表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

死人を神社に連れて行くのはやめなさい。

作者: 雲崎友来

死人を神社に連れて行くのはやめなさい。

微ホラー 交通事故の様子が出てきます。苦手な人はご注意を。

 私が生前お世話になった神社がある。

 祖父の祖父の代の前から地元のある神社だ。何かあるとその神社に行き、神主に相談していた。うちだけじゃなく、近所の人もよく行く神社だ。

 死んでから5日たって、自分の葬式も見たし、母の泣き顔も見た。喪主の父の言葉も聞いた。友人たちも事故死で顔の見られない葬儀に来てくれた。そこまでされれば自分は死んだと納得せざるを得ない。


 初め、車同士がぶつかって、ひっくり返ったとき、車の外に投げ出さたのかと思ったのだ。空中を2回転して、電柱にぶつかった。痛くはなかった。とっさに目をつむり、手をあげ、頭を守った。

 しかしどこも痛くはなかった。

 私は車の上に立っていた。運転席に立っていた。もっと正確に言うと、横倒しの車の上、電柱にぶつかりつぶれた運転席と、中に挟まった私の体の上で、車体の外から中を覗き込んでいた。

 私の体が目を開き、こちらを見て目が合った。そしてそのまま動かない。見開いた目がなんとも不気味であった。

「大丈夫か?」

「はい、大丈夫です。」

 声をかけられ、振り向いた。スマホを持ったおじさんが、電話をかけながら片手間に走って来た。スーツを着ている。飲み屋がえりだろうか。

「…自己です、運転席がつぶれていて、もう一台は畑に突っ込んで、はい、2台です。住所は…。」

 おじさんは電柱の住所を読み上げた。

「一台は中から声はしません。もう一台はうめき声が。」

「いや、私は無事ですよ。」

 言ったが聞こえて無いようだった。しかし運転席には無事ではない自分がいた。

 救急車が着き、パトカーが着き、うめき声がする白い車から金髪の男があざだらけで出てきた。ストレッチャーに乗せられ、救急隊員によって運ばれていた。

「避けようとしたんだ。…いってえ。なんか人?が倒れていたように見えたんだよ。」

 私は道路を見た。確かに黒い何かが横たわっている。人型の何かだ。対向車線にそんなのがあったなんて気が付かなかった。

「いってえ…」


 痛い。


 そう聞いて急に自分の体が痛み出した。自分の体の入った車のそばで、うずくまった。痛くなかったに、いたい。あれだけの事故だ。痛くなかったほうがおかしい。バタバタと交通整理にと動き回る人に、訴えかけた。

「痛い、いたい、自分も連れて行ってくれ!」

「痛い、胸が押しつぶされそうだ、出血もしている。早く病院に連れて行ってくれ。」

 車の腹を見に来た警官の足を掴もうとして手が届かず、痛さでその場から動けなくなった。待ってくれ待ってくれ、いたい、いたいんだ。

 パトカーが3台も来て、警官がたくさんいるのにだれ一人として私の元に来てはくれなかった。金髪の男が救急車に乗って、行ってしまった。

「痛い、自分も…」

 救急車が後一台あるだろう、それに乗せてくれ、早く早く病院に。うずくまって痛みに耐えた。

 初めは急いでいた救急車の隊員たちも、駆けつけた警察官も、男が救急車に乗った後は淡々と、事務手続きのように、仕事をこなしていた。重機によって車体が起こさた。

「こりゃ、ひどいね。」

 中を見た年かさの警官の言葉が耳に残った。



 気が付くといつの間にか病院にいた。

 病院服に着替え待合室にいた。体は痛かったがどうやら助かったらしい。外来の、暗い受付を見て、ようやくホッとした。あの事故でどうやって助かったかはわからないが、今生きてここにいる。手を見れば傷一つなく、おでこに手を当てて椅子にもたれかかった。重力を感じないのはいまだ感覚が戻っていないせいなのだろう。

 こんなに軽症なら、あの金髪の男のほうが重傷そうだ。

 手術室に続く廊下に、若い女性がかけて行くのを見た。派手な見た目の女性だ。そのあとを中年の男性が続いて、看護師の話を聞いていた。中年の男性は看護師の話を聞かずに、こちらに気が付き会釈をしたので、自分も会釈を返した。

