宇宙人、パンケーキにタバスコ。
結局、あれからエトラさんとレイハナさんまで私を家に送ってくれた。
だけど二人が仲良く歩いていく姿を見て、心の距離が縮まったような、広がったような‥。いや、宇宙人さんを好きになってしまったんだ。そもそも気にするだけ無駄かもしれない。
モヤモヤしつつ、バナナとブルーベリーをそれぞれ練り込んだパンケーキを焼いて冷蔵庫にしまってから、二階の部屋へ戻ってベッド脇にある窓から夜空を見上げた。都会の夜空では少ししか見えない星の中で、一番星だけがキラキラと輝いていて、なんだかエトラさんのようだなぁとしみじみ思ってしまう。
近いようで、遠い、エトラさん。
好きになっても手が届かない存在。‥うん、星そのものだ。
「明日も気をつけて接しないとだな」
なにせ感情で怪我をしてしまうのだ。
これ以上怪我をさせたくない。‥と、思っているのに今日もスーパーで気にせず私の手を握るからドキドキしてしまった。嬉しい反面、傷つけないかと思って怖い。本人は私なら大丈夫と言うけれど、エトラさんだから余計に傷つけたくないのに。
ベッドに寝転がり、カーテンの隙間から一番星を見つめた。明日もちゃんと笑えますように‥と、願いながら。
さて、翌日のお昼。
「わ〜〜〜〜〜!!!パンケーキ!!!」
ええ、予想通りに顔も体も金色に輝かせたエトラさん。
ちゃんと周囲をチェックしてからの反応なので今日は余裕で微笑むこともできる。
持ってきた保冷剤の袋の中から冷やしておいた生クリームのスプレーを取り出して、パンケーキに添えてあげればもうエトラさんの耳が嬉しそうにパタパタと大きく揺れた。
「すごい!美味しそう!写真で見たのとそっくり!」
うん、予想通りの喜びに大満足である。
早速美味しそうに食べる姿に、ついつい口角が上がってしまうのは許して欲しい。
「エトラさんは家でもパンケーキを焼いてみました?」
「うん!!そうだ、スマホで撮ってみた」
ニコニコと笑ってスマホで撮ったパンケーキを見せてくれたけど、綺麗なまん丸に焼きあがっていて美味しそうだ。流石宇宙船を作ってしまう人ゆえに上手だ。
「すごく美味しそうですね」
「今度ご馳走するね!‥本当は持ってきたかったんだけど、レイハナが全部食べちゃったから」
「え」
食べちゃった?
って、それはもしや一緒にいたの?
目を丸くする私にエトラさんは唇を尖らせながら、
「報告書、直しなさいって船に来て‥。イトと食べようと思ってたのに、パンケーキにタバスコかけて食べちゃったんだ」
「タバスコ‥」
ちょっともやっとした気持ちがタバスコで味付けされてしまった‥。
ぽかんとした私に、エトラさんは未だ信じられないというような顔をして、
「辛さが足りないって言うんだよ?でも、パンケーキは甘いのが美味しいのに」
‥レイハナさん本当に辛いの好きなんだな。
そして宇宙人同士って、距離が近いのかな。それともエトラさんを好き‥、なのかな?船に押しかけちゃうってちょっと驚きと共にショックというか‥。
と、ともかく怪我をさせちゃまずい。
そそっとエトラさんから距離を取ったのに、エトラさんは私の方へ体を寄せ、
「イトは?イトは食べるの、何が好き?」
なんてワクワクした様子で私に聞いてくるので、胸が!胸が苦しいよう!
あとソーシャルディスタンス〜〜〜!!私が気をつけてもエトラさんはピカピカの笑顔で近付いてきてしまっては意味がない。
と、カツカツとヒールの音がして、顔を上げればクールビューティーなレイハナさんが、本日も黒いピタッとした服を着てこちらへやって来た。
「レイハナさん、こんにちは」
「ああ、今日もエトラが世話になっている」
「‥なんですかレイハナ。今美味しいパンケーキを食べているのに」
「仕事だ。月教授が資料を揃えて欲しいと言ってる。準備室へ今すぐ来い」
「そんな、花火大会の約束もしてないのに」
「い、いや、エトラさん仕事が先‥」
「でも約束は先にしておこう!」
ぐ、ぐいぐい来るね?
でもしばらく忙しくなりそうだからなぁ。
「えっと、じゃあ来週新入生の説明会をするんですよね?それが終わったら夕方の四時に駅前に集合‥で、どうでしょう?」
「うん!!!」
キラキラと金色の光と一緒に、金色のシャボン玉が出てきて、エトラさんは慌ててそれを自分で手で叩いた。と、レイハナさんはそんなエトラさんを見て、
「約束できたな?じゃあ仕事に行くぞ」
「うう‥、わかったよ。イト、また明日」
「あ。はい、また」
心底しょんぼりした顔をして引きずられていく宇宙人‥。
ちょっと面白いなと思いつつ、私は余分に焼いておいたパンケーキを食べ、今度はどんなのを作ってあげようかな‥と、晴れ渡る空を見上げた。
パンケーキ食べたくなってきたぞ‥‥。




