宇宙人、お誘いを受ける。
可愛い姫林檎をエトラさんから頂き、ホクホクしながら仕事をしたけれど、ちゃんと友達の範囲内‥だよね?大丈夫だよね?!
女子校から女子しかいない短大と進んだので、お友達のさじ加減がわからない‥。でもまぁ、エトラさんはそもそも宇宙人だからきっと関係ないはず。うん、そうに決まっている。そんな風に納得した直後、お昼のチャイムが鳴った。
「お昼行ってきまーす」
デスクの上の姫林檎はちょっと迷ったけれど、せっかくだし‥と思って、おにぎりが入っているバックに入れて教授の部屋まで行こうとすると、
「イト!」
「え?」
後ろを振り返れば、ちょっと耳がパタパタと動いているエトラさん。
わ、わーーー!!周りの人が見てる!見てるから!慌てて腕を掴んで、急いで中庭へ飛び出した。
「イト、どうしたんですか?大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です。ちょっとその、耳が動いていたから‥」
「そうだった!耳も気をつけて、言われてた!」
慌てて自分の髪に紛れている耳を押さえたエトラさん‥。
今は外に出たからまぁ、大丈夫だと思う。でも感情が見えちゃうのは大変そうだな。困った顔で耳を押さえたままのエトラさんを見上げ、「今はもう大丈夫だと思いますよ?」と、言うと、
「‥でも、まだ嬉しいから、」
「くっ!じゃあ、あっちの方へ移動しましょう‥」
か、可愛い‥。
シュンとした顔に申し訳ないけれど、小さく笑ってしまう。
本当にすごく素直に嬉しい気持ちを出す人なんだな‥。それでもって一緒にお昼を食べるの楽しみにしてたんだな‥と思うと、私まで耳が動いてしまいそうだ。
人気のない、ベンチの方へ一緒に行ってから周囲を見てからエトラさんに「もう大丈夫ですよ」と、言うと、そろっと手を離してから耳をパタパタと動かし、フーッと息を吐いたエトラさん。
「教授にも星の話を聞いていると耳が動きそうだから、ヘッドホンしなさい言われた‥」
「それじゃあ講義が聞こえなくなっちゃうのに‥」
「うん、ちょっと不便‥」
「そっか、それはお疲れ様でした。そんなお疲れのエトラさんに約束のおにぎりを握ってきたので食べませんか?」
「食べる!!!」
パアッと顔を輝かせ、耳まで両方浮いているエトラさん。
ま、今はいいか‥。一緒にベンチに座って、おかかと鮭のおにぎりを手渡すと、「二つ!!二つ大好き!」と、顔をますます綻ばせた。
「そういえば姫林檎ありがとうございます。可愛いのが二つもあって嬉しかったです」
「良かった〜。二つあればとても幸せ」
「二つが好きなんですか?」
「はい!二つが好きです。一つも好きだけど、二つなら分けあえる。あと二人になると嬉しい」
「なるほど‥、確かに分けあえて良いですね」
「はい!だから林檎二つにしました」
分け合えるから好きなんて‥、宇宙人って感性がすごく可愛い上に優しいなぁ。そんなことを思いつつ、エトラさんは私の大きく握ったおにぎりを大事そうにまた一口ずつ食べるので、宇宙人が怖いかも‥という印象は今や宇宙の彼方へ飛んでいった。
ただ、お付き合いはできない。
お友達でいる為にはプラネタリウムのチケットを貰ったけれど、一緒に行くとなると誤解を生むかもしれないから叔母のしいちゃんと行こう。そう心に誓っていると、エトラさんが私を見て、
「今日、すごく楽しみだった」
「え?」
「お友達、嬉しい!一緒にご飯を食べるのも、交換こも全部嬉しい。イト、ありがとうございます」
パーッと金色の光を発するエトラさん‥。
ううっ、優しさが!素直な純粋な気持ちが!私のどこか打算的な所を明るく照らし出す〜〜〜!!眩しさに目を細めると、エトラさんは「あ、光!」と、急いで光源を弱めてくれたけど、耳が嬉しさが押さえきれずにパタパタと上下している。
‥‥‥行くか、プラネタリウム。
こんな優しい人に、あれこれ考えても仕方ない。
多分エトラさんは全人類に優しい人であって、私限定ではないだろう。それなら色々考えず、エトラさんを守りつつ地球を楽しんでもらえればいいではないか。
美味しそうにおにぎりを食べるエトラさんに体を向け、
「プラネタリウム、エトラさん一緒に行きませんか?」
「プラネタリウム‥?あの、地球の星を見られるもの、ですか?」
「はい。宇宙からいらしてますし、散々見てるでしょうけど、地球の星座を見に行きませんか?」
私の言葉にエトラさんは一瞬目を見開き、それからまた身体中から金色の光が溢れ出した。
「わーーーー!!ちょ、ちょっと金ピカ過ぎます!!エトラさん、ちょっと抑えて‥」
「イト!イトありがとう!!嬉しい!お誘い嬉しいです!!」
「ど、どういたしまして!でも、あの光を〜〜〜!!」
アワアワした私はお弁当を包んでいた布でエトラさんの顔だけでも!と、思って被せるとエトラさんはまた驚いた顔をしてから私を見上げ、ふにゃりと嬉しそうに微笑んだ。あの、だから光を抑えて?