拶しても僕が恥ずかしいだけだと今なら思う。




 実家の前について、ライアンさんが先に、実家に入った。エリー姉さんの様子を見に行ったが、当の本人は所用で外出していたらしい。

 謹慎のはずなのに、外出していいのかと不思議に思う僕たち三人は、結局その場で解散となった。

 あと、エリー姉さんに謝る日が決まったのは、良かったと思う。僕の覚悟もその日までには、決めておかないといけない。






 * * *






 あの日から七日が過ぎて、エリー姉さんへの謝罪まで残り三日となった。

 僕はといえば、ゼクラット書店でマイケルと店番をしている。

 いつもの日常を過ごしているのだ。


「なかなか、大変な女の子だね」


 そんなことを言って笑うマイケルは、学園で一悶着あったディオネの話を聞いて、終始笑っていた。

 僕はそんなマイケルに、「大変っていうより、とんでもないですよ。本当ですよ」と返す。どこが笑いのツボか分からないマイケルは、僕の言ったことにまた笑い出す。

 書店の中で本を物色していた客が、マイケルの方を見て迷惑そうな顔をした。


「でも、そんな子でも作家としては?」

「才能……あるんでしょうね、悔しいですけど」


 なにせ、書いた本のせいで狙われるなんて信じられない話が、ディオネに起こっているのだ。

 僕たちも、気をつけなければいけない。才能があればだけど。


「本当、すごいよね。この前まで暇だって言ってたファビオ君が、今は休みたいって」


「ほどほどがいいんですよ、なんでも」


 そう返してはいるが、実際休みたい。

 療養中は殴られたせいで、顔の痛みがあったけど暇で退屈な日が多かった。

 包帯を顔にグルグル回して付けている僕が、書店のカウンターに立つのを控えたのだ。たまに立ってたけど。


 それに比べて、『深窓の令嬢の知られざる本性』の作家を調べたり、見当付けてマイケルと探しに行ったら大当たりだったし。

 更にはその作家のせいで、商会ギルドとかいう、僕にはよく分からない連中まで出てくる始末だ。

 

 加えて、ディオネをエリー姉さんに謝らせない。忙しさの差が大きすぎる。そんなものずっと平坦が良いに決まっている。


「で、ディオネさんのことはどうするの?」

「ああ、それは……」


 僕はカウンターに置いてある帳簿から顔を上げる。


「まだ決めてないんですよ。というか、彼女の意向も聞いてないし」

 

 マイケルが僕に、ディオネの事を聞いてくる。僕の悩みのタネは、ディオネをこのゼクラット書店に、どうやって専属作家として入ってもらえるかだ。

 あれほど注目された本を出している彼女を、書店で囲って本を出版すればそれだけで売れるはずだ。


 入ってほしいに決まっているだろ。それだけで僕たち金持ちになれるかもしれないんだから。


「ファビオ君、顔気持ち悪いよ」

「なんですか急に、そっちこそ気持ち悪いですよ、顔」


 マイケルの口角が上がる。僕も上がっているけど、誰だって良い意味で忙しくなるのは大歓迎だ。今は、悪い意味で忙しいからダメだ。

 





 本を立ち読みしていた客も捌けて、書店には暇な時間が流れていた。マイケルに至っては、休憩室で仮眠すら取っている。

 カウンターに保管しているお金の計算も終わって、書店の前の掃除でもしようかと、店先にでれば雰囲気の悪そうな一団が、書店を見て入ってくる。

 一番背の高い男を筆頭に、若い男が複数人。派手な色の服を上下に着ていて、見ているだけで目が回りそうになるくらいだった。


「ここがぁ、あの本の書店かい?」


 一団の中で、一番偉そうにしている背の高い男が、子分を引き連れて店を見て回る。

 邪魔にならないようにカウンターに戻って、強盗じゃない事を願う。さらっと店内を見る一団は、すぐにカウンターにやってくる。本を探しているわけではなかった。

 全員の手を見るが凶器らしいものは、持っていない。


「あんたさ、あの本どこにあんの?」


「どの本の事でしょうか?」と、返す僕に少し苛立った様子の背の高い男。

 男の様子からして、「分かるだろ?」と言いたげだったが、初対面の僕には、目の前の男の指すあの本のことなど分からない。


「あぁ? ……こいつ自分らが出した本のことしらないってよ!」


 男がカウンターを叩く。木のカウンターから大きな音が鳴るが、カウンターは無傷だ。

 喧嘩腰な態度が目立ち出す一団に、僕は休憩室にいるマイケルを、呼びに行きたかった。

 

