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責任

「おや、久しぶりですね。来られるのはもう少し後だと思っていました」

 メイがアレスの部下に苦痛を与えるのをいつも通りの涼しい顔で眺めていたガニメデが、来訪してきた何者かに声を掛ける。

「はは……そのつもりだったんですけど、面白そうなことしてたんでつい出てきちゃいました」

 ガニメデとの会話に気付き、廃工場にいた全員が来訪者の方に振り向く。

「なんだ、お前か……」

「相変わらずライさんは僕のことが嫌いみたいですね?」

 来訪者を見た瞬間、ライは眉間にシワを寄せて嫌そうな顔を浮かべる。

「久しぶりだね……サファル。会いたかったよ……」

「お久しぶりです、メイさん……そうだろうと思っていましたよ」

 来訪してきたのはサファルであり、メイはアレスの部下達の返り血に染まりながら落ち着いた声で話しかける。

 サファルも相変わらず掴みどころのない漂々とした雰囲気を纏いながら、落ち着いた様子で返答した。

「それで、何から聞きたいですか?」

 サファルはそう問いかけながら初めて会った時の様に、廃工場の倉庫に積まれた鉄骨に座り込む。

「そうだなぁ、最初聞きたいのは……『スイセン』のことをヂンに教えたのはサファルかい?」

 メイは落ち着いているが確かに殺気のこもった声でサファルに問いかける。

「はい、僕が彼にあなた方の情報と一緒に教えました」

 メイの質問に対して、サファルは一切悪気や罪悪感が無いと言った様子で普段と同じ声のトーンで平然とそう答えた。

「でもそれは初めて会った日にお伝えしましたよね? 僕は誰の味方をするつもりもない代わりに、誰にでも知ってる情報を与えるって」

「あぁ……言ってたな」

 メイは怒りがないわけではないが、それを表には出さずに落ち着いた声でサファルに返答する。

「……だけど君はこうも言ったよね、誰かに情報を教えた場合教えられた側の情報を教えた側にも与えるって?」

「はい、言いましたね」

 サファルはメイの放つ殺気に臆することなく平然と答える。

「でも君はヂンに情報を教えたのに、今日まで俺らの前に姿を現さなかったよね……それっておかしくないかい?」

 メイはサファルを睨み付けながら、より殺気を強めて話を続ける。

「仮にサファルがスイセンのことを教えてからすぐにヂンが中国から出発したとしても、神器で世界中を飛び回れる君が俺達の前にヂンより遅れて現れるのはどう考えても不自然でしょ」

「はは、確かに不自然ですね」

「どうして今日まで俺達の前に現れなかったんだい? 君がヂンより先に俺らの前に現れて情報を教えてくれてたら皆は殺されずに済んだかもしれないのに……」

 メイは悲しみと怒りが混じったような複雑な表情を浮かべながらサファルに問いかける。

「……確かに僕が先にあなた方にヂンが攻めてくる正確な日時を教えていれば結果は変わったかもしれない……だけどあなた方にも非があるでしょ?」

 サファルはいつもの張り付いた様なにやけ面から、冷淡な笑みに変わってメイ達に聞き返す。

「初めて会った日の別れ際に僕言いましたよね、アレスの後継者が攻めて来るって……それなのにあなた方はどうして呑気に学校になんか行ってたんですか?」

「それは……」

 サファルに聞き返されメイは黙って聞き流していたが、ライは思う所があったのか動揺してしまう。

「元々ヂンが攻めてくることは分かってたんだ……それなのに家族を守ることより、日常を送ることを優先したのはあなた達でしょ?」

サファルは冷笑を浮かべながら、メイを見つめた。

「言いたい事はそれで全部かい?」

「……えぇ」

 サファルは自分が言った事に思ったよりも動揺せず、落ち着いた様子のメイに戸惑いながら返事をする。

「そうか……だったらサファルは勘違いをしてるね」

「勘違い……?」

 メイは困惑するサファルを気にせずに話を始める。

「サファルがさっき言ったみたいな、俺達の考えの甘さなんかとっくに理解してるよ……それにサファルは最初から中立だって言ってから、ヂンが攻めてくることを教えなかった事には怒ってないよ」

「……だったら、何が言いたいんですか」

 サファルはメイの考えていることが分からず思わず聞き返した。

「俺が聞きたいのは俺達の情報をヂンに教えたのに、どうして俺達にヂンの情報を教えなかったのかってことだよ。別に皆が死んだのは君のせいなんて言ってない……勝手に話すり替えんなよ」

 メイは眉間にシワを寄せながら、イラついた様子でサファルに向かってそう言った。

「随分と雰囲気が変わりましたね、メイさん……前会った時はそんな殺気をぶつけてくる人だとは思いませんでしたよ」

「御託はいいからさっさと答えろよ……それとも情報提供者の神様に口止めでもされてるのか?」

 話を逸らそうとした事にイラついたメイが挑発するようにそう聞くと、サファルの顔から笑みが消えて真顔に変わった。

「何ですか、情報提供者の神様って……何かそう思う証拠でも?」

「証拠も何もサファルの発言にはおかしい所が多すぎるんだよ」

 指摘されたことを誤魔化したいのか言い逃れをするサファルに、メイが切り詰める。

「どうして初めて会った日の時点で俺以外の後継者全員の情報を知ってたんだい? あの日は殺し合いが始まってまだ二日目だ、いくら神器があっても世界中の人間の中から後継者全員を見つけられるのはほぼ不可能だ」

