初陣決着
「……ここか」
血痕を辿ってきた男が、メイのいる倉庫の前で立ち止まる。
男は倉庫の扉をゆっくりと開け、室内を見渡した。
「どこだ?」
血痕は残っているが血溜まりができている場所にはメイの姿は無かった。
また血溜まりができている場所で血痕が途切れており、男は首を傾げる。
(なぜ血痕が途切れているのに、奴の姿が無い……)
カン――
倉庫の中に金属音が響き渡る。
「そこか!」
男は音の聞こえた方に向かって突撃する。
しかし手応えは一切無く、その場にあった鉄骨に突っ込んだだけだった。
「残念だったな、俺はこっちだ」
声が聞こえた方に男が振り向くと、メイが扉から外に出ていくのが見えた。
「調子に乗るなよ、小僧」
男は冷徹な声でそう告げると、メイの後を追いかけて倉庫の外に出ていった。
(よし、まずは第一段階クリア)
メイは男から逃げながら、アレクトに説明されたことを整理する。
(このゲームはギリシャ神話の神々の後継者による殺し合いで、……だがあの男は『アレス様の命に従い』って言ってた)
メイは追ってくる男に視線を向ける。
(つまりあいつは神の後継者じゃなくて、アレスの後継者に力を与えられた部下だ……という事はハデスの後継者である俺みたいに異常な回復能力はないし、単純な身体能力も俺の方が上……のはず)
「待て、小僧!」
十メートルほど背後から男の怒声が聞こえてくる。
「待てって言われて、待つバカがいるかよ」
メイは右に曲がって近くの建物の影に隠れる。
「ちょこまかと……」
男は飛行するスピードを上げて、メイが曲がった地点に追いついた。
「鬼ごっこは終わりだ……なに?」
男が角を曲がるとそこにはメイの姿は無く、乾いた風が吹き抜ける。
時間的にもメイが次の角を曲がる事は不可能であり、隠れられそうな場所もない為男は困惑して立ち止まる。
「どこに行った?」
「喰らえ!」
突然男の後頭部に鈍い衝撃が走る。
「ぐはっ」
男は脳が揺れた事でふらつくが、何とか意識を保って後ろを振り返る。
男が振り返ると、さっきまでそこに居なかったはずのメイの姿があった。
「まだ意識あるのかよ」
メイの右手には黒い兜が握られており、男はそれで殴られたことを察する。
(だがさっきまでこいつの手には何も……そうか神器か、それも『ハデスの隠れ兜』……)
男はメイの持っている兜の正体に気付き、これ以上使われると厄介だと考え姿が見えている今のうちに決着をつけようとメイに切りかかる。
「調子に乗って姿を見せたお前の負けだ、小僧!」
鬼気迫る顔で切りかかる男に対し、メイは落ち着いた様子で男の剣を冷静に回避した。
「これで終わりだ!」
メイは回避した流れのまま拳を振りかぶると、男の顔面を勢いよく殴り付ける。
メイに殴られた男は勢いよく吹き飛び、地面に倒れて意識を失った。
「はぁー、何とか倒せた」
男を倒したメイは、再び兜を顕現させてじっと見つめる。
(……神は後継者に自分の神器を貸すことができる……か。この兜がなかったら、かなり危なかった)
「アレクト」
メイが呼びかけると、姿を消していたアレクトが笑顔で現れた。