97 街でのトラブル?
作者多忙につき、暫く隔日更新となります。
全く予想だにしなかった次兄との再会を果たした翌々日。
俺は一人街に繰り出し、新しい槍の仕様を決めてきたところだ。
…え?
兄との感動の再会はどうしたって?
数年前に家を飛び出したきりで今まで音沙汰の一つも無かったのだ。
お袋はたまに心配するようなことを口にしていたが、親父はもうどこかで野垂れ死んでいない者としていた。
再会した当の俺も、ベオ兄さんが居なくなったことで仕事が増えたことの文句を言ったくらいだ。
そもそもの話として、成人したら家を出ることは分かっていたのだ。
それが数年早まっただけの話である。
そしてベオ兄さんと再会したことで親父とお袋が行方不明となっていたことを思い出し、親父とお袋の捜索と保護をスタンピードの報酬として頼んだ。
サラ様は違法な人身売買の可能性があるとして、かなり大々的に捜査することを約束してくれたのだった。
この件を願いでた際、サラ様には
「…貴方の方が余程御話の「勇者」のようですね。」
と、割りと真剣に言われた。
俺はあくまでも身内のことが気になったという個人的な理由であることを説明したが、サラ様が言うにはその過程で保護される者達もいる筈で、更に違法な人身売買組織を摘発出来ればそれ以上の被害を防止することが出来る…というわけらしい。
それならば俺が願い出ずとも関係なさそうだが、こうした犯罪組織は根絶出来るものではなく、捜査費用との兼ね合いからある種のきっかけが必要なのだとか。
だから俺が個人的な理由から願い出たことだとしても報酬の権利で願い出たことで、伯爵家は家名にかけて捜査をすることになったようだ。
なんとも面倒な話だとは思ったが、これもある意味で奴隷の話と同様だということに気付いた。
「勇者」が言っていたように全ての人を救うことなど不可能なのだ。
限りある力…この場合だと資金や人手を広い領地のどこに割くか?という問題があるのだ。
この街の冒険者で例えるなら、普段は魔物の被害者が出たとしても依頼が無い限りギルドとしては動かないが、魔物が増え過ぎた時は討伐報酬を上げたり、魔引きを行ったりするという対応をするという感じだろうか?
今回の俺の場合、「俺の身内がゴブリンに怪我をさせられた」という理由で、俺がドラゴンを討伐した報酬でギルドに魔引きをするように頼んだみたいなものか?
そう考えると、理由はどうあれ端から見れば俺が私財を擲ち、街の安全に一役買ったということに他ならない。
…それなら却下されてしまったが「勇者」の申し出も悪いわけではなさそうだが、申し出を却下された「勇者」は国宝級の魔剣や希少なアイテムを次々に求め、結局サラ様が各地を巡る際に使用していた〈収納袋〉を貰って行ったのだとか。
一昨日のやり取りとしてはこんなものだっただろうか。
「へへっ、そこ行く可愛いお嬢さん。」
「なぁお嬢さん、ちょっと俺たちに付き合ってくれないか?」
「今の俺たちはちょっとした金持ちなんだぜ?」
「ちょ、困ります!」
出てきたついでに目的もなく街をブラついていたら、軽薄そうな冒険者の男三人に若い街人の女性がナンパされているところに出くわした。
女性は困っているようだが、通行人は面倒を避けてか見て見ぬ振りをして足早に去って行ってしまう。
(って、あれは…!)
通行人がはけたことで絡まれている女性の姿が見えたが、その女性に馴染みがあった俺は急いで救出に向かう。
「リタ、奇遇だな?」
「っ、ラストさん!」
ナンパ男たちに絡まれていたのは、街人の格好をしたリタだった。
馴染みのあるギルドの制服でないところを見るに、プライベートで出掛けて運悪く目をつけられてしまったのだろう。
こんな状況だが、リタの私服姿は活快な印象を受ける制服の時と異なり、ザ・可憐なお嬢さんといった雰囲気であった。
…これはナンパ男に目をつけられても仕方ない。
しかし仕方ないと思うのと、ナンパ行為を傍観するのは別だ。
「なんだお前?」
「邪魔するな、あっち行けよ!」
リタに誘いをかけていた軟派男 B以外の二人が振り向き、割って入ってきた俺を威嚇する。
「彼女とは知り合いでな。
困っているみたいだから声を掛けさせて貰った。」
正直トラブルは御免だが、顔馴染みが困っていたら見て見ぬ振りは出来ないだろう?
それに軟派男に威嚇されたところで、恐ろしくもなんとも無い。
…まぁ、さすがにスマト村の時みたいに殺気立った十数人に囲まれたらヤバいが。
軟派男 A・ Cの威嚇に動じない俺に、リタと向き合っていた軟派男 Bも振り向く。
(ほぅ?)
リタをナンパしようとするだけあって、容姿はクソ兄貴並みには整っている。
「困っているだって?
今、彼女とはお茶でも一緒にしないか誘って…」
やれやれとでも言いたげな態度の軟派男 Bだったが、振り向いて俺の姿を認めた途端言葉を失い顔を青ざめさせる。
「きょ、きょきょきょ…」
「…何だよ?」
顔を青ざめさせたかと思えば「きょ」を繰り返し始めた軟派男 B。
人を見て挙動不審になるとは、かなり失礼ではなかろうか?
…確かに体型はオーク(よりは引き締まってきたか?)だが、顔は兄弟内では一番地味ではあるが悪くはないと俺自身は思っている。
「「巨猪殺し」!?」
「「「はぁ?」」」
軟派男 Bの口から出た言葉に、揃って疑問の声を漏らす俺、軟派男 A・C 。
「失礼しました~っ!」
ダッ!
そう叫び脱兎の勢いで逃走する軟派男 B。
「なっ、おい!?」
「ちょ、待てよ!」
ダダッ
おそらく軟派男 Bがあの三人の中心的人物だったのだろう。(軟派男 A・C の容姿は微妙だった)
中心的人物の逃走に呆気にとられていた二人の軟派男も、逃亡したリーダーを追いかけて行ってしまった。
いや、いなくなってくれるならありがたいのだが…。
「…何だったんだ?」
逃走した軟派男 Bが叫んだ言葉が気になった俺だが、とりあえずリタを無事救出できたことに一安心するとしよう。
何気に主人公の容姿に言及するの初めてでは?
いつも読んでいただきありがとうございます。
ブックマーク、☆、いいね等、執筆の励みになります。
「面白かった」「続きが気になる」という方は是非、評価の方よろしくお願いします。
感想、レビュー等もお待ちしています。




