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急襲

 ―― 三日後 ――

「サファル様に忠告を受けてからもう三日ですかぁ……中々攻めて来ませんね」

 学校で授業を受けているメイに、退屈そうにしながらアレクトが話しかける。

「まぁまぁ、確かにいつ来るか分かんないから気を張って疲れるけど、攻めて来ないに越したことはないよ……こっちが先に行動して悪いことなんてないんだから……」

 窓際の席に座るメイは周りの生徒や教師に怪しまれないように黒板に顔を向けながら、小声でアレクトと会話をする。

「それにサファルの情報の信憑性が分からないから、ハッタリの可能性もあるしね」

「えっ! 攻めて来ないかもってことですか?」

 机の上で寝転がっていたアレクトが勢い良く体を起こし、メイに問いかけた。

「その可能性もあるってだけだよ……本人は嫌がっていたけど、サファルは少しライに似てるから何となくわかるんだよね……目的のためには嘘をついたり、人を騙すことにためらわないタイプだと思うから……」

(……それにサファルは恐らく神の誰かから情報をもらってる……それを隠してるってことは何か俺たちの知らない事が裏で動いてる可能性もあるから警戒はしておかないと……)

「確かに二人とも何考えているか分からないというか……腹に一物抱えてそうではありますね……」

 メイの発言にアレクトが渋い顔をしながら頷く。

「はは、でも二人とも悪い人では無いから……まぁ人間何か腹に抱えているものだし、多かれ少なかれ嘘はつくものだよ……」

「……メイ様?」

「少し話がそれたけど、サファルの情報の信憑性がどうあれ攻めてくる可能性がある限り警戒しておおいた方がいいよ」

 アレクトが首を傾げたのをスルーして、遠くを眺めるような目をしながらメイが呟く。

「それはそうですけど、気を張り続けるのは疲れますよ……」

「もう少しの辛抱だよ、ライに教えてもらって俺もそこそこ戦えるようになったし……中国への飛行機もライがお養母さんに頼んでいるみたいだしさ」

 この三日間、メイは一通りの武道の経験があるライにある程度の戦い方を教えてもらっていた。

 メイの修行と同時にライはアレスの後継者がいるという中国へ行くための飛行機の準備も進めていた。

「そう言われてもですねぇ……」

 アレクトは不服そうにしながら、メイの机の上に寝転がった。

「まぁ確かに俺も気疲れはしてるかも……ふぁー、最近眠りが少し浅いし……」

 メイはあくびをしながら、教室の前の壁に掛かっている時計に視線を向ける。

(もうチビ達は下校して家に帰ってる時間だな……最近はライとの特訓で帰るの遅くなってあんまり凝った料理作れてないし、チビ達の為に今日は唐揚げでも作ろうかな)

 メイは晩ご飯の献立を考えながら、ふと左の方を向いて窓の外に広がる街の景色を気の抜けた顔で眺める。

 窓の外では大粒の雨が降りしきっており、校庭には大きな水溜りができていた。

(雨だいぶ強くなってきたな……天気予報だと小降りの予報だったのに……うん? 何だあれ……)

