92 また一悶着
確認しても避けられないことだが、確認していれば心構えは出来た筈。
ギルマスには特に日付を指定されなかったが、代官への手紙はさっさと配達した方が良い。
というわけで翌日、俺たちは代官屋敷に来たわけだが…
「おぉ~。」
屋敷内の豪華な装飾を見て、感嘆の声を上げるニーニャ。
代官屋敷にギルマスに渡された手紙を届けにきただけのつもりの俺たちだったが、手紙を渡した門番に待機を命じられたと思えば、チープン処刑の際罪状を読み上げていた老紳士(なんとこの老紳士がこの街を治める代官らしい)に屋敷内を案内されていた。
この街のトップ自らの案内に俺とマリ姉は恐縮しながらも、街のトップ自らが案内する先に待ち受けるのが代官よりも立場が上の人間…つまり伯爵代理であることを察する。
単なる手紙の配達が実は伯爵代理への面通しを伴うものだと知って、ギルマスの頼みだからと良く確認もせず引き受けたのを後悔した。
代理と言えどれっきとした上級貴族との面会だ。
機嫌を損ねでもしたら、あの全身鎧の兵士に斬り捨てられること間違い無しだ。
…俺たちが冒険者であることを理解し、多少の失礼も許容してくれる寛容さを願うしかない。
ガヤガヤ
そして厄介事というものはどうしてか重なるようで、代官に案内される途中廊下の向こうから、青年1人を先頭に美少女3人が連れ立って姿を見せた。
「おや、君は…。」
向こうもこちらに気付き先頭の青年…「勇者」が、驚きに目を丸くして声をあげた。
「あのっ、あなたがエレファントボアを討伐したんですよね?」
思いがけない遭遇に固まる両パーティーだったが、「勇者」の後ろから「聖女」が前に出てきて俺に訊ねる。
「……俺が偶々トドメを刺したってだけだ。」
一瞬ジョンのことを話そうと思ったが、それでは不満をぶつけるのと変わらないことに思い至り、しかし俺が討伐したというのも違うため、曖昧な返しとなった。
「っ、やはり…。」
俺の返答を受け、何故か俯いてしまった「聖女」。
「…「聖女」という栄誉ある立場にありながら、あなたのご友人を救えず申し訳ありませんでした。」
そして再び顔を上げたと思えば、そう謝罪の言葉を述べ深々と頭を下げた。
「は?あぁ、いや…。」
「聖女」の突然の謝罪に面食らい、しどろもどろになってしまった俺。
「セラフィアさんが謝ることは無いと思うけどなぁ?」
そして頭を下げ続ける「聖女」を背に庇うように前に出てきた「勇者」が、「聖女」の謝罪に慌てふためく俺を鋭い目で見ながらそう言った。
特に求めていたわけでもないのに「聖女」が謝罪をしたことで、何故か一気に俺が悪者の雰囲気となってしまう。
「ですがっ、「勇者」様!」
そして俺を睨む「勇者」に縋り付くようにして俺を擁護する声を上げたのは、こんな状況を生み出した張本人の「聖女」。
「彼は「勇者」様でも苦戦した Dランクの魔物を討伐した戦士です!」
…俺は「トドメを刺しただけ」と言ったつもりだが、「聖女」の認識では俺がエレファントボアを単独で討伐したと思われていそうだ。
「ちょ…」
「ちょっと待て、それは誤解だ。」と俺が言う前に、思案顔の「勇者」が話し始める。
「…確かにジャンヌさんがセラフィアさんの護衛で前に出てくれない以上…」
「「勇者」様が必要と仰るならば、私は後回しで構わないのですが…。」
「馬鹿を言わないで下さい。
私はあくまでセラフィア様の護衛騎士です!」
そして俺の言葉を遮った「勇者」の話も、「勇者」の後ろに控えていた「聖女」と女騎士のやり取りで中断された。
「…とにかく、パーティーに前衛をもう一人加えるのはアリだと思う。」
「聖女」と女騎士のやり取りが一区切りついたところで、「勇者」は「聖女」の考えに理解を示したようなことを言う。
「でしたら禍根となる要因は解消した方が良いかと…」
「でもそれはこの街の冒険者じゃない。
…いや、冒険者ギルドのギルドマスターが元 Aランクだったけ?」
「聖女」の「勇者」への意見を聞くことはせず、「勇者」はパーティーに加える前衛の思案を始める。
「勇者」の呟きとも言えない呟きを聞くに、ベビーリーフタウンの冒険者は「勇者」のお眼鏡に叶わなかったらしい。
…ギルマスは例外な辺り、「勇者」のパーティーメンバーへの採用基準はかなり高いらしい。
「私は反対だっ!
セラフィア様のパーティーに冒険者などという恩知らずな者を加入させるなど…!
セラフィア様の御身に何かあれば、私が只では済まさん!」
新メンバーの採用を思案する「勇者」に、真っ向から反対を叫んだのは女騎士。
彼女も「聖女」に対する不満の声を耳にし憤慨しているのか、冒険者という存在自体を激しく拒否する。
「只では済まさない」と言いながらその手は既に腰に佩く剣に掛かっており、「聖女」に謝罪をさせた俺に今にも斬り掛かって来そうである。
チラッ…
(…流石に代官屋敷で刃傷沙汰は起こさないよな?)
俺は終始表情を変えず「勇者」パーティーのやり取りを見る老紳士に視線を送り、万が一の時は止めに入ってくれることを願った。
「ん~…、壁としては使えそう?」
思案を続ける「勇者」に、興奮する女騎士を宥める「聖女」。
そんなパーティーメンバーを他所に、いつの間にか俺の側まで来ていた魔術師が感情の無い声でポソリと呟いた。
おそらく新メンバーの加入に対して賛成寄りの立場なのだろうが、それはもはや誰でも良いと言える恐ろしい理由であった。
ヤイノヤイノ
そして仲間内で新メンバーの加入に関して盛り上がる「勇者」パーティーだが、この話は根本から間違っている。
(俺は「勇者」パーティーには加入しねぇよ!?)
禍根の解消も何も、「聖女」の謝罪は場を混乱させただけの結果となったのだった。
「聖女」に悪気は無いんですよ?
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