宇宙人も悩む。
今回はエトラさん視点です〜。
イトの前で力を使ってしまった。
怒鳴られるイトを見て、怒りが体から溢れ、窓が大きく鳴らせば驚いたように窓を見て、ぼくを見たイトを思い出すと堪らなく悲しくなる。
きっとぼくを怖いと思った。
だってあんな力を人間は使えない。
レイハナに「説明会まで会わないように」なんて言われたけれど、イトはぼくを怖いと思って会うのを嫌がるかもしれない‥。優しい目で見つめて笑ってくれるイトが、ぼくを怖いものを見るような怯えた目で見たらどうしよう‥。
人間の、地球の人と仲良くなりたいと目々さんに言えば、「とてもいい人がいるわ!」と、紹介してくれたのがイトだ。初めて出会った時も驚いた顔をしていたけれど、すぐに打ち解けてくれて、ぼくはとても嬉しかった。優しくて、可愛くて、そしてとても大好きな人。
それなのに、力を目の前で使ってしまった‥。
「‥‥もうダメかもしれない」
「何を言ってる。そら早く反省文を書け」
イトに会えなくなって三日。
寂しくて仕方ないのに、大学から帰って船の中でぼんやりしていたところへレイハナが突然やって来て、反省文を書けと紙を渡してきた。だけど何を書けばいいのかなんて全く思いつかない。だって力を使ったのは悪かったけど、イトを怒るあの人がそもそも悪いと思う。
ただただ、真っ白な紙を見つめてはイトを思い出す。
「反省文なんて文化、ないのに‥」
「地球にはあるそうだ。なかなか良い。体験しておけ」
「そんな体験したくありません‥」
イト、元気かな?怪我した足は大丈夫かな?
「イトさんなら元気だぞ。足ももう治った」
「人の考えを読まないで下さい」
「お前が垂れ流してくるんだろうが」
「‥じゃあ、イトがぼくをどう思ってるか教えて下さい」
「接触禁止」
「うう〜〜〜〜〜〜!!」
どうしよう。
イトが怖くてもう会いたくないって言われたら‥、悲しくて地球にもういけないかもしれない。
「お前は本当に思考が落ち着きがないな」
「もう!レイハナ、横から口を出さないで下さい」
こんなに悲しいのに人の宇宙船で激辛担々麺を食べ出すし‥。なんでそこにタバスコと唐辛子を追加するのだろう。絶対そのままがいいと思うし、甘い物の方が美味しいと思う。
と、レイハナは唐辛子とタバスコをわざわざぼくの目の前に置き、
「この二つはイトさんが「辛いのが好きなら‥」と、プレゼントしてくれたんだ。いいだろう?」
「レイハナ〜〜〜〜!!!!」
バチバチと宇宙船の中で光が弾けると、レイハナは担々麺を食べつつ指をぱちっと鳴らした。と、音が一瞬にして静かになる。
「‥地球の引力に引っ張られて感情が出過ぎだ。落ち着け」
「じゃあそういう自慢は辞めて下さい!イトに会いたいのに‥」
ぺショッと耳が垂れ下がると、レイハナが口をもぐもぐと動かしつつ、
「お前、そんなにイトさんが好きなのか」
「わーーーーーーー!!!!!!な、なんでそんな‥」
「金色のシャボン玉みたいなのはなんだとイトさんに聞かれて、」
「言ってないですよね!?絶対言ってないですよね!??」
レイハナに詰め寄ると、しれっとした顔で「全部はいってない」と言うけれど、どっちなのだろう‥。本当に最悪だ。レイハナや他のメンバーと来ると絶対ぼくをこうやってからかおうとするから一人で来たのに。
「‥イトに嫌われていたらどうしよう」
「それはないだろう」
「でも、あの時とても驚いていました‥」
ぼくが力を使ったら、驚いていた顔。
途端にまた落ち込みそうになって真っ白い紙を見つめた。
「あと10日も会えないのが辛い‥‥」
「私はお前があと10日もジメジメしているのが鬱陶しい」
「じゃあ構わないで下さい!」
「でもそうなると、なんだかんだと理由を付けてイトさんに会いに行こうとするだろう」
「‥‥‥それはないです」
「嘘をつけ。会いたい意識を垂れ流しながら言うセリフか」
「もう!地球にいる時くらい人の考えを読まないで下さい」
面白そうに担々麺を食べながらぼくを見るレイハナに怒鳴れば、「10日なんて星の瞬きにもならない日数だ」と、言いのけた。それは宇宙人の感覚であって、地球の人にとっては長いものだ。
宇宙船から外を見れば、すっかり暗くなった空に一番星が輝いている。
都会の空は星が少ししか見えないのだと、地球に来て驚いたことの一つだ。ぼくの星はどの星もそれは綺麗に輝いているから‥。
イトも、あの星を見ているだろうか。
そうして、ぼくを少しだけでも思い出してくれているかな‥。
できれば怖いとか、もう会いたくないとか思わず、変わらずに接して欲しい。
目の端っこで流れた星を見て、三回お願い事を唱えると叶う話をしたイト。
何度でもお願いをするから、また会えたらあの笑顔に会えますように。
そう小さくお願いして、ぼくの目の前に反省文の紙を突きつけるレイハナから諦めて紙を受け取り、なんて書けば納得して貰えるのだろうと思いつつ、ペンを走らせた。




