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宇宙人、交換こ。


翌朝、大きなおにぎりを二つ作った。

おかかと鮭。タラコは‥私は大好きだけど、まずは無難な物からチャレンジするのがいいかなって。


「あらあら、今日は随分と大きなおにぎりを握って‥」

「あ、お婆ちゃんおはよう」

「おにぎりを見ると、食べたくなっちゃうわね。私も作って食べようかしら」

「それなら私が握るよ。タラコとおかかでいい?」

「ありがとう!じゃあそれでお願い」


お婆ちゃん‥というより、孫の私がいうのもなんだけど可愛らしいおばちゃんなんだよなぁ。ラップにお米を置いてちゃちゃっと音を立てながら握ってタッパーに入れると、お婆ちゃんは私を感慨深そうに見つめ、


「‥あの小さかったイトが、おにぎりをあっという間に作れるようになって」

「お婆ちゃん、そんなしみじみ言わなくても」

「そうよね。洗濯物にティッシュを入れっぱなしだったし、まだまだ子供よね」

「‥‥それはもう、はい、大変申し訳なく」


昨日は宇宙船に帰るといって、パッと消えたエトラさんにあんまりにもびっくりして、ポケットの中を確認せず洗濯してしまったのだ‥。でも、今回はたまたまだよ?



「事務員は忙しい?大丈夫?」

「忙しいけど仕事は大分慣れたよ。それに結構楽しいよ。星とか星座に詳しい教授の話を聞けるのも面白いし」

「‥そう、あの二人が聞いたら喜びそうねぇ」



お婆ちゃんが居間にある写真を見て微笑む横顔に、胸が小さく痛む。

私が5歳の時に事故でいっぺんに亡くなってしまった両親は星が本当に大好きで、小さい私を連れ出して夜空を指差し、「あれがおうし座で、あっちは白鳥座で‥」なんて教えてくれたけど、どれがどれかわからないのにとりあえず頷いていた記憶が微かにある。


今度星をまた見に行こうね‥、そう約束してたのに、呆気なく大好きな星になってしまったお父さんとお母さん。


「お父さんとお母さんが生きてたら、星や星座を研究する教授と意気投合して大変なことになりそう」

「それもそうね。あまり言わないでおきましょ」


お婆ちゃんはうんうんと頷き、



「イト、貴方もあんまり仕事と星に夢中になり過ぎないようにね!誰かとお付き合いするとか、そういうのも大事なものよ!」

「そ、そうだねぇ‥」



言えない。

実は先日、宇宙人とお見合いをしたなんて‥。

目を横に逸らしつつ、おにぎりをバッグに入れたら私はそそくさと逃げるように出勤した。


ごめん!お婆ちゃん!宇宙人さんとはただのお友達だから安心してね!


いつもより早いペースで歩いて大学に着けば、私のデスクの上に小さな林檎が二つ置いてある‥。



「これって‥」



小さな、ピンポン球くらいのサイズの赤い綺麗な林檎をまじまじと見ていると、目々さんがコーヒー片手にこちらへやって来て、


「ああ、それ姫林檎よ。美味しいんですって」

「えっと、これは誰が?」

「エトラさんよ〜。美味しい果物を見つけた!って、喜んで持って来てくれたの。交換こですって」

「交換こ‥」


昨日フルーツサンドイッチとおにぎりを交換こしたけど、それが嬉しかったのかな?小さな赤い林檎を見つめたけれど、季節はそろそろ梅雨‥じゃなかったっけ?林檎の季節は終わってない?はてなマークを飛ばす私を目々さんが面白そうに見て、



「長野にあるって聞いて、買いに行ったんですって」

「長野?!!」

「あと青森」

「青森!??」



ど、どうやってそんな遠くまで‥と、思ってからハッとした。

宇宙船か‥、宇宙船だな。

二つのピカピカした姫林檎を見つめたけれど、美味しかったからって私にもくれるなんて優しいな‥。ちょっとメルヘンチックな感じもするのもまた可愛い。


と、メールがポコッと来て、アイコンを見ればエトラさんだ。



『姫りンゴ、美味しいかったので、交換こです』

「くっ‥!!!」



可愛い!誤字も可愛い!

ついキュンとしてしまった‥!

私を見てニヤニヤする目々さんから逃げるように事務室の端っこに移動し、すぐに『ありがとうございます!とてもかわいいので、たべるのがもったいないくらいです』と、返信をした。お礼は大事だしね。



「お昼のおにぎり、二つ作ってきて正解だったな‥」



そう呟いてから仕事に取り掛かるべくデスクに戻った。


一方、月教授の部屋でメールの返信を受け取ったエトラさんが嬉しかったのか、金色に思い切り輝き、教授に「光!!光を抑えてぇええ!!」と、叫ぶ声が外まで聞こえたとか、なんとか?




青森の姫林檎を以前頂いたけれど、あまりの可愛さに

もったいなくてなかなか食べられず‥。あれは可愛い。可愛すぎる。

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