宇宙人と視点。
月曜日。
宇宙モチーフのお菓子と、本日はツナマヨと昆布のおにぎりを持って出勤である。惑星の柄が描かれたチョコのお菓子は近所の大きめのスーパーで売っていたのをたまたま見つけたんだけど、絶対エトラさん喜びそうだ!と、思って速攻で買ってしまった。
「おはようございます」
挨拶をしながら事務室へ入れば、目々さんがちょっと疲れた顔をしつつ笑ってくれた。
「目々さん、なんだか疲れた顔してますけど大丈夫ですか?」
「うーん、金曜の夜に娘が熱出しちゃって‥。今日は大丈夫そうだから保育園に送って来たんだけど、ちょっと心配で‥」
「無理しないで下さいね。仕事手伝いますよ」
「ううっ、イトちゃんありがとう〜〜〜!!」
それを言うなら私だって入りたての時は散々お世話になったのだ。
こんな時に助け合わずしてどうする。いくつか仕事を引き受けてパソコンの前に座ると、
「そういえばデートどうだった?」
「デデデデデデート?!!!」
「いきなりバグったね」
「だ、だってデートじゃなくて、友達として一緒にお出掛けしただけですし‥!ていうか、し、仕事!仕事をしますよ!」
「はーい」
可笑しそうに笑ってパソコンに向かう目々さん。
全く仕事前になんて事を言うんだ。それにそもそもあと半年で帰ってしまう私となんでお見合いをさせたんだろう‥。いつかデネブの方へ帰ってしまったら二度と会えない相手だろうに。
そう考えるとこの地球にいる間だけ、面倒を見てあげてねって意味だったのだろう。
そう思い直して、書類に取り掛かりそろそろお昼の時間‥。
目々さんの携帯が突然鳴って、急いで目々さんが携帯を確認すると慌ててそれを取った。
「はい、折田です。え、発熱?!」
あ、これはお子さん熱をぶり返したんだな。
目々さんは申し訳なさそうにすぐこちらを見た。迎えに行ってあげて下さいと小さく言えば、目々さんが頷いてすぐに迎えにいくと電話口に伝えてから電話を切った。
「ああ〜〜〜、やっぱり嫌な予感は的中しちゃうものね。イトちゃん色々任せちゃうけどごめんね‥。こっちとこっちの書類の処理は終わってるから。法学部の教授の申請はまだ途中なんだけど‥」
「わかりました。やっておきます」
「ありがとう!ちょっと事務長に声を掛けてから帰るね」
そう言って目々さんはものすごい勢いで書類をまとめると、保育園の方へお迎えへ駆けていった。‥お母さんって、本当にすごいな。
早速受け取った書類仕事をしていると、お昼のチャイムが鳴った。
「わ、もうお昼だ‥」
「イトーーーーー!!」
「え?」
なんだかよく聞いた声がした気がする。
パッと後ろを振り返ればそこにはエトラさんが笑顔で立っていた。
「え、エトラさん?!」
「楽しみ過ぎて迎えに来ました」
「あ、ありがとうございます」
ニコニコと嬉しそうなエトラさんを見ると、なんだかホッとしてしまう。
お菓子とおにぎりを持ってエトラさんの方へ行けば、嬉しそうに耳がちょっとパタパタと動くので、周囲を見回してしまう。うん、皆さんお昼の準備してて気にしてない。ホッと息を吐いて、急いで中庭の方へ歩いていく。
「いつもの場所に行きましょうか」
「うん!」
「‥あと、昨日空を飛んでたりしませんでした?」
「‥うん」
「エトラさん、周囲にバレたらまずいのでは?」
「う、だ、だってイトの好きな星、近くで見たくて‥」
チラッと私を見るエトラさんに、目を丸くしてから顔がじわじわ赤くなる。
そ、そういうの照れちゃうんだけど‥。い、いや、あくまでもこれは友情であって、好意ではないから!心の中で気を引き締めてから、エトラさんを私も見上げ、
「気に入って頂けて良かったです。エトラさんはどの星が好きなんですか?」
「ぼく?」
「はい、宇宙人さんってどんな星が好きなのかなって‥」
エトラさんは面白そうに笑って、
「イトは星が好きなんですね」
「え?あ、そう言われるとそうかもですね‥。両親のお陰かも?」
「ふふっ、良いなぁ。星ならベガが好きです。あ、あと金星とシリウスも」
「いっぱいだ‥」
「ベガはぼくの星からよく見えるので‥、でも地球に来ると金星やシリウスがとても綺麗で驚きました」
「あ、そっか‥。違う位置だから」
「見える場所によって同じだと思っていた景色が違うんだと、ここに来て初めて知りました」
そう言って空を見上げるエトラさんの横顔が綺麗だなぁと思った。
私はここからの景色しか知らないけれど、そうかぁ‥そういう違う景色が見える宇宙人っていいなぁ。そう思って私も抜けるような空を見上げた。
南半球と北半球で星が違うなんて、小さい時は知らなかった‥。
大人になればわかるけど、大人になっても知らない事ってまだまだありますね。