 面差しがあの金髪の男に似ていたので、きっと家族だろう。



 ガラスで出来たドアが開いた。中年の男女が入って来た。いつの間にかあたりはすっかり明るくなっていた。ここは地元の警察署だ。前を通ることしか、したことがなかった。

 待っていた女性警察官が名前を聞いて、こちらへ、とエレベーターへと案内していた。私の両親だ。

 家にいたままの格好で来たのだろう、こちらには気づかずに案内されたままエレベーターに乗って行ってしまった。私は慌てて後を追った。先ほどまで病院着を着ていたはずだ。今はワイシャツにいつものズボン。いつの間に着替えたんだろう?父母が昼間なのに、薄暗い廊下を歩いている後姿を見て、声をかけたが、かすれてしまっているのか、全く気付いてくれなかった。

「母さん!父さん!」

 今度はちゃんと声が出た。そう感じた。しかし母は振り返らない。

「こちらにいます。」

 重そうな扉を開けて、やけに大きい空調の音が耳についた。母のぐちゃぐちゃの髪が廊下から中になびいたのが分かった。

「お顔は見ないほうがいいかもしれません…。」

「見ても、いいんですか?」

「いいですが、その、損傷が激しくて。ご覧にならないほうが…。」

「本当にあの子なんですか?」

 免許証入れと、それについた家のカギ。財布とスマホがトレーに乗っていた。スマホにはひびが入っていた。

「車の中の免許がそうでしたので。体に特徴のあるほくろなんかありましたか?足や、手に。」

 そう言って顔に白い布がかけられたベッドを囲んだ。父は免許証入れを手に取り、目をつむっていた。免許を取った時、父母にプレゼントされたものだった。家のカギをなくすといけないから、免許証と一緒にしとけと言われた、革製の愛用品だった。

「ほくろ…手の、右手の甲に、真ん中のところに、小さい時からほくろがあって…。」

 母がすり足で体の右側に行き、布をどかして右腕を出す。

「ご飯を食べるときいっつも見えるの…。」

 その手にはほくろがあった。思わず自分の手の甲を確認する。そこにもほくろがあった。母が躊躇なく顔の布をめくった。顔の半分がつぶれた私の顔だ。不気味だった目は閉じている。鼻から下がなかった。つぶれていた。母はそれでも私の名前を叫んで、縋り付いて泣いていた。嘘だと言いながら崩れ落ちていた。そんな母を父が珍しく、肩を抱き支えていた。

 なんでそこに自分がいるんだろう、私はここにいるのに。いなくなっていないのに。

「おい、ここにいる、母さん、だから泣くなよ、母さん。」

「昨日まで、元気、だったのに。」

「だからここに、いるんだって!」



 この5日間、みんなに気が付いてもらおうと様々な努力をした。テレビをつけたり消したり、木でできた食器を落とそうとしたり。しかしだれも私の仕業だと思ってくれなかった。泣き叫び、殴りかかり、無視され続けてようやく自分が死んだと理解した。そう理解してから物にも触れなくなった。自分で自分の葬式を見ることになるなんて、なんて滑稽なんだろう。自嘲気味に晴れた近所を散歩していた。子供のころ遊んだ場所。今はあまり合わなくなった幼馴染と遊んだ公園。小学校の時引っ越してしまった親友の住んでいたマンション。中学校の時に好きだった子の、家に生えている金木犀、通学路の街路樹。

 私はあの時死んだのか。あの道で。見通しの良い畑と電信柱のある道だった。急に白い車がこちらに飛び出して来て、そのままぶつかって。いや待て、あの時、ぶつかった時、確か白い車には金髪の男のほかにもう一人、だれか乗っていた気がする。それにあの黒い人型は何だったのか。また見に行こうと私はあの道に行った。思いのほか早く着いた。電柱と畑に事故の跡があり、車通りはそこそこある。間違いなく自分が事故を起こしたところだ。畑の持ち主がつぶれた野菜を、1か所に積み上げていた。その作業が一段落すると、地面に黒いしみがあって、そこを掘り返して袋に入れていた。