「まぁ、落ち着いて――」

「落ち着いて? 俺は十分落ち着いてるよ、なぁ皆」


 すぐに返してくる男に、周りの子分はニヤけて「そうだぜ、面白いこと言うじゃん」と、他の子分の声も聞こえる。

 背の高い男は、腰のベルトに挟んでいた本を取り出して、僕の前に突きつけた。

 

 『深窓の令嬢の知られざる本性』と書かれた本だった。

 背の高い男に「この本がどうしたんですか?」と言えば自信ありげ男が口を開く。


「この本を出版したのはオタクらだよなぁ?」


 なんで、こんな男がこの本を持っているのかは分からないけど、闇市で売ったディオネの事だから、巡ってこの男に着いたのだろう。


「これですか? ウチじゃないですけど?」

「とぼけんなよ。この紙、ライフアリーが下ろしてる高級紙だろ?」


 ずっと、得意げに本をめくって話す男と、後ろでニヤける子分。僕のこともある程度分かってて聞いていた。

 底知れない気持ち悪さがある問い掛けに、僕の返答を待たすに男がまくし立てるように言ってくる。

 

「じゃあ、その紙を誰が使うのかなんて、誰でも分かるよなぁ」


 男は、この書店で本を作ったと言いたいのだ。簡単に「違う」と、言いたい気持ちを抑える。

 ここでもし、僕がディオネの事を話してしまうと、それこそ本末転倒ってところだろう。というか、この一団が商会ギルドに入ったライアット通りの人間って事は、薄々分かっていたけど。

 

 こいつらは、ビクター兄さんに言った通り、ディオネを探しているのだ。


「確かに、同じ品質の紙はウチで扱ってますけど、この本はウチで取り扱ってないですよ」


 間違っていない。ゼクラット書店はその本を扱っていない。紙は売ったけど。

 本も取り扱いたいけど、それは今後のディオネ次第だ。


「嘘じゃねぇだろうな?」

「嘘なんてついてどうするんです?」


 僕は、肩をすくめて男に話す。あぁこれも言っておいた方が良いか。


「調べたいなら内務局に――」

「内務局って何だよ」


 背の高い男が、食い気味に割り込んでくる。僕が話してる途中なのにも関わらず、後ろの子分も「なんで内務局?」と分かっていない様子だった。

 

「だから、調べたかったら、内務局にでも問い合わせたらどうです?」


 こいつらが、内務局のあの岩頭と打ち合わせできるんだったらね。


「何でそんな所に行くんだよ!?」

「本気で言ってるんですか? 本の出版は、内務局への申請が必要なんですよ」


 背の高い男は、僕の言葉に答えられないのか黙ってしまう。

 別に内務局には公安課もあれば、法務課もある。色々な部署が入って内務局になっているから、担当の課に行けば問題ない。

 しばらくの沈黙の後、黙る男に焦ったのかヒソヒソと話し出す子分。こいつら本の出版の事知らないのか? 商会の人間だよな?


「すまんなぁ、坊ちゃん」


 一団の後ろから、突然、しゃがれた声があがった。

 背の高い男と子分が、声を聞いた途端に、割れるようにカウンターから引いた。

 店の入り口の方からは、所々に白髪が目立つ猫背のおじいさんが杖を持って歩いてくる。


 「マックス! 変なことしてねぇだろうな?」と、さっきより低いドスの利いた声が、そのおじいさんから聞こえる。蓄えたひげが口を隠しているから、その人相はよく分からない。

 背の高い男――たぶんマックス――が、「変なことなんてしてねぇっす」と言えば、子分も頷いて同調していた。

 おじいさんが、カウンターの横にいたマックスを、杖でどけるように当てて下がらせる。

 カウンターで対面する僕に、おじいさんは柔やかに笑う。


 

「俺はオーゲン商会を代表してるオーゲンってもんだ」


 

 オーゲン商会が僕の書店に来た。思っていたよりちゃんとディオネを探しているのか?