 雨が降りしきって遠くが見ずらい中何かが宙に浮きながらこちらに近づいてきて、メイは眉間にシワを寄せて目を凝らす。

「あれは……まさか!」

 窓の外を眺めていたメイが突然慌てた様子で椅子から勢い良く立ち上がる。

「どうした神地、まだ授業中だぞ?」

 教師が声をかけるが、メイはまったく聞こえていない様子で窓の外を神妙な面持ちで見つめる。

「……マジかよ、今真っ昼間だぞ……しかもこんな人に見られる場所で……」

「どうしたんですかメイ様、急に立ち上がって?」

 何もわかっていないアレクトが声を掛けるがメイは反応せず、窓の外を真っ直ぐ見つめながら冷や汗を流している。

「……みんな頭伏せて!」

 メイが大声で呼びかけるが、クラスメイトは意味が分からずメイを頭のおかしい人を見るような目で見つめた。

 しかし次の瞬間教室の窓ガラスが割れ、アレスの部下の男が突っ込んで来ると一斉に悲鳴を上げてしゃがみ込んだ。

「あぁ、もう!」

 アレスの部下の接近に直前で気付いて立ち上がっていたメイは初日に奪った剣を顕現させ、突進して来た男の剣を弾く。

 そして教室の中で戦うとクラスメイトを巻き込むと即座に判断したメイは、男の剣を弾くと同時に距離を詰めて男の服を掴みそのまま一緒に窓の外へとダイブした。

「なに!」

 男は一瞬で教室の外へと投げ出されて困惑した声をあげ、メイが三階にある教室から飛び降りたことで教室からは再び悲鳴が上がった。

窓の外へと飛び出したメイは男の服を掴んだまま、真下にあるアスファルトの通路へと勢い良く落ちていく。

「ぐはっ!」

「痛っ!」

 メイは男をクッションにして地面に落ちたが、衝撃が完全に吸収されずに伝わってきて渋い顔を浮かべる。

 背中から勢い良く地面に叩き付けられた男は借り物の体とはいえ激しい痛みに襲われ、苦しそうに身悶えている。

「痛ってぇ……ってそうだ今のうちに」

 そう言うとメイはすぐに体を起こし、身悶えている男をうつ伏せの状態にしてから背中に乗って動きを封じた。

「やめろ、貴様!」

「えっと……」

 体をジタバタさせて抵抗しようとする男の背に乗りながら、メイはライに教えてもらった格闘技のシメ技を思い出して男の脇に左腕を通してから右腕で男の首を締めていく。

「うっ……うぅ……」

 もがき苦しむ男に対してメイは一切力を緩めることなく首を締めていく。

 そうして最初は抵抗していた男だったが徐々に動きが鈍っていき、二十秒程で完全に意識を失った。

「ふぅ……何とかなったな」

「おい、何だあれ?」

「見てみろよ、すげぇ事になってるぞ!」

 男の意識を奪えたことでメイが安心して安堵の溜息を吐くと、校舎のほうから各々の教室の窓際に集まった生徒たちの騒がしい声が聞こえてくる。

(やばい、目立ち過ぎたか……)

 自分が見られているのかと思い緊張するメイだったが、生徒たちの声をよく聞くと不自然な点が出てきて首を傾げる。

「おいおい、めっちゃ燃えてるぞ!」

「あんな大きな煙、初めて見た……」

(燃えてる? 俺は火なんて使って――)

 疑問に思ったメイは振り返って生徒たちの指さす方向に顔を向ける。

「……まじかよ」

 メイが振り返ると学校から1キロほど離れた所で家屋の集団火災が発生しており、雨が降っているのにも関わらず黒い煙が立ち昇りその下では赤い炎が燃え盛っていた。

「待てよ……あそこって……」

 何かに気付いたメイは顔が青ざめていく。

 そこに先程まで教室の机の上にいたアレクトが降りてきて声を掛ける。

「いやぁビックリしましたね、メイ様。まさか学校にいる時に襲って来るなんて……でも、たいしたことなくて良かったです、ビクビクしてたのが恥ずかしいくらいですよ……どうしたんですかメイ様?」

 話を聞いていないメイの様子に気付いて、アレクトが問いかける。

「アレクト……」

「はい、どうしました?」

「ここは任せた――」

 そう言うとメイはアレクトの返事を待たずに、火事が起きている方向に向かって走り出した。

「えっ、ちょっとメイ様⁉」

 困惑したアレクトが呼び止めるが、メイの耳には届いておらず物凄いスピードで駆け抜けていった。

(急がないと……あそこにはスイセンが……皆無事でいてくれよ)

 火の手が上がっている範囲の中にはメイや子ども達が暮らす「スイセン」があり、それに気付いたメイは皆の無事を祈りながら全力で駆け抜けていくのだった。

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