宇宙人も怒られる。
三日ぶりのエトラさんとの中庭でのお昼。
私はお弁当を、エトラさんはフルーツサンドイッチを食べるけど栄養が気になる‥。
いや、三日も気持ちの整理が付かずに会おうとしなかった私が何を言う‥だな。と、エトラさんは嬉しそうに私を見て、
「イト、手を出して」
「え?」
言われるまま手を出すと、エトラさんの手からポロポロと飴やクッキーが出てきて目を丸くした。
「お、お菓子?」
「うん、美味しかったから、イトに会えたらあげようと思ってた」
「あ、ありがとうございます‥」
片手に収まりきれなくて、急いで両手で受け取ったお菓子はどれも美味しそうで、もったいないくらい嬉しくて、お菓子をじっと見つめてしまう。
「‥どれも美味しそうです」
「うん!沢山食べてね」
キラキラと眩しい金色の光を発するエトラさん。
‥うん、嬉しいのすごくわかる。いつもよりすっごくキラキラしてるから。でも、そんなに眩しいとバレちゃうので控えめにしておきましょうね。
「そうだ、イト!花火を調べたんです」
「え、」
そ、そういえば花火大会に行こうって言ってた!
私ときたらエトラさんへの気持ちの自覚だけで手一杯ですっかり忘れていたとは‥。反省しつつエトラさんを見ると、わくわくした顔でスマホを取り出して、
「これ、打ち上がってる?写真?すごく綺麗でびっくりしました」
「あ、写真を調べたんですね。そうですね、これとか綺麗ですよね」
エトラさんになるべく触れないように気をつけつつ、スマホを覗きこむとエトラさんはうっとりと花火を見つめて、
「地球って綺麗なものがいっぱいあって楽しいですね」
「宇宙は、エトラさんの星はないんですか?」
「うーん、思い浮かべるとなんでも出てくるから‥」
「もっとすごい花火を打ち上げられそうですが」
「なんでも出来るから敢えてしないのかも‥」
「へぇええええ」
なんでも出来ちゃうなんてすごいな!
感心していると、エトラさんは花火を見つめながら、
「皆で見る、楽しそうです」
「確かに。皆で見るから楽しいですね。一体感というか?」
「うん、だからイトと見られるの今からすごく楽しみ!」
至近距離でふにゃりと笑うエトラさんに胸がギュウッと痛くなる。
うう、好きだって自覚したばっかりでその笑顔は反則です!!バレないようにと、小さく深呼吸して、
「私も、楽しみです‥」
小さくそう言うと、エトラさんの体からまた金色のシャボン玉がぶわっと飛び出した。‥えっと、これは嬉しいって事でいいのかな?
と、あまり人気のないこちらへカツカツとヒールの音がする。
私とエトラさんで顔を上げ、そちらを見れば真っ白い腰まである長い髪に、スレンダーな体にぴったりとフィットした黒いヘソ出しのシャツ、黒い細身のパンツにヒールと、なんとも目を引く美女がこちらへ真っ直ぐにやって来た。
う、うわ〜〜、綺麗な人だな‥。
ぽかんとそちらを見れば、エトラさんがバッとベンチから飛び上がった。
「レイハナ?!なんでここに‥」
「なんでも何も地球観測の報告をしに来いと言ったのに来ないから来てやったんだろう」
「え‥、報告?」
もしかして、お知り合い?
そして、今の話からして同じ宇宙人?
エトラさんとレイハナさんと呼ばれた美女を交互に見ると、
「貴方がイトさんか。エトラが世話になっている」
「は、はい‥。いえ、こちらこそ?」
「ぼくは報告をあとで行くと話をしたのに‥」
「気にするな。私も地球からの観測員として配属されたんでな。しばらくはこちらで過ごす。何かあれば頼るから」
そう言いつつ、ポンポンとエトラさんの肩を叩くレイハナさん。
地球の観測のお仕事をする同僚、なのかな?それにしてはすごく仲が良さそう‥。
もやっとした気持ちにハッとして、エトラさんからそっと一歩離れた。怪我をうっかりさせたらいけない。早く落ち着かないと‥と、思っていると、エトラさんが首を傾げ、
「イト、どうかした?何かあった?」
「わ、わわ、あのちょっと今は!あのっ、大丈夫ですから!」
「そう?でも元気ない‥」
「いえ!!元気!とっても元気です!」
だからそんなに近寄らないで〜〜〜!!
慌ててまた後ろへ下がると、エトラさんがシュンとした顔になった。
嗚呼、そんな顔をさせたくないんだよ〜〜!怪我させたら怖いからなんだよ〜〜!と、言いたいんだけど、それも言ったら気にしちゃいそうでオロオロしていると、レイハナさんがエトラさんの後ろ髪をちょっと引っ張って、
「こら、レディーに馴れ馴れしくするな。地球の女性への接し方の本を読んでなかったのか?」
「ちゃ、ちゃんと読みました!」
「ならちゃんと適切な距離を取りなさい。貴方は距離が近い」
「わかってます!」
エトラさんが怒られてる‥?
ちょっと驚いてエトラさんを見れば、照れ臭そうに耳をパタパタと動かしていて、宇宙人も怒られたりミスをするんだなぁと不思議な感覚だった‥。
宇宙人に会ってみたいなぁ〜と、思ってる私です。