 おじいさん、じゃなくてオーゲンは、カウンターの側に杖を置いて腕をカウンターに置いた。


「いい高さのカウンターじゃ、わしもこれくらいのがほしいよな、マックス」


 オーゲンさんの言葉に、「そうっすか」と、さっきの勢いが全くないマックス。そんなマックスを横目に、ふん。と鼻を鳴らすオーゲンさんは僕を見る。


「さっきのオーゲン商会のオーゲンって言ったけどよ、すまん間違えたわ」


 そう言って笑ったオーゲンさん。


「商会ギルド、デミストニア支部の支部長代理のオーゲンだ」


 そう言ってから僕を凝視するオーゲンさんの視線は、射貫く矢のような鋭さがあった。

 僕が、嘘をついているか確かめたいのだろうけど。僕だってそんな目はいつも家族からもらっているのだ。


「どうも、ゼクラット書店のファビオ・ライフアリーです」


「おう、よろしく」と、僕の目から視線を外さないオーゲンさん。ずっと見ている。


「本買って行かれます? 良い料理本ありますよ」

「いらねぇ、俺は外で飯食うからよ」


「そうですか」と、僕が返してもまだ視線を外さない。いい加減しつこくない? マイケル、早く来いよ。休憩室から物音聞こえてるぞ。


「じゃあ、もう店閉めたいんですけど――」

「マックスが見せた本のこと、あんたのところじゃないんだな?」


 はぁ、聞いてくると思ったよ、それ。

 その視線のしつこさは、オーゲンさんの商売手腕なのかな? それとも、ちゃんと怒っているのだろうか?


「ウチが扱っていれば、もっと売れてるでしょうね」

「チッ、零細書店のくせに偉そうによ」


 なんだとこの野郎!? 年上だからって言って良い事と悪い事くらいわきまえて話せよ!


「そうですね……でも、内務局も知らない商会には負けないでしょうね」


 オーゲンは、その言葉に目を見開く。

「おい、マックス」と言えば、当のマックスは、その高い頭をオーゲンの近くに寄せる。


「てめぇ、内務局のことちゃんと勉強したんだろ? 恥掻かねぇようによ」

「あー、その、まだ途中で……最近忙しくて――」


 オーゲンの拳骨が、マックスの頭を襲った。ゴン、といい音で鳴ったそれに、涙目で食いしばるマックス。

 とても痛そうなその拳骨を見て、いい気味だと思った。

 マックスが僕を睨み付けるよう見てくるが、自分の勉強不足だろ? 自業自得だよ。


「まぁ、坊ちゃんが嘘ついてるように見えねぇからよ、今回はこれで勘弁してやる。おい、マックス! そんな強く殴ってねえぞ!」


 オーゲンは、手をカウンターから杖に持ち替えて、書店から出て行く。

 マックスもその後についていけば、子分もまとめて書店から出て行った。


「じゃあ店じまいするね、ファビオ君」


 奥からマイケルが素知らぬ顔で、書店を閉めようと戻ってきた。まだ、日も傾いていないのに、何言ってるの?


「まだ、ですよ。何言ってるんですか」

「だって、もう今日は閉めるっていってたじゃないか」


「まだ閉めないですよ、あの連中は、ああまで言わないと帰らないでしょ、それに僕は忘れないよ。マイケルが薄情者だってこと」


 マイケルは、カウンターに戻って店番を続ける。

 横で文句をブツブツと言っていたけど、もっと早くこっちに戻ってくれないと、僕がオーゲン商会に目を付けられたみたいじゃないか。

 

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