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93 伯爵代理に面通し

感想ありがとうございます!

執筆優先のため返信を行えていませんが、読んでモチベにさせて頂いています。

今章のキャラ紹介は書き上がっているので、それと絡めて二度楽しんで頂けたらと思っています。

「ぅおっほん!

 …「勇者」様方、もう宜しいでしょうか?

 サラ様をお待たせしています故。」


 仲間内で口論(?)を続ける「勇者」一行に、痺れを切らせた代官の老紳士が咳払いで存在をアピールしてから若干早口でそう宣った。


 その口調とピクリとも動かない表情が、俺には逆に、代官の老紳士が怒気による圧力を放っているように感じた。

 

「うん、ここでする話じゃ無いね。

 一先ず現状維持で。

 それじゃ皆、行こうか!」


 「勇者」は特に反論を述べるでもなく、パーティーメンバーに声を掛けて歩き出す。


 パーティーメンバーを引き連れて颯爽と歩く「勇者」が擦れ違う瞬間、


「そうするのは君の勝手だけど、僕はそういうのは好きじゃないな。」


 と俺だけに聞こえるように囁いて行ったが、俺には「勇者」が何のことを言っているのかさっぱりであった。


 …ただ何を言っているか分からないなりに「勇者」の言葉に反抗心が芽生えたのは、果たして間違いなのだろうか?


「…「勇者」嫌い。」


 「勇者」の間違いは人間基準の声量で発言したこと。

 

 「勇者」が俺に囁いた言葉が聞こえていたらしいニーニャも俺と同じように感じたらしく、「勇者」を敵認定してしまったようだ。

 身内贔屓に他ならないのだろうが、奇しくもニーニャと同じ感情を「勇者」に対して抱いたことで、俺はそのことに煩わされずに済みそうだ。


(ニーニャにも世話になりっぱなしだな。)


 偶然魔物(オーク)から救助し憲兵長(バーンさん)に半ば強引に押し付けられたようなニーニャだったが、今となってはどちらが保護者か分からなくなってきている。


 勿論俺としては甘えっぱなしにならないように気をつけてはいるのだが、最近は特にニーニャの精神的な成長を著しく実感する。

 このニーニャの精神的な成長には少なからずマリ姉の影響があるのだろうが、ニーニャにあまり影響して欲しくない部分もある。


 ……しかし記憶を掘り返してみると、既に手遅れの予感がする。


(慌てるな、まだ何とかなる…。(筈))


 内心で自分に言い聞かせる言葉が曖昧になってしまうあたり、俺は漏れた本音にそっと蓋をしたのだった。


 … … … … … … …。

 … … … …。

 …。


 「勇者」一行を見送った後、案内を再開した老紳士に連れられてたどり着いたのは、門番と同じ格好をした兵士が扉の両脇に立っている部屋だった。


「ミレット伯爵代理であらせられるサラ様は平民の方の作法に寛容でございますが、くれぐれも失礼の無きようにお願いいたします。」


ゴクリッ…


「ああ。」

「ええ。」

「ん。」


 俺たちが三者三様に忠告に頷いたのを確認すると、老紳士は扉をノックし中にいる人物に声を掛ける。


コンコンッ、コンコンッ


「サラ様、大変お待たせ致しました。

 お客様を三名、お連れしました。」


「ええ、どうぞ。」


 名前から女性であることは予想出来てはいたが、老紳士の声に応えたのは思ったよりはるかに若い女性の声だった。


ガチャ


「皆様、どうぞこちらへ。」


 そのことを自分の中で落とし込む間もなく、扉を開けた老紳士に入室を促される。


「あ、ウッス…。」


「失礼します。」


「…。」


 礼儀作法を知らないなりに無言でズカズカと入って行くのは何か違う気がした俺は、一応…何か言ったことが伝わる程度の声で挨拶をして、蛇尾鶏(コケトリス)が歩く時のように頭をヘコヘコと何度も上下させて入室した。

 …むしろ失礼な気がするのは何故だろうか?


 俺がこんな調子なわけで、俺の後に続くマリ姉とニーニャが気になったが、あまりキョロキョロするのも良くなさそうだ。


 しかしマリ姉は貴族の子息令嬢が大勢通う魔術学校に行っただけあり、入室の挨拶からして卒が無い。

 ニーニャは無言のため様子が分からないように思えるが、屋敷内を案内されていた時の様子から、特に気負うこともなく自然体で振る舞っているのだろう。


 つまり緊張のあまりおかしいことをしているのは俺だけというわけだ。


(…はは、ウチ(〈白の大樹〉)の女性陣は頼もしいなぁ。)


 俺が内心で黄昏てしまったのは不可抗力だった。


「よくぞいらっしゃいました、英雄様方。

(わたくし)、現ミレット伯爵より伯爵代理を任じられております、ミレット伯爵家が長女のサラ・ミレットと申します。

 この場では気軽にサラとお呼び下さい。」


 そう自己紹介をして俺たちを穏やかな表情で迎えたのは、ライトブラウンの瞳と髪色にモスグリーンのドレスという格好の純朴そうな若い女性だった。

 声からそれは分かっていたとはいえ、俺の勝手なイメージだが貴族…それも上級貴族の代理を務めているとはとても思えなかった。


「ラストだ、です。」


「マリアと申します。」


「…ニーニャ。」


 名乗られたからには名乗り返すのが礼儀なのは平民も変わらない。

 俺とニーニャの名乗りに特に不快さを見せず微笑んでいることから、作法に寛容という話は違わないようで一安心だ。


 と、安心したついでにサラ様の言葉で気になったことを口にする。


「…英雄?」


 高々Dランクの冒険者にはそぐわない呼称だ。


「はい。

 この度は不測に出現した領域の主と同等ランクの魔物を討伐して頂き、領主に代わり感謝致します。

 つきましては私の権限の及ぶ範囲で望みを聞くため、皆様にご足労頂いた次第です。」


 突然の上級貴族の面会と「勇者」一行との遭遇という難に見舞われたが、どうやら最後には僥倖に恵まれたようだ。

いつも読んでいただきありがとうございます。


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