「災難だったな。」

 自分に声をかけられたのかと思わず振り向くと、ほっかむりに作業服のお爺さんが、土の入った袋を縛っている人に声をかけたのだ。

「ああ、田んぼに突っ込まれるよりは、まあ、畑のほうがマシだわね。」

「車引き揚げんのも楽だしな。」

「ああ、思ったより早よぅどかしてくれて助かった。なんか、この辺に黒いのが倒れてたってよ。若いかみさんが菓子もって謝りに来たわ。若いがんは知らんのかね。」

「そりゃ、地元の祭りにもあんま来んからな。」

「なくなったのも若いし、気の毒にね。」

「そうだな。」

「俺ぁこれ、捨ててくるから、またな。」

「だな、もう夕暮れだ、黒いがんが出るとわりぃやな。」

 何の話をしているんだろう。《黒いがん》とは何のことだ?訛りを取れば黒い奴、か?私は地元の祭りは小さいころ参加したきりだが、そんな話は聞いたことがなかった。家に向かって歩きながら、何気なく標識のポールに巻き付いている小学校の看板を見た。年季のいったそれは意識してみれば、この道に一定間隔で設置されていた。『事故多し、危険』「ちゅういしよう。こうつうあんぜん。」「飛び出し危険」中にはトラック協会の看板も混ざっていた。こんなに見通しのいい道で、なんでこんなに看板だらけなのか。先ほどのご老人の言葉がよみがえった。

 急に背筋が寒くなり、この場から一刻も去りたくなってでたらめに走った。

 私は見たのだ。事故の後、対向車線に《黒いがん》が、転がっているのを。人型のそれはわずかにぴくぴく動いていて、しかしそういえば警察官が、それに対して何か言っているのを聞いた覚えはなかった。

 古い迷路のような街並みを、めちゃくちゃに走ったせいで、見たこともないところについてしまった。生まれ育った町だったが、ここは住宅が密集していて方向感覚が狂う。黄昏に人もいない。いても私の姿は見えないのだろう。ちょうどいいところに、小さな公園と座れそうなベンチがあったので、腰掛けた。これからどうしよう。葬式の一段落ついた家に帰るか。しかしどんなに話をしたくても、相手には何にも聞こえないのだ。父と母の暗い顔も見ていたら滅入ってしまう。大学に通う妹が二人に話しかけ、何とか生活させている状態だった。

 ではこれからどうしたらいいんだ?夕焼けの空を見て、少しづつ流れる雲を見ていた。

 目の前に影が横切った。なんだろうと正面を向くと、公園の入り口から中年のおばちゃんが歩いてきた。子供たちも帰って誰もいないこんな公園に、何の用なんだろう。ぶしつけに視線を送るが、おばちゃんがまっすぐこっちに来た。迷わずこっちに来たので、ベンチに用があるのかと、立ち上がろうとした。

「あなたここで何してんの?」

 はっきりをそういった。周りには誰もいない。ベンチの前でぴたりと止まり、明らかに私に話しかけていた。この数日、全く話を取り合ってくれない人ばかりで、正直心にきていた。

「私の、事ですか。」

「他に誰もいないでしょう。」

「でも。」

「じゃあ行こうか。私について来て。」

 おばちゃんはくるりと背を向け、公園の入り口に歩いて行った。あまりのことに私はその背を見送ってしまった。ついて来ていないことに気が付いたおばちゃんは、来ないの?とこちらに行ったので、慌てて彼女のことを追いかけた。

 横に並ぶと小さなおばちゃんはにこりと笑った。

「あっちでお祭りをやっているのよ。」

 よく見れば藁で寄った紐に、白い紙が挟まっていて、等間隔で並んでいる。お祭りの時に家の塀に巻く奴だ。道に柱が立てられて、巴模様の提灯が並んでいた。電気もついてほのかにオレンジ色に輝いている。夏祭りのワクワク感が思い出された。地元の祭りは夏の終わり、蝉の声が変わるころだ。

 しばらく行くと、何度か通ったことのある道に出た。浴衣を着た子供が、前を歩いていた。日が落ちてきていよいよ祭りの光が強くなった。真っ赤で小さな鳥居が見えてきた。周辺の人だろうか、祭りの光に引き寄せられて、鳥居の中に行列ができていた。最後尾に並ぶと、祭囃子が中から聞こえてきた。小さなころ、父に手を引かれよく行ったものだ。ここの神社のは、初めてだったが、この時期にやっていたのか。

