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案内役 アレクト

聞く耳を持たない男にイラつきながら、メイは避けるために再び体を左に逸らす。

 しかし反応が僅かに遅れたため、男の剣がメイの脇腹をかすめる。

「痛ッ!」

 直撃は免れたものの、剣がかすめたメイの脇腹からはかなりの量の血が流れている。

「また避けたか、だがいつまで――」

「うるせぇ!」

 メイは背負っていたリュックを男の顔に投げつけると、傷の痛みに顔を歪ませながら廃工場の方へと走り出した。

 メイはそのまま三メートル以上はある塀に向かってジャンプし、塀の上に何とか右手を乗せるとそのままパルクールの様な動きで軽々と廃工場の中へと侵入した。

「ふっ、逃げたか……」

 男は塀まで続くメイの血の跡を見てニヤリと笑う。

「まぁいい、すぐに見つかる……」

 そう言うと男は塀を剣で切り裂くと、メイの血痕を辿って工場の中へと入っていった。


「はぁ、はぁ……」

 メイは廃工場の中にある倉庫に逃げ込み、血に染まった脇腹を押さえながら座って息を整えていた。

「……あいつの剣を避けた時にも思ったけど、いつもより体が軽いし身体能力も上がってる気がする……火事場の馬鹿力ってやつか?」

 どうやって男から逃げようか考えつつ、自身の体の変化についても考えていた。

 元々メイの身体能力は高い方だったがあくまで運動部の生徒と同程度であり、塀を超えたり高速で突進する男の剣を避けれる程ではなかった。

「これからどうする……ここは血痕でばれるだろうし、空を飛べるあいつ相手に外をうろつくのは危険すぎるし……」

 男から逃げる算段が立たず、メイは頭を抱える。

(そもそも逃げていいのか? あいつは確実に俺を殺しに来てた……もしかしたら住んでる場所も知ってる可能性がある……もしそうなら施設の皆が――)

「――た」

(マズイ、見つかったか!)

 メイはどこからか声が聞こえ、男に見つかったのかと思って立ち上がり辺りを警戒する。

「やっと見つけた!」

「なっ……」

 突然目の前に妖精の様な存在が現れ、メイは口を開けたまま呆然とする。

「初めましてメイ様。私、ハデス様から今回の案内役を任されましたエリニュスの『アレクト』と申します」

 「アレクト」と名乗った存在は、体長二十センチ程で黒い布で全身を覆っていた。

 背中にはコウモリの様な羽が生えており、服意外にもポニーテールにしている髪や瞳も黒く妖精というよりは悪魔やサキュバスといった感じである。

(アレクト? ハデス? それに案内役って……)

 突然現れたアレクトとその発言に理解が追いつかず困惑する。

「えっと……最初から説明してくれる?」

 普段ならこんな状況信じられないだろうが、右手に刻まれた紋章に始まり空を飛ぶ男に襲われるなど非現実的なことばかり起きていたのでメイはすんなりとアレクトを受け入れた。

「はい、わかりました。そうですね、最初は――」

 それからアレクトはオリンポスの神々が後継者を使って殺し合いのゲームを始めた事をはじめ、今回のゲームの大まかなルールやメイの体に起きた事について説明した。

「他にも細かいルールはありますが、どうやら今はあまり時間がないようですので大まかな説明だけにさせていただきました」

「ありがとう……正直信じられない内容ばかりだったけど、大体の事情は把握した」

 アレクトから説明を受けたメイは、説明の内容を整理しつつ男を倒す方法を考える。

(こんなゲーム今すぐ辞めたいけど……まずはあの男をどうにかしないとダメか……)

「あっ忘れるところだった。メイ様、これを……」

 アレクトは空中に手をかざすと、黒い兜を出現させた。

「これは?」

「ハデス様からの贈り物です。これは……」

 アレクトは取り出した兜についてメイに説明する。

「なるほど……これがあれば何とかなるかも」

 メイは男を倒す算段が見つかり、覚悟の決まった様子で兜を見つめる。

「それとメイ様……」

「まだ何かあるの?」

 聞き返すと、アレクトはメイが押さえている脇腹を指差した。

「恐らくもう押さえなくても大丈夫ですよ、それ」

「えっ、ホントだ……もう治ってる」

 脇腹の傷は縫合が必要な程深い傷だったが、まだ傷が付いてから十分も経っていないのに傷跡も残っていない程完治していた。

(傷が塞がったのは助かったけど……こんな速度で治るなんてバケモノみたいだな……)

 メイは自身の体に起きた変化を実感しつつ、人間でなくなった様な気がして悲しくなった。

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