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農家のデブ三男、兄に実家を追い出されて街で冒険者始めたらモテ始めました!?  作者: FURU
3章  白の大樹

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96 思わぬ…

昨日は休稿すみませんでした。

 奴隷…しかも犯罪奴隷からの解放という、奇しくも「勇者」の要求と似たような望みになってしまったが、果たしてサラ様の返答は異なるものだった。


「分かりました。

 ですが手配があるので、数日お待ち下さい。

 エージィ、紙とペンを。」


 あまりにもあっさり了承された要求。


 サラ様は早速、代官の老紳士に書くものを用意させ、サラサラと流れるような美しい字を書き始めた。


「あの、本当に良い…んですか?」


 確かに俺はこの要求が通り易そうだと思って言ったのだが、サラ様は奴隷の解放に否定的だったのではないのか?


「はい?………あぁ、そういうことですか。」


 代官の老紳士…エージィに何かを書き終わった紙を渡し新しい紙を受け取ったサラ様が、俺の確認にしばらく首を傾げた後何かに合点がいったようなリアクションをする。


「私個人としては、奴隷にならなければ生きて行けない民が少なからずいることに忸怩たる思いを抱いています。」


 そう言って慎ましやかな胸元に両手を重なるサラ様。

 眉を下げ顔を僅かに俯かせるその姿からは、本当に心を痛めているということが伝わってきた。


「しかし現在、奴隷制度に代わる有用な手立てが無いのも事実。

 ですからせめてもの改善として、奴隷の扱いに関して不当に虐げることの禁止を徹底しているのです。」


(なるほど…。)


 つまりサラ様は奴隷の解放に否定的というわけではないが、実際の問題として「勇者」の要求である奴隷制度の撤廃には反対。

 現状出来ることとして借金奴隷の待遇の保障や違法奴隷の取り締まりを強化しているということだ。


「マリアさんの事情を聞く限り、マリアさんは解放しても問題ないと判断しました。

 それにスタンピードの功労者を、いつまでも犯罪者扱いするわけにはいきませんから。」


 マリ姉の早とちりとはいえ、そもそもマリ姉はニーニャが魔物に襲われかけていると思い込んで、結果として俺を誤射したのだ。

 スタンピードでもこの街の重要人物たちに、その功績を認められるほどには活躍していた。


 それらの事情を含め、サラ様はマリ姉が十分に贖罪を済ませたと判断したのだろう。


「あ、ありがとうございます!」


「ありがとうございます。」


 サラ様に頭を下げるマリ姉と俺。


 これで冒険者活動の際の自由度が拡がる。

 これまではマリ姉の監視役に誰かしらを付けていなくてはいけなかったのが、地味に面倒だった。

 

 この制約のせいでスタンピードではニーニャが防壁外の配置になってしまったし、マリ姉も監視役がニーニャだったことで前線に配置されなかった。


 俺としてはああいう時には、二人には危険の少ない場所に居て欲しいので一概に悪いとは思わない。

 しかしもしもマリ姉がランク相応の配置であれば、同パーティーとしてエレファントボア戦で魔法の支援があれば、もっと被害が少なくなったのではとも考えてしまう。


「他に何かご要望はありませんか?」


「……へ?」


 ほとんど立ち直りはしたがスタンピードで起きたことの“もしも”を考えてしまう俺にサラ様が放った言葉に、俺は間抜けな反応を返してしまう。


「あの、マリ姉の解放を聞き入れて貰いましたが?」


 事情が事情とはいえ、マリ姉がやった行為自体はおいそれと解放してはいけない罪になっている。

 それを無条件で解放して貰えるというだけで、俺的には十分な特別報酬だ。


「はい。しかし報告ではマリアさん自身も功績があるようで。

 元々エレファントボアを討伐なさった方のパーティーメンバーであることはその報告に書かれていたので、功罪相殺ということで解放する予定だったのです。」


 …だから俺がマリ姉の解放を要求した際、あまりにもあっさりと通ったわけだ。

 エレファントボアを討伐した冒険者のパーティーメンバーが犯罪奴隷のままではいけないという面子を、報酬という建前で両立させたということだろう。


 この方法であれば犯罪奴隷に変な要求をされることなく、尚且つ自由に要望を出せる Dランク魔物討伐者との報酬との差別化も出来るというわけか。

 下手に賞金を出すよりも、懐の痛まない良い方法である。

 しかし… 


「他に要求なんて…」


 普段生活していればあれこれと要望が出てくるものだが、いざ叶うとなると意外と出てこないものだ。


クイクイッ


「ん?」


「ご主人、これ甘くて美味しい。」


 予定外に降って沸いたもう一つの望みに頭を悩ませていると、黙々と出された菓子を食べていたニーニャが、俺の服の裾を引いてその菓子を差し出してきた。


「はい、あーん…?」


「ムグッ!?サクサク…うん、旨い。」


 ニーニャに差し出された(口に押し込まれた)菓子を食べてみると、確かに子供の頃たまに食べた菓子とは一線を画す甘さと食感の軽さだった。


 猫人族らしく串焼きなどの肉類を好むニーニャだが、女性らしく甘味も好きだったらしい。


(そう言えば、甘味は貴重だったな…。)


 村人でも菓子を作れないわけではないが、大概の甘味は木の実類だった。

 街に来てからは食材の買い出しの際にちょくちょく焼き菓子を見かけたりもしていたが、何食分の食費になるという値段だった。

 

 街の人々が買える菓子でそうならば、貴族の屋敷で出される菓子はいかほどの高級品なのか?


「気に入って頂けて何よりです。

 新しいものをお包みしましょう。」


 これなら良い要求になると思いきや、サラ様にお土産として先回りして用意されてしまった。


 こうなると本当に要望などなくなってしまって困る。

 もう普通に賞金で貰うので良いかも知れない。


「お嬢、少し宜しいでしょうか?」


「何かしら?」


「────」


「本当に?

 …えぇ、良いわ。」


 俺がもうシンプルに金で報酬にして貰おうと考え始めると、処刑でも見た全身鎧の兵士がサラ様と何やらやり取りをする。


カチャカチャ


 そして俺たちの前に立つ全身鎧の兵士。


 その磨かれた鎧に入る細かな傷が見えるほどの近さに、全身鎧の兵士を警戒する俺。


「そんなに警戒しなくても何もせんさ。」


カチャカチャ


 そう言って兜に手をかけ、外そうとする兵士。


(この男、やっぱりどこかで。)


 間近で聞いた声に、俺はやはり聞いたことがある声だと確信する。


カチャ、ズルッ


 ついに外される兜。


「久しぶりだな、兄弟。」


 そう言って曬された鎧兵士の顔を見て、俺は思わず叫んだ。


「久しぶりじゃねぇよ!?

 何で急にいなくなった、ベオ兄さん!」


 覚えがある筈だ。

 全身鎧の兵士は、ある日突然家を飛び出した二番目の兄…ベオウルフその人だったのだから。

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