95 「勇者」の望みとラストの望み
89話の前書きで「今章も残り数話」とか言いましたが、もう暫しお付き合い下さい。
大幅な遅刻申し訳ない!
どうやら俺が〈ポーション〉の高級品程度に考えていた〈ハイポーション〉は、俺が思う以上に遥かに貴重な品だということが分かった。
「迷宮からは〈ハイポーション〉がそれなりの頻度で発見されるようですが…。
出回ったものは大体がオークションに掛けられるので、当家で確保するのも中々難しいのです。」
人が作れたとしても素材の問題から、結局のところ〈ハイポーション〉は迷宮産が主になる。
そしてサラ様の話から察するに、迷宮産〈ハイポーション〉はその殆どが発見した冒険者が確保してしまう。
理由は様々あるにしろ手放された迷宮産〈ハイポーション〉は、貴族(もしかしたら王族も参加するのかも知れない)が挙って確保しようと大金で殴り合う。
そんな金があるなら教会の神請魔法使いと専属契約でも結べば良いと思うのだが…。
万が一に備えて神請魔法使いを雇い続けるよりも〈ハイポーション〉を用意した方が安く上がるのだろうか?
考えが逸れた。
…とにかく、〈ハイポーション〉を求めても現物が用意出来ないというのが結論だ。
「…「勇者」はどんな望みを?」
俺は他の願いを考える参考にするために、先に来ていたらしい「勇者」パーティーが望んだことを訊ねる。
「「勇者」ですか?
…最初、彼らは我が領内においての奴隷制度の撤廃を求めて来ました。」
俺が何気なく訊ねた質問に、意外と表情が豊かなサラ様は、嫌なものを思い出したように答えた。
「奴隷制度を撤廃したとして、奴隷だった方たちは一体どうやって生活すれば良いのでしょうね。」
(あ~、なるほど…。)
この国における奴隷は、借金奴隷か犯罪奴隷のどちらかしか認められていない。
サラ様はその内、借金奴隷となった人々が解放された後の生活を懸念した。
それは至極当然な懸念で、生活していけないから奴隷となったのに、奴隷から解放されては奴隷となった本人が一番困るのだ。
しかし「勇者」は違ったようで…
「私が「勇者」にそう尋ねたところ、「勇者」は彼の出身地である〈異世界・日本〉の「生活保護」なる制度の話をしました。」
「「生活保護」?」
サラ様が「勇者」に聞かされたその話では、「勇者」の出身地である〈異世界・日本〉にも存在する「自力での生活が困難な者」は、なんと“国がその者たちの生活を保護”しているらしい。
具体的に言うと、「自力での生活が困難な者」が生活していけるだけの金が国から支給されるというものだ。
…どうやら「勇者」の出身地は、働かなくとも国に生活の面倒を見て貰えるほどに豊かな国らしい。
そして「勇者」の話を聞いたサラ様も同様に思ったのか、
「国が民の生活を保障していては、いずれ誰一人として働かない“怠惰の国”になってしまうと思いませんか?」
そう訊ねてくるサラ様に、俺たちは首を縦に振ったのであった。
「…あ、さっきのはそういうことなのか!」
「きゃっ…!」
「あ、済んません。」
突然大きな声を出した俺の声に驚いてしまったサラ様に、俺は慌てて謝罪する。
「あ…いえ。
それよりも「さっきの」とは?」
俺の声に驚いてしまったことに恥じているのか若干頬を染めたサラ様が、俺の謝罪をあっさりと受け入れ、俺が何について声をあげたのか訊ねてきた。
「えっと…この屋敷を案内されている時に「勇者」パーティーと遭遇して─」
俺は先ほどのやり取りと、「勇者」パーティーと擦れ違う際「勇者」に言われた言葉について、所々言葉使いを怪しくさせながら何とか説明する。
「勇者」が擦れ違い様に俺に言ったのは、マリ姉の〈隷属の首輪〉のことだったのだ。
「ああ、貴女がマリアさんだったのね!」
スタンピードの功労者パーティーのメンバーの一人が奴隷であることを訊ねてきたサラ様に、マリ姉が奴隷となった経緯を話したところ、サラ様は突然マリ姉の手を取って興奮したようにそう言ったのだ。
「あの、何故私の名を?」
サラ様とマリ姉が知り合いだったのかと思いきや、マリ姉にはサラ様に知られている理由が分からないらしい。
しかしその疑問の答えは、サラ様自身が嬉々として話してくれた。
「我が領の民より魔術師の卵が見つかったとなれば、当然私共も注目致します。」
魔術師は国のお抱えになるのが殆どだが、やはり自分の領の出身者が多ければ発言力が増すのだとか。
「それに私の一つ下の女性というではありませんか。
…マリアさんを学園の先輩としてお世話するのを、それとなく楽しみにしていたのですよ?」
貴族らしい利害の話で身を硬くしたマリ姉に、サラ様は個人としての可愛らしい思惑も「内緒の話」というように溢したのだった。
サラ様はマリ姉自身や奴隷となった経歴に悪感情が無いようで何よりだ。
別に「勇者」に言われたからというわけではないが、この望みが叶う可能性は高そうだ。
「サラ様、ちょっと良いですか?」
何やら謝罪をするマリ姉を宥めるサラ様に、俺は声を掛ける。
「はい。…望みが決まりましたか?」
返事をしたサラ様は、俺の様子を見て何かを察したようだ。
「はい、おかげ様で…。
俺の望みは「マリ姉の犯罪奴隷身分からの解放」です。」
10話以内なら「数話」の内に入るんだぜ!
…という言い訳
そしてついにマリ姉解放か!?
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