宇宙人とお願い事。
エトラさんと会えなくなった代わりに、最近はレイハナさんと一緒に昼食を食べるようになった。
レイハナさん曰く、
「エトラがジメジメして鬱陶しいので一緒に中庭でお昼を食べよう」
で、ある。宇宙人ってジメジメするんだ‥。
二人でいつもエトラさんと一緒にお昼を食べていた中庭のベンチに座って、お弁当を食べる横でレイハナさんはカップラーメンの中に更にタバスコを振りかけていて、私は三度見した。まだ辛さが足りないの?!
「辛いのが、本当に好きなんですね‥」
「ああ、地球は辛いのが豊富にあってとても良い。先日くれた唐辛子も大変美味しかった。ありがとう」
「喜んで頂けて良かったです」
「エトラが随分と羨ましそうにしてた」
「エトラさんが、」
名前を聞けば、ドキンと心臓が鳴る。
元気かな?落ち込んでないかな?チラッとレイハナさんを見れば、「元気だぞ。一応」って教えてくれたけど、どっち〜〜〜?
私の顔を見るなりレイハナさんは可笑しそうに笑って、
「イトさんは宇宙人に抵抗がないんだな」
「多分エトラさんのお陰だと思います。いつもニコニコしてて嬉しいって素直に表現してくれるから‥」
「そうか。星だとよく落ち着けと言われるんだが、この地球にいると丁度良いのかもな」
「そうなんですか?私は素直に自分を出せるのが羨ましいくらいです」
レイハナさんは私をまじまじと見て、
「‥イトさんは優しいな」
なんてしみじみと言ってくれたけど、そうかなぁ?普通じゃないのかな?
空を見上げれば今日も良い天気だ。湿度も少ないから昨日の夜は割と星がよく見えた。一番星も綺麗だったけど、エトラさんも見てたかな。
「‥イトさん、この後少し時間はあるか?」
「え?」
「星の展示をエトラがしてな。それを説明会前に一度見て欲しい」
「いいんですか?」
「あいつは追い出しておくから大丈夫だ」
「追い出す‥」
それはエトラさんがまたへこみそうだな?なんて思いつつ、お弁当を大急ぎで食べてから一緒に星の展示場所までレイハナさんと行く。
ちょっとドキドキしつつ少し広めの教室の中へレイハナさんと足を踏み入れると、一面の夜空に浮かぶ満点の星‥。遠くに流れ星が流れているのも見えて、その展示に驚いて口をぽかんと開けた。
「え、本物‥?」
「エトラがこの世界の投影機に少し手を加えただけだと言ってたが‥」
「これで少し??!プラネタリウムにも引けを取らないというか、ものすごい作り込みですよ?」
「そうか、イトさんがそれくらい言うならよく頑張った方なんだな」
「‥ええと、私が言うのもなんですけどものすごく褒めてあげて下さい」
私の言葉にレイハナさんがおかしそうに微笑み、夜空を見上げて流れ星を指差した。
「流れ星はランダムに流れるらしいが、消えるタイミングはお願い事を三つ言ったら消えるようにプログラミングしてあるらしい」
「え‥」
わざとゆっくり?
流れ星をもう一度しっかり見ると、
「イトさんがちゃんと願い事が言えるように‥だ、そうだ」
私のお願い?!レイハナさんを見れば、普段は無表情なのに口元だけ小さく笑っている。
「なかなか面白いアイデアだと思って採用した」
「そ、そう、でしたか‥」
なんとか答えたけど、エトラさんの気遣いや優しさに胸がぎゅうっと痛くなる。な、なんだそれ、すごく嬉しいんだけど?!っていうか、そんな事されたら勘違いしちゃうんだけど!
でも、エトラさんは優しいから‥。
きっと「イトが喜んでくれそう!」って思ってのことかもしれない。それでも、今だけは自分の為に作ってくれた事を素直に喜んでいいのかな‥。
キラキラと輝く星達を見て、不意に昔の事を思い出した。
お父さんとお母さんが星座を嬉しそうに教えてくれた事、そしてあっさりと亡くなったあの寂しい夜を。
「‥小さい時、父や母が星が好きだったんで、亡くなってしばらくは星を見るのが悲しくて、切なかったんです」
私の言葉にレイハナさんが静かに頷いてくれて、私はもう一度夜空を見上げた。
「でも、あんな風に私がお願いができる星が流れてくれる星を見たら、そんな気持ちはどこかに吹き飛んでしまいますね」
「そうか‥」
「私、やっぱり星が大好きです」
エトラさんも同じくらい‥。
その言葉は心の中でだけ呟いて、キラキラとゆっくりと流れていく流れ星に、
『早くエトラさんと会えますように』
と、三回お願いをすると、キラリとエトラさんのように輝いて星が静かに消えた。
星を見に実家へ帰ったのですが、結局酔っ払って私が見たのは朝日でした‥。




