窮地と雷
「はい、どうしました?」
「縄か何かこの男を縛れる物がないか探してきてくれる?」
メイがそう言うと、アレクトは不思議そうな顔浮かべる。
「縛る? この男殺さないんですか、メイ様を殺そうとしてきたのに?」
アレクトにそう言われると、メイは穏やかな表情で気絶している男を見つめる。
「殺す必要がないからね、この男の魂は体から追い出されてた。つまり襲ってきたのはこの男、というかこの体の持ち主じゃない」
アレクトには見えていないが、メイには男の体に何かが取り付き男の魂が体の外に出ているのが見えていた。
「他にも情報を聞き出したいとか理由はあるけど……殺さない一番の理由は『この世の命は全て平等で、殺されていい命なんて一つもない』、からかな」
メイがそう言うと、アレクトは困惑しながらも一応納得した様子を見せる。
「わかりました……でも縛ってからどうするんですか?」
「そうだなぁ……」
メイは静かに倒れた男を見渡し、男の持っていた剣を手に取る。
「アレクト、この剣って兜みたいに俺の物にできる?」
「ちょっと待ってください……神器では無いようですが、神界で造られた物の様なのでメイ様の所有物にできると思いますよ」
アレクトは男の剣に軽く触れてすぐにそう応えた。
それを聞いたメイは剣を握る手に力を込める。
「そうか、なら今回みたいに襲われた時のために募集させてもらおうか」
次の瞬間男の剣は光の粒となって消え、メイの体に吸収された。
「男の方は、この工場の適当な倉庫に閉じ込めておこうか。もしかしたら仲間が助けにくるかもしれないけど、ここなら人も来なくて隠しやすいし」
「そうですか、なら私は壊れた建物の修復のついでに縛る物を――」
「その必要はない」
アレクトがこの場を離れようとメイに言おうとした瞬間、誰かの声に遮られる。
「チッ……またかよ」
メイが声のした方へ視線を向けると、先程倒した男と同じ様な格好をした男達が十人ほど集まり上空からメイとアレクトを見下ろしていた。
「一人倒して安心したか? 残念だったな、日本にはお前ともう一人後継者がいてな……それで多めに送られていたんだよ」
空に浮いている男達の中の一人が、余裕の表情を浮かべながらメイに告げる。
「親切にどうも……」
(まずいな……増援がくる可能性は考えてたけど、まさかこんな数がくるなんて……)
男達を見上げながら、メイは思考を巡らせながら冷たい汗を流す。
余裕の無い表情で見上げるメイとは対照的に、男達は油断した様子で見下ろしている。
(さっきと違って剣をこっちも持ってるから、二人くらいならどうにかなったけど……流石にこの数で、しかも相手は空が飛べるんじゃ分が悪すぎる……)
「どうした、黙り込んで? 自身の死を悟って、恐怖でも感じていたか」
男達が嘲笑しながらメイを挑発する。
「ふっ……違ぇよ、あんた達をどう倒してやろうか考えてただけだ」
(……兜で身を隠せばどうにかなるか? いや、ここは逃げた方がいいか? でも逃げるってどこに)
「ならその強がりがどこまで続くか見せて貰おうか!」
どうこの局面を切り抜けようか思考を巡らせるメイに、男達が一斉に突撃を仕掛ける。
「クソが! こうなったら一か八か真っ向勝負で――」
「ケラウノス」
突撃して来た男達を迎え打とうとした瞬間、眩い雷が目の前を走り抜けた。
「ぐはっ!」
「うあぁ!」
雷は男達目掛けて走り抜け、閃光と共に男達を撃ち落とした。
男達が一瞬で撃ち落とされ、メイが唖然としていると背後から男の声が聞こえてきた。
「一人に対して複数で襲い掛かるなんてダサイ事してんねぇ、オジサン達。まぁオジサン達弱そうだから仕方ないと言えば、仕方ないかもだけど」
声の主は呆れた声で自身が雷で撃ち落とした男達にそう言った。
「……お前は⁉」
最初は一瞬で十人を倒した男の強さに驚いていたが、男の姿を見た瞬間別の衝撃がメイを襲う。
メイが振り返るとそこにはスーツを着た男を片手で引きずっている、長い金髪が特徴的な白い制服を着た男が立っていた。
「……ライ」
自分の姿を驚くメイを見て、金髪の男は微笑んで返事をした。
「久しぶりだね、兄ちゃん」