 メイは今までのサファルの発言を思い出して、不自然な点を次々と上げていく。

「それに初めて俺に会った時に君はハデスの後継者が参加していることよりも、ハデスの後継者が存在していること自体に驚いてるようだった……」

「……」

 メイに証拠を挙げられている間、サファルは真顔のまま黙り込んでいる。

「これはあくまで僕の感覚でしかないけど、あれは教えられた情報に無い存在がいたことに困惑してる様に見えたよ」

「はぁ……」

 メイに指摘されると、サファルは面倒そうに深い溜息を吐いた。

「わかりました……認めますよ、メイさんの言うように僕は殺し合いが始まってすぐに後継者全員の大まかな情報を貰っていました」

「それで……君に情報を教えた神は誰なんだい?」

 メイが質問するとサファルは両手を軽く上げて首を横に振った。

「すみません、それは教えられません。こちらにも事情がありましてね……」

「お前なめてんのか?」

「別にいいよ、ライ……」

 情報提供者の神の正体を隠すサファルにライが詰め寄ろうとするが、落ち着いた声色でメイが制止する。

「君に情報を与えた神には、いずれ何かしらの罰は受けてもらうつもりだけど……今知りたいのはサファル、君がどうしてヂンだけに情報を教えたのかだ」

「へぇ……」

 余裕のある表情に戻ったサファルに鋭い視線を向けて、メイは話を続ける。

「それでサファル……ヂンに情報を教えたのに今日まで俺らの前に現れなかったのは神の指示かい? それとも君が自分で判断したのかい?」

 メイが冷たく落ち着いた声で問いかけると、サファルは不敵な笑みを浮かべてメイと目を合わせた。

「そうですね……神の指示半分、僕の判断半分と言った所ですかね」

「それって……」

「どういう意味だ?」

 サファルの返答だけではよく分からず、メイとライは思わず聞き返した。

「僕が後継者全員に接触し情報を教えたりしてるのは神の指示ですが、誰に何を教えて何を教えないかは僕の判断です」

「つまりヂンに情報を教えたのは神の指示だけど、スイセンのことを教えたり俺らに今日まで会いに来なかったのはサファルの判断だと?」

「はい」

 メイが聞き返すとサファルはあっさりと頷いた。

「ただ誤解しないで欲しいのは、僕が何の情報を教えるかの判断は僕の趣味や好き嫌いで決めてるわけじゃないですよ……あくまで僕は神の指示に従って動いています」

「はぁ……まぁいいや、今はヂンの情報を教えてくれるならそれでいい」

「なっ……いいの、兄ちゃん?」

 サファルに対して追及せずに流そうとするメイに、ライが焦って確認する。

「別に許したわけじゃないよ、ライ……ただ今はヂンの方が優先だし、サファルは初めて会った日に忠告はしてくれてたんだ……警戒を怠った俺らにも非はあるよ。それに……」

 メイは凍り付きそうな冷たい目で見下して、サファルに言葉を投げかける。

「サファルには罰というか、償いとしてヂンを倒した後に協力してもらうつもりだから……」

「へぇ……それは楽しみですね」

 そう言いながらサファルはゆっくりと鉄骨から腰を上げて立ち上がった。

「では最初の『償い』としてお望み通りヂンの情報を教えましょう」

 サファルが言うヂンの情報を聞き逃さないように、メイとライは黙って耳を傾ける。

「先日言ったようにヂンは中国系マフィアの若頭です。マフィアの名は『民盾会ミンドゥンカイ』、中国の広東省、広州を拠点とする構成員三百人を誇る大規模マフィアです」

民盾会ミンドゥンカイ……」

 それからサファルはヂンについて二人に話していく。

「現在、首領であるヂンの父親が危篤状態のため組織の実権は全て若頭であるヂンが握っているため民盾会ミンドゥンカイ全員があなた方の敵と言っていいでしょう」

「それで、あいつはどこにいる?」

「基本は広州の街外れにあるアジトにいます。詳しい場所はお二人が中国に訪れてから案内します」

 サファルは話終えたのか二人にチラチラと視線を向ける。

「大体はこんな感じでしょうか……他に聞きたいことはありますか?」

「戦闘スタイルはどんな感じだ?」

 サファルが質問がないか確認すると、ライがすぐさま質問した。

「戦闘スタイルですか……アレスの後継者として覚醒する以前は流派まではわかりませんが主に拳法を使用していたようですが、今は神器の槍と盾をメインに使っているようですね」

「そうか……わかった」

 ライは自分が戦う時のことを想像したのか、少し間を開けてから返事をした。

「メイさんは何かありますか?」

「いや、特にない」

「……そうですか」

 メイが特に質問はないと言うと、サファルはこの場にいる全員を眺めた後に倉庫の扉へと歩き出した。

「では僕はこれで帰らせてもらいますね。中国で会うのを楽しみにしてますよ」

「待て、サファル……」

 この場を後にしようとしたサファルをメイが呼び止める。

「何ですか、メイさん」

「最後に……伝言を頼めるか」

「誰にですか?」

 サファルは足を止めてメイの頼みを聞くことにする。

「君に情報を教えて高みの見物をしている神に……『ヂンへの復讐が終わったら必ずお前をそこから俺達の戦場に引きずり降ろしてやる』って伝えてくれ」

 メイが伝言を伝えると、サファルは静かに微笑んだ。

「そういうことなら、わざわざ僕に伝える必要はないと思いますけど……わかりました、必ず伝えておきますよ」

「それってどういう――」

 メイ達が自分の発言の意味が分からず首を傾げる中、サファルは神器である羽の生えた靴を顕現させる。

「では、また……」

 そしてサファルは神器を使って風の様にどこかへと消えていった。

「……まぁいいか」

 サファルの去り際の言葉の意味に困惑しながら、メイはライ達の方に体を向ける。

「それじゃあ作戦を考えようか」

「……うん」

 それからメイ達はヂンのアジトへ攻め入る作戦を、日が暮れるまで話し合うのだった。


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