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幽霊と日常

「大丈夫? 何があったの」

 スイセンの子供達を集合場所まで送り高校へと向かう途中にメイは、道端で泣いている女の子を見かけて声を掛けた。

「……お兄ちゃん私が見えるの?」

「あぁ、見えるよ」

 メイが目線を合わせてそう言うと女の子は泣き止み、嬉しそうに笑った。

「よかった見える人がいて……昨日からここから動けないし、話しかけても誰も私に気付いてくれなかったから……」

 メイに声を掛けられて、ホッとした顔を浮かべる女の子の体は半透明に透けていた。

 メイはそのことに気付いているが特に驚くこともせず、見慣れた様子で辺りを観察する。

 近くの民家のブロック塀は何かがぶつかった様な跡があり、道には車のブレーキ痕の様な黒い跡が残っていた。

(……この子は……たぶん、交通事故だな)

 辺りを見渡した後、メイは再び女の子に声を掛ける。

「俺は神地メイ。君の名前は?」

「えっ……渚……」

 女の子は少し怯えた様子で、自分の名前をメイに教えてくれた。

「そうか、渚か……いい名前だね。それで渚、昨日ここで何があったか覚えてる?」

「ううん、塾に行こうとしてたとこまでは覚えてるんだけど……」

 女の子は首を横に振ると、困った様子でメイを見つめてきた。

(事故の時の記憶が抜けてるのか……こういう時は――)

「じゃあ、お兄ちゃんと一緒に家に帰ろっか?」

 メイがそう言って手を差し出すと、女の子は首を傾げた。

「そうしたいけど……私ここから動けないよ?」

「大丈夫、渚一人じゃ無理だけどお兄ちゃんと一緒ならお家に帰れるよ」

「……ホント?」

 疑った様子で渚が聞き返すと、メイは静かに頷く。

「一緒に帰ろう」

「うん!」

 渚は嬉しそうに返事をするとメイの手を取り、二人は渚の家へと歩いていった

(家に着いたら、渚は悲しむだろうけど……でも現実を受け入れさせないと……)


ーーーーーーー

「何……これ……」

 渚の家に着くと、そこでは喪服を着た人達が集まり居間には棺と祭壇が設けられていた。

「渚の葬式だよ……」

「嘘だよ! だって私――」

 現実が受け入れられず騒ぐ渚を、メイが遮る。

「死んでるんだ、たぶん昨日塾に行く途中に……」

「嘘だよ……そんなの嘘だよ……」

 真実を突き付けられ、渚は泣きながら弱々しくメイを叩き続けた。

「……何でこんなひどいことするの、お兄ちゃん……」

「ごめんよ渚、辛い想いをさせて……でもね君が死んだ事を自覚しないと成仏させてあげられないんんだ」

 メイは優しく渚の両肩を掴むと、腰を下ろして目線を合わせる。

「別に私、成仏なんてしなくていいよ……ずっとお母さんとお父さんと一緒に居たいよ」

「気持ちはわかるよ渚。でもね成仏しないと君は、地縛霊や悪霊になって色んな人にを危害を加える事になる……それは君も君の両親も望まないでしょ?」

 自身の死を受け入れられない渚を、メイは優しく説得する。

 メイの説得に完全に納得できてはいないものの、渚は静かに頷いた。

「……わかった、私成仏する……」

「ありがとう、渚。それじゃあ何か心残りとか、したかった事はない?」

 目尻を赤くしたまま渚は頭を抱える。

「したいことは特にないけど……でも、お母さんとお父さんに手紙書きたい」

「わかった。じゃあ、コンビニで便箋を買おうか」

 それからメイはコンビニで便箋を買うと、渚の手の動きに合わせて両親への手紙を書いて封筒に入れた。

 そして葬式中の渚の家に戻ると、渚と一緒にポストへ手紙を投函した。

「……ありがとね、お兄ちゃん」

 手紙をポストに投函すると、渚の体が光り出し徐々に消えていく。

「渚が素直に言うことを聞いてくれたからだよ……渚はいい子だからきっと天国へ行けるよ」

 メイがそう言うと、渚は満面の笑みを浮かべて光の粒となって消えて成仏された。

「……よし、学校行こう」

 メイは葬式中の渚の棺を見つめると、穏やかな表情で高校へと向かって行った。


ーーーーーー

幼い頃から幽霊や心霊などが見えるメイは、渚のような死者の霊を見つけては成仏させている。

 今まで成仏させた中には極道や犯罪を犯した地獄行きが確定している様なものもいたが、メイは「命の価値は皆平等だから」と言って成仏させてきた。

 しかし死者から感謝される一方で、幽霊が見えない普通の人間からすればメイの行動は理解できず気持ち悪がられているのが現状である。

 しかし本人は幽霊が見える事を嫌とは思っておらず、「霊感が強いんだろうな」くらいにしか思っていない。

「すみません、子犬を助けてたら遅れました」

 「幽霊の女の子を助けていた」と言っても信じてもらえないため、メイは適当な嘘をついて教室に入った。

「神地またか、最近遅刻が多いぞ。それに毎回ふざけた言い訳をするな」

「……すみません」

 遅刻したメイは二限の数学を担当している教師から軽く注意され、不服そうな顔をしながら席に着いた。

「それじゃあ、この間の中間テスト返していくぞ」

「「えぇ~」」

 テストが返却されると言われて、教室に気だるげな声が響き渡る。

 メイは別にテストの結果にそれ程興味がないので、特にリアクションはせずリュックから教科書と筆記用具を取り出す。

「次、神地」

「はい」

 次々とテストが生徒に返されていき、メイにテストが返却される。

「神地、テストの成績はいいんだから、後は遅刻しないように頑張りなさい」

「……はい」

 教師の言葉に取り敢えず返事だけして、メイはテストを受け取った。

(まぁ、こんなもんか)

 返されたテストには「98点」と赤ペンで書かれていた。

 メイは都内トップクラスの進学校でも上位を取れる学力を持っているが、学費と施設からの近さで高校を選んだ。

 その為学内では常に成績トップであり、高得点をとっても別に嬉しくとも何ともなかった。

「はい、全員にテストを返し終わったな……ちなみに学年一位はまた神地だ。他の皆も神地を見習って頑張る様に」

 クラス中から冷たい視線がメイに送られる。

(先生あまりそういう事言わないでよ……余計クラスから浮いちゃうじゃん……)

 幽霊が見える事と遅刻が多い事によりクラスで若干浮いているメイは、あまり目立ちたくないため教師の言葉に心から「やめてくれ」と思った。

「それじゃあ授業始めるぞ、前回の続きの――」

 授業が始まるとメイは真面目に話を聞きながら、ノートを取り始めた。

 ノートを取っているのは真面目な性格のメイ以外は数人であり、ほとんどのクラスメイトが話すか寝ていた。

 それからもメイは授業を真面目に受け、特に何かあるわけでもない平穏な時間が過ぎていった。

 メイは親しい友人がいないものの、イジメられているわけではない。

 授業などでグループワークをする際は話をするし、別に嫌われているわけではない無いが変わった人だと思われ話かけられはしない。

 そのため休み時間になってもメイはクラスメイトと話す事も無く、一人で自作の弁当を食べた後は図書室で借りた本を自分の席で読むだけであった。

「はい、じゃあ挨拶。さようなら」

「「さようなら」」

 メイの通う学校は長期休暇以外バイト禁止であり、部活に入っていないメイは放課後になると一人で下校するのであった。


お読みいただきありがとうございます。

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