宇宙人とサンドイッチ。
私を連れて突然空へ移動したエトラさん。
ものすっごい高いから怖い!怖いです〜〜!!!とばかりに抱きつけば、エトラさんはカチッと体を固まらせて金色のシャボン玉を飛ばした。それってどんな感情なんだろう‥。こほんと咳をしたエトラさんは私の肩を優しくポンポンと叩いた。
「イト大丈夫。そばにいれば落ちない」
「ほ、本当ですか?」
「うん‥、だから安心して下さい」
「は、はい」
とはいうものの、怖いのでどうしても離れられない。
するとエトラさんが私の手をしっかり握ってから、
「イト、ちょっとだけ下を見て下さい」
「し、下‥?」
恐るおそる下をもう一度落ち着いて見ると、夕方から夜に変わったタイミングであちこちの街灯が一斉に輝き出して、足元が星のように光った。
「わ、星みたい‥!」
「はい、上も下も星みたいです」
「上‥?」
エトラさんの言葉に上を見れば、夜空に浮かぶ星達がいつもよりグッと近くに感じる。街の光と、空の星に挟まれていて‥、サンドイッチされているみたいだ。
するとエトラさんがニコニコ笑って、
「サンドイッチされてますね!」
なんて言うから、私は大きく頷いた。
「私も今そう思ってました」
「同じですね。前に空を飛んだ時そう思って‥、イトに見せたかったんです」
嬉しそうにふわりと微笑むエトラさん。
なんで突然空を飛んだのかと思ったら、そんな事を考えていてくれたなんて‥。優しい気遣いに嬉しくて私も微笑めば、エトラさんの耳がぴょんと飛び上がった。耳、可愛いなぁ。
しっかり抱きしめてくれているお陰で少しずつ気持ちが落ち着いてきて、私はまじまじと街とそして夜空を見つめた。
「前に、エトラさんが見る場所が違ければ景色が違うって言ってましたけど、本当ですね。こうして見ると、私の悩みとか小さな星にもならないかも‥」
私の言葉にエトラさんはふにゃりと微笑んで、
「ぼくもよくそう思います。悩みは大きく見えても、少し離れたり違う場所から見ると、意外と小さかったり、簡単に超えられる事だったり‥」
「エトラさんも悩みがあるんですか?」
「はい。失敗もよくします」
「宇宙人なのに?」
「宇宙人、完璧じゃありません。失敗もするし、悩みもあります」
「そうなんだ‥」
見るからに完璧な感じなのに、失敗もするし悩みもあるんだ。
まじまじとエトラさんを見上げると、可笑しそうに小さく笑って、
「ね。違う所から見たら宇宙人、イトと同じ」
「‥うーん、でもこうやって空は飛べませんよ?」
「そこはちょっと違いますね‥」
二人で顔を見合わせて、くすくすと笑うとエトラさんは私を抱きしめたまま、トコトコと歩き出した。
「え、あの‥、」
「イトの家はどこですか?歩いて帰りましょう」
「歩いて‥」
「遠いですか?」
「いえ、ちょっとだけ‥。ええと、あ、あそこかな?赤っぽい屋根の家なんですけど」
空の上から見ると我が家がどこかわかりずらい。
なるほど、視点が違うだけで全然違う。エトラさんは私が指差した方を見て頷くと、一緒に空を歩いた。
空を歩いて帰るなんて思いもしなかった‥。
チラッとエトラさんの横顔を見れば、私の視線に気付いて微笑んでくれて、ようやく私を心配して、励まそうとしてくれたんだと気付いた。じわじわと嬉しさが心の中に広がって、胸の中が暖かくなる。
「エトラさん‥、心配してくれてありがとうございます」
「ううん、元気になった?大丈夫そう?」
「はい!」
「良かった。イト、笑っているととても可愛い」
「へ」
「イトも笑うとキラキラ光ってる。とても綺麗でずっと見ていたい、です」
「そ、そう、ですか」
な、なんだかすっごい事を言われたぞ?!
頬が赤くなっていくのがわかる。う、うわぁ、宇宙人さんって本当に感情表現がストレートだな。
「イト、家はあそこ?」
「は、はい!」
「人、いないから移動するね」
「え、」
エトラさんがそう言った瞬間、パッと私は家の前にエトラさんと一緒に立っていて‥、どこか呆然としていると、どこから取り出したのか私の仕事用の鞄をエトラさんが渡してくれた。
「鞄‥」
「ごめんね。勝手に持ってきちゃった。大事だと思って‥」
「い、いえ、何から何までありがとうございます」
びっくりしつつ鞄を受け取ると、エトラさんはふにゃりと笑って、
「一緒に星を見られて、すごく嬉しかったです」
「私も嬉しかったです。今日は素敵な景色を見せてくれてありがとうございます」
私もお礼を言って微笑むと、エトラさんの体からまた金色のシャボン玉が出てきた。
「エトラさん、そのシャボン玉って‥、」
「え、えっと、大丈夫!とても嬉しい気持ち!!」
「そうなんですか。綺麗ですね」
「う、うん、良かった、です‥」
もごもごと呟いたエトラさんは、「ま、また明日ね!」と言うと、パッと消えてしまった。と、一つだけ残っていた金色のシャボン玉がふわふわと空に上がったかと思うと、流れ星のようにパチンと静かに弾けて消えた。
‥それを、なんだかもう少し見ていたかったなと思いながら私は夜空を見上げ、キラキラと輝く一番星をジッと見つめたのだった。