 後ろに人が並んだが、気にせずにおばちゃんに話かけた。

「ここのお祭りは初めてです。どんな祭りなんですか?」

「ここはね…。」

「あんたこんなところで何やってんの。」

 後ろの人に唐突に声をかけられた。

 首にワイヤレスイヤホンをしている、茶髪の高校生だ。振り向いて彼を見て、固まってしまったのは、彼がかなりのイケメンだったからだ。思わず見とれると、小首をかしげている彼が、ああ、と何か合点がいったのか、私の手を取って歩き出した。日本人離れした顔立ちだ。なにせ瞳が青い。後ろからおばちゃんの叫び声がした。

 しかし高校生は私の手を離さず走り出した。見慣れた商店街を抜け、路地を抜け、清水が流れる小山のふちについた。この山の上には私の祖父がよく来ていた、この辺1番の神社があった。朱塗りの橋に、竹ぼうきを持った人が、落ち葉を集めて掃き清めていた。着物に袴、黒髪の男性だ。

「ただいま、まひる。」

「ん、おう、おかえり。」

 袴の男がこちらを向いた。予想に反して真っ赤な瞳がこっちを見た。少し驚いてしまって一歩下がった。

「おい、船河、死人を神社に連れてくるんじゃない。」

 赤い目の男の後ろ、石階段の上からもう一人若い男が下りてきた。こっちは髪が長い。片目が髪で隠れていた。

「なんか変なところに並んでたんだよ。」

 へらへら笑いながら答える、私を連れてきた船川と呼ばれた高校生は、ここまでの経緯を簡単に説明した。先ほどから聞くに、私が死んでいると3人は認識しているようだった。

「あの、私は死んだんですよね。」

 そういうと髪の長い男が答える。

「ああ、死にました。何日くらい経ちましたか?」

 抑揚のない声で平然と聞かれ、こちらも落ち着いて答えられた。

「5,6日経ちました。誰に声をかけても答えてくれなくて、心細いところに、中年のおばちゃんに声をかけられて、祭りに行こうと誘われたんです。」

「そのおばちゃんは、知っている人でしたか?」

「いえ、知らない人でした。」

「…知らない人に、ホイホイついて行ってはいけませんよ。」

「あ、はい…。」

 髪の長い男性は、それでも10代後半で、だいぶ年下に見えた。そのだいぶ年下に、子供みたいな説教されてしまった。赤い目の男が手をあげた。

「一ついいか、さえぎ。」

「なんだ。」

「日本人は死んだらどこに行くと習うんだ?」

 少し考えた後、髪の長い男が答えた。

「大体、三途の川じゃないか?」

 流石の私も三途の川は聞いたことがあった。学生時代三途の川が見えたなんて、よく冗談で言ったものだ。

「え、川なの?俺たちのほうも川だよ。川を越えて7つの門を抜けた先にあるのが冥界だよ。一緒だね。」

「元が仏教の考え方だから、そっちと発祥は近いだろう。」

「へえ、おもしろいね。」

 能天気な高校生と違い、髪の長い男がこちらを真剣にじっと見ていた。

「いいか、神社は血、死、を穢れと嫌う。49日を過ぎるまで、家族も参拝してはいけない。なぜなら、49日を過ぎるまで、亡くなった人が今のお前みたいに近くにいるからだ。その家族が誤って《見かけだけの神社》に入ってしまったら、お前の魂は正しい転生輪廻から外れる。…魂をもてあそぶ《やつ》がいるんだ。」

「それって、あの、《黒いがん》?」

「…この辺のお年寄りは知っているけどな。あれは祟り神を祭ってんだ。出てこないでくださいね、って。結界が弱くなってんのかねぇ、こればっかりはどうしようもないな。」

 さらっと黒髪が落ちて、小首をかしげた赤い目をした男が、これからどうするんだ?と聞いた。

「近くに寺があるから、49日過ぎるまでそこにいるか、未練がないならその時点でだれかが迎えに来るだろう。うちは神社だから入れられないし。住職に話せば何とかなると思う。」

