宇宙人、心配する。
エトラさんを怪我させてしまってから、今日はちょっと‥と、お断りをして三日経ってしまった。
中庭を見るとエトラさんの顔を思い出してしまって、その度に考えを振り払うように鬼のように仕事をしていたら、ほぼ終わってしまった。いややろうと思えばこっちの仕事もできるか‥?
「イトちゃん、もう仕事禁止」
「っへ?」
振り返れば目々さんが私をジトーーーっと睨んでいる。
「‥何かあったのかなぁとは思って黙っていたけど、ここ三日仕事し過ぎ!今日はもうここの書類を選別するのがイトちゃんの仕事です!」
「これは目々さんの仕事では‥」
「はい!手を動かすーー!あとお昼は絶対休憩する事!」
「え、えええ‥」
お昼は休憩と言われて思わず手が止まってしまう。
エトラさんを自分の感情のせいで怪我をさせてしまったのに、また会う事が怖い。いや、でも必ず会わなければいけないって訳じゃないから大丈夫かな‥。
すると突然ファイルを目々さんに手渡され、
「そういえば月教授に渡すの忘れてた!今すぐお願いします!」
「え‥」
「迅速アーンド可及的速やかに渡して来てくれると嬉しいな!」
語尾にハートマークが見えるけど、圧がすごい。
まぁ教授の部屋に行っても必ずしもエトラさんに会うことはない、だろう‥。「行ってきます‥」と、言えば目々さんは「よろしく〜」と笑顔で見送るが、足が!足が重い!
この三日間、エトラさんを傷つけてしまった事がずっと頭の中を渦巻いて、自分が側にいたら危険なのでは‥と、思ったらスマホにメールを送ることもできず‥。でも、別れ際ほっとしたように笑ったエトラさんの笑顔を思い出すと、また苦しくて‥。
「連絡どうしよう‥」
悶々と考えつつ廊下の角を曲がった瞬間、
ドンと人にぶつかってしまった。
「わ、す、すみませ‥」
「イト、大丈夫?怪我してない?」
「え‥」
顔を上げれば三日ぶりのエトラさん。
会えて嬉しい気持ちと、い、今!??と、戸惑う気持ちが交差したその時、
ぶわ〜〜っとエトラさんの体から金色のシャボン玉が一斉に飛び出した。
「わ、わーーーーー!!!ひ、人目!人目!!!」
「え、ええ、と、止まらない!」
「あ、じゃあ、こ、こっちへ!」
すぐ横にあった空き教室へエトラさんを引っ張ってドアを閉めてから、外の気配に耳を澄ませるけれど、とりあえず大丈夫そう、かな‥?ほ〜っと息を吐けば、また金色のシャボン玉がふわふわとエトラさんの体から浮かんで、私のすぐそばでパチンと弾けた。
「エトラさん、急にすみませ‥」
そう言って顔を上げれば真っ赤な顔をしているエトラさん。
ん?どうかしたのかな?
もう一度自分の方を見れば、めちゃくちゃ私、エトラさんを壁ドンしてる〜〜〜〜〜!!!慌てて後ろへ飛び退いた。
「す、すす、すみません〜〜〜〜〜!!!」
「だ、大丈夫、です。イト、ぼく、庇ってくれただけ‥」
「そうだ怪我!エトラさん怪我はしてませんか?」
さっきめちゃめちゃモヤモヤしてた!
慌てて確認しようと手を伸ばして、パッと手を後ろに隠した。うっかり触って怪我をさせてしまってはまずい。
すると、そんな私を見て困ったように微笑んだエトラさん。
「‥怪我、大丈夫。イト、仕事はもう大丈夫?」
「え、」
「‥ずっと忙しそうだったから、心配で」
私の嘘を信じて、心配してくれたエトラさんに胸がギュウッと痛くなる。
‥ああ私、エトラさんが好きなんだな。
今更ながら、自分の気持ちをはっきりと自覚した。
だからあの時、私は女の子達に囲まれているエトラさんを見て、嫉妬して怪我をさせてしまったんだ。
と、私の目の前にまた金色のシャボン玉がふわふわと飛んで、パチンと弾けた。
「‥これ、綺麗ですね」
「そ、そう、ですか」
「エトラさんみたいです」
小さく笑うと、エトラさんは照れ臭そうに笑って、
「‥イト、仕事もう大丈夫なら、お昼一緒に食べられる?」
「え、っと、は、はい」
「本当?嬉しいです!!」
パアッと金色に輝きだしたエトラさん。
わ、わかった!嬉しいのはすごくわかったから〜〜!
あまりの眩しさに目を細めれば、エトラさんはハッとして光を抑えてくれた。‥そんなに喜んで貰えるなんて‥思ってもみなかった。
こんなに優しい人を、半年で帰るエトラさんを、これ以上傷つけないようにしよう。
それで‥、笑顔で見送ればいいんだ。
それまで自分の気持ちをしっかりと仕舞っておけばいい。
ワクワクした顔のエトラさんを見上げて、
「‥お昼、迎えに行きます」
「うん!!すごく楽しみ!!」
「わ、わかりました〜〜!わかりましたから光〜〜〜!」
キラキラと光るエトラさんにツッコミつつ、自分も感情に気をつけてコントロールして怪我をさせないようにしないと‥と、心のメモにしっかりと書き記した。
今日も読んで頂きありがとうございます!




