中国到着
―― 三日後 中国 広州白雲国際空港 ――
メイとライの二人はサファルに教えてもらった情報通りに中国第三の都市、広州に訪れていた。
「本当おばさんには感謝しないとな、何から何まで用意してもらって」
「そうだね飛行機代もだし……兄ちゃんの服もね、流石に中国で日本の制服は目立つし」
ライが養母にスイセンの一件で傷ついたメイの気分転換のために旅行に行きたいと嘘をつき、飛行機代をはじめとした費用を出してもらって二人は広州まで来ていた。
「それなら学校のジャージで来ても良かったんだけど……」
「ジャージでも変わんないよ……観光客って名目で来てるんだから、多少はオシャレしとかないと」
二人は観光客らしいラフで動きやすそうな格好をしており、ライは白いTシャツにライトグレーのジャケットを羽織っている。
「まぁこれはこれで、ペアルックになって目立ってはいるかもだけど……」
「そうか?」
一方服に興味の無いメイが取り敢えずライと同じ白いTシャツに色違いの黒いジャケットを着たことで二人はペアルックになってしまい、時折周りから不思議がるような視線を向けられている。
「まぁいいや……それで外に出たらまずあいつを探すの?」
「あぁ……サファルのことだから俺達が空港に付いた事には気付いていると思うけど」
二人は入国審査で怪しまれないように使う予定の無い荷物を詰め込んだスーツケースを受け取り、諸々の入国の手続きを済ませると空港の外へと出た。
「ようこそ広州へ……メイさん、ライさん」
空港の外に出てタクシー乗り場の辺りに行くと、いつもと同じボロボロの緑のコートを羽織ったサファルが声をかけてきた。
「三日ぶりだね……サファル。伝言は伝えてくれた?」
「はい、バッチリ……」
メイが伝言を伝えたか確認すると、サファルはいつもの張り付いた様な笑みを浮かべて頷いた。
「そうか、なら良かった」
「……それでは早速行きますか? 軍の元へ……」
サファルにそう聞かれると二人は首を横に振る。
「いや、まずは予約してあるホテルに行くよ。持ってきた荷物を置いておきたいし、ついでに街の様子も見ておきたいから」
「そうですか、ではまた軍の元へ向かいたい時は呼んでください」
そう言って軽く頭を下げると、サファルは神器を使ってどこかへ行ってしまった。
「兄ちゃん! こっちこっち、タクシー止めたから乗ろ」
サファルと極力話したくないライは、メイが話している間その場から離れてタクシーを引き留めていた。
「わかった」
メイは荷物を抱えてタクシーに乗り込み、中国語が話せないので話せるライに運転手への説明を任せて後部座席にもたれかかった。
ホテルの場所を運転手に説明し終わるとライも後部座席に座りタクシーは出発した。
「そういやサファルや軍とは日本語で話せたのに、普通の人にはその国の言葉を話さないと通じないんだね」
タクシーが出発して特にすることもないので、ライがふと疑問に思ったことを口にする。
「あぁ……言われてみれば確かに。なんだろう、ガニメデが言ってた『霊力』とかが関係してんのかな? 俺達神の後継者と普通の人の違いは『霊力』の量って言ってたし」
この後の軍との戦いのことを考えているのか、心ここにあらずと言った感じでメイは気の抜けた声でライの疑問に答えた。
「そうかも。ガニメデは軍が部下を送ってきた時の為に日本に置いて来たし、アレクトちゃんは何か用事があるって冥界に行ってるから答えはわかんないけどね」
「……アレクト」
三日前の廃工場での作戦会議でアレクトはメイに渡したいものがあるからと言って、今は冥界に一時的に帰っている。
「アレクトちゃん、すぐ帰ってくるって言ってたのに……三日経っても帰ってこないね」
「……あぁ、でも必ず帰って来るよ」
「……そうだね」
戦いに向けて集中力を上げているメイを見て、ライはあまり声をかけない方が良さそうだと思いそれ以降はホテルに着くまでの三十分程の間タクシーの中は静まり返っていた。