 ふむ。そういって黙った。

「じゃあ俺が案内してこよう。船川はよく払ってから鳥居をくぐれよ。」

「はーい。」

 赤い目の男はこちらを向いた。

「俺の名前はまひるだ。住職には俺が話そう。」

「まかせた。」

 髪の長い男が短く言った。

「じゃあ行ってくる。」

 そう言ってよどみなく歩き始めた。私は残った二人に礼を言って、まひる、の後を追った。

「これから私はどうなるんですか?」

「…、家に行くぶんにはいいだろう。寺と家の往復だ。問題ない。さっきのみたいなところに行かなきゃ平気だろう。行ったら迎えに来た人が悲しむからな。」

 商店街を抜けながら、まひるは答えてくれた。

「誰が迎えに来てくれるとか、あるんですか?」

「基本的に先に亡くなった親族だな、あんたは若そうだから両親は健在だろう?おじいさんかおばあさんだと思う。顔の知っている人が知っている時のまま来る。それか稀に、生きている人の生霊が来るときもあるが、それはあんまりよくないからついて行かないほうがいいな。」

「生霊…。」

「まひる君、なんでそんなにでっかい独り言言ってんの?」

 八百屋のおばちゃんがまひるに声をかけた。そういやあそうだった、私は人に見えないんだった。

「ああ、ちょっと迷い人に説教を垂れてた。」

「あら、そうなの…。」

 言他に変わった子ね。と思われているようだが、まひるは気にしたそぶりもなくじゃあまた買いに来る。と手を振っていた。一応商店街を抜けるまで、話しかけるのはやめておいた。小道に入って人がいなくなった時に、聴きたかったことを質問することにした。

「まひる、さんもだけど、他の人もどうして私が見えたんでしょうか。」

「…世界のことわりとして、零体は視認できなくなる。つまり、死んだら魂だけになる。お前の肉体はもうないから、魂のよすがが消えたんだ。稀にそれが見える人がいる。…お前を神社に連れて行った女性、あれはきっとうつつにいないもの。さっきいた、髪の長い神主がいただろ?あいつは霊と波長が合いやすくて、見えるんだろう。」

「波長…」

「ん、原子核の粒子が振動していて、その振動と同じものが認識できる。あいつはそれを合わせるのが得意なんだ。生まれながらにその才能があった。つまり、」

「超簡単に言うと。」

「はい。」

「幽霊が見える体質。」

「うん、そうだと思った。まひるさんもなの?」

「似たようなものだけどちょっと違う。説明が難しい。ついたぞ。」

 立派なお寺だった。自分の代々のお墓があるところではなかったが、まひるさんを歓迎してくれていた。幽霊を置いていく、と言った時は変な顔をしていたが、こちらをじっと見て、ああいるね、と心よく了解してくれた。

「いたずらとかしないかな?」

「するなよ。あとプレイべーととかものぞくな。」

「しませんよそんなこと!」

 頬を膨らませて抗議したが、しないって、とだけ伝えられた。

「暇になったら昼間に、高校へ来ればいい。通っているから。」

「え、まひるさん、も、高校生なんだ?」

「どういう意味だ?」

「なんか言動が老けてるから…。」

「…。」

 プイとあらぬ方向を向いた。

 それからは気楽な毎日だった。家の中も徐々にいつもの様子になっていったし、父も母も元気になっていっているようだった。心配はいらないようだ。いつまでも引きずっていたらどうしようかと思った。そうなったらあの高校生たちに伝言でも残そうかと、そう考えていた。

 49日になると祖父と祖母が迎えに来た。彼らの言った通りだった。高校に行って、体育の授業中らしき彼らに、遠くから手を振ると、小さく振り返してくれた。彼らに出会えてよかった。二人に連れられ歩いていると、桜の並木道についた。とてもきれいな道だ。桜吹雪が舞っている。

「この道をまっすぐ行くと川に出るわ、知っての通り三途の川よ。そこからは身一つで帰らないといけないの。持っていけるのは思い出だけ。でも大丈夫よ。」

「そうそうあっちもいいところだから。じゃあ待っているからな。」

「うん、ありがとう、じいちゃん、ばあちゃん。」

 私はゆっくり歩くことにした。


突発ホラー

運がよかった主人公

主人公の性別は男性女性どちらでも。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