⑩見つかってしまいました
「はい。現状あの方は床に伏している…という事になっていますが、ここでメイドの誰かを処分したとあっては大奥様とミレーナ様が疑われてしまいます」
「どうして?あの女が八つ当たりをしたと思うかもしれないじゃない」
「確かにその考えもありましょう。ですが、その考えを持つ者は多くありませんでしょう。
何故ならあの方の評判、そして屋敷を取り持っているのは大奥様とミレーナ様だと社交界では広まっているからです。
メイドを処分したとあれば理由が必要となりますが、元は公爵家で採用した使用人たちということもあり、しっかりとした理由もないまま処分したとあっては大奥様とミレーナ様に皆さまの目が向けられてしまいます」
「………じゃあどうするのよ。貴方さっき言ったじゃない。
時期尚早だって。それって何か方法があるってことよね?」
「はい。まずアルベルト様が帰って……」
ベルッサの言葉が不自然に止まりました。
まるで何かに気付いたかのように言葉を止めたベルッサに、ミレーナ様とお義母様は不思議そうに見つめます。
「なによ。急に黙っちゃって、続きは?」
「………誰か聞いています」
「「え!?」」
お義母様とミレーナ様が驚きの声をあげました。
私も私に気付いたベルッサに驚き、思わず声が洩れそうになりましたが咄嗟に口元を覆いました。
カツカツと足音が響きます。
私は遠ざかるのを待っていましたが、足音は小さくなるどころか大きくなるばかり。
私は誰かが近づいていることを悟りました。
私はバクバクと心臓が鳴り響くことをじっと聞きながら、息を潜めました。
見つかったらヤバいことなど本来であればありえないはずなのに、今見つかってしまえばヤバいことになると悟っていたのです。
そしてピタリと足音がやみました。
「アンタ……」
うっすらと目を開けた先に、最初に姿が見えたのはミレーナ様でした。
眉を顰め、目が吊り上がり、とても怒った表情を浮かべていました。
そして少し遅れてお義母様とベルッサが後からやってきます。
「す、すみません。仕事が終わり就寝しようとしたところお二方が帰宅される音が聞こえ……」
私は咄嗟に言い繕いました。
ですが嘘ではありません。
実際に仕事が終わった時、帰宅した音を聞いて挨拶をと思ったのは事実なのです。
「聞いてたんでしょ!?耳を立てて!」
「い、いいえ!とんでもございません!」
「ならなんでアンタの足音が聞こえてこなかったのよ!
どうせ弱点でも掴もうとこそこそと忍び寄って、聞き耳立ててたんでしょ!?」
「誤解です!」
「言い訳するんじゃないわよ!」
声を上げたミレーナ様は高く手を振り上げました。
私は思わず目を瞑りました。
やってくる痛みを覚悟し、受け止める為に。
そしてバチンと大きな音が廊下に響きました。
私は体調不良が積み重なったことも要因としてあったのでしょう、私の体は廊下に倒れこみました。
「ハッ、大げさに倒れこんじゃって」
「いい気味よ。これに懲りたら二度と盗み聞きしようとするんじゃないわよ!」
床に頭をぶつけてしまったのでしょうか。
ぐらぐらと歪む視界の中、三人が立ち去る姿が見えました。
そして私は誰に助けられることもなく、床に倒れたまま意識を失いました。
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