神地メイ 17歳
―― 17年後 日本 東京都内――
「兄ちゃんご飯まだー」
「……兄ちゃん、トースト机に持ってくよ?」
児童養護施設「スイセン」では、今朝も子ども達の声が忙しなく聞こえてくる。
「あぁ、ありがとう鈴……お前らもうすぐ全員分できるから席ついてろ!」
この施設で最年長のメイは、高齢になって腰を悪くした院長の代わりに朝食の準備をしていた。
「スイセン」には現在メイを含めて十二人の子供達が暮らしており、メイ以外は小学校低学年の幼い子供ばかりであった。
「ごめんよメイ、今日は誕生日だって言うのに私が腰を悪くしたせいで……」
「別にこれくらいどうってことないって、院長もいい年何だしさ……あっちでチビ達と座っててよ」
申し訳なさそうに話しかけてきた院長に対して、メイはスクランブルエッグを作りながら笑って応えた。
院長はメイに言われた通り、子供達の傍に座って朝食が作り終わるまで話をしていた。
(院長ももうすぐ還暦だし、俺が出ていったら一人で大丈夫かな……)
メイは産まれて直ぐに両親を交通事故で亡くし、双子の弟と共に「スイセン」に入所した。
その時は院長もまだ四十代の元気な女性で、一人でも充分に施設を運営できていた。
しかし二年前に腰を悪くしてからは一気にシワと白髪が増え、家事や施設の掃除などできないことが増えてきていた。
「お待たせ、朝飯できたぞ」
メイは机の上にスクランブルエッグと焼いたベーコンの乗った皿を、院長と子供達の前に並べた。
「痛っ!」
「まだ、『いただきます』言ってないだろ?」
先に食べようとした子どもの手を、メイは軽く払った。
そしてメイが席に着くと全員が手を合わせる。
「それじゃあ、いただきます」
「「いただきます」」
号令を済ませると、すぐに子供達は朝食を慌ただしく食べ始める。
そんな子供達を穏やかな表情で見つめながら、メイはトーストにかじり付いた。
子供達はすぐに朝食を食べ終わり先に制服に着替えていたメイ以外は全員、自分の部屋に着換えに戻って行った。
そしてメイは朝食を食べ終わって食器を洗うと、子供達と一緒に学校へと向かった。
「それじゃあ院長、いってきます」
「「いってきまーす」」
メイと子供達がそう言うと、院長は静かに手を振って見送ってくれた。
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神地メイ、高校二年生。
日本人の父とギリシャ人の母の間に産まれるも、産まれてすぐに両親は交通事故で死亡。
その後児童養護施設「スイセン」に双子の弟と共に入所し、現在も「スイセン」で生活中。
ハーフであるが青い瞳以外は、目にかかるまで伸びた黒髪、日本人のような平面的な顔立ちなどハーフらしさはあまり感じない見た目をしている。
孤児院の経営が厳しいので少し守銭奴的な所はあるが、基本的にはどこにでもいる男子高校生である。
――ある一点を除いては……。
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