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農家のデブ三男、兄に実家を追い出されて街で冒険者始めたらモテ始めました!?  作者: FURU
3章  白の大樹

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91 未だその力は弱く

飯食って、暖かくして一晩寝たら復活しました。

(…それ野生動物と変わらんのでは?)

「さて、お待ちかねのラストの報酬だが…」


ごそごそ…


 そう言いながら再び席を立ち、金庫を漁り始めたギルマス。


ドンドンッ、ジャララッ…


 テーブルに載せられる2つの革袋。


「参加報酬100万に、特別功労報酬で300万の締めて400万ゴールド。

 そして Dランクへの昇格…ま、当然だな。

 加えてお前の討伐したエレファントボアの素材優先権だな。」


「なんっ…!?」


 参加報酬の100万だけでも破格の報酬だというのに、300万ゴールドもの追加に驚愕する。

 

 確かにあのエレファントボアにトドメを刺したのは俺だが、ジョンやマーカス…そして二人ほどでは無いだろうが、その他大勢が削っていたからだ。


「…そうだ!

 特別報酬のいくらかを、ジョン(の遺族)やマーカスに分配してくれないか?」


 ほとんどの場合が実家を絶縁しているような冒険者と異なり、憲兵隊のジョンにはこの街に家族がいる筈だ。


 ジョンという働き手を失った補填というわけではないが、俺がエレファントボア討伐の報酬を総取りは不誠実に思う。

 マーカスについても、あの最後の一矢の援護がなければ、俺は多くの冒険者と同じように轢き殺されていたことだろう。


「それはお勧め出来ないな。」


 しかし俺の提案は、ギルマスにすげなく却下されてしまった。


「確かに普通なら、報酬は参加者で山分けになるだろう。」


 余程でなければソロでの冒険者活動には限界がある。

 そこで大体の場合がパーティーを組むということになるのだが、パーティーを円滑に運営していくには報酬の分配が重要だ。

 

 これについては、元冒険者であるギルマスも理解を示した。


「だがな、エレファントボアの討伐に一体誰が関わっているかなぞ分かったものじゃない。」


 だから俺は俺の報酬を俺の判断で分配しようとしているのだが…。


「死んだ奴の分の報酬まで「パーティーメンバーだから寄越せ」なんて言う連中もいる。

 お前が報酬を分配したなんて漏れたらそんな連中に囲まれて、全財産むしり取られることだろうよ。」


「っ!?」


 真剣な顔のギルマスにそう言われ、俺はようやく自分がとんでもないことを言っていることに気づかされた。


 有象無象に囲まれるだけならまだしも、本来貰えない報酬まで要求するがめつい連中が、果たして一度や二度あしらっただけで諦めるのだろうか?

 当然そんなことはなく、高い確率で強行手段に出ることだろう。


「…あ。」


 そこまでを想像し、芋づる式に「勇者」に何故〈ハイポーション〉の融通を断られたのかも理解した。


 ああいった不特定多数に何かを施そうとする場合、不平不満を無くすことは出来ない。

 そこで「勇者」パーティーは、施される側の自らの努力が関係する“早い者勝ち”という手段を採用したのだろう。


 だとしても戦後処理の三日間、「怪我人に動けとは非常識」やら「治療が遅くなったせいで後遺症が残った」などの不満を耳にした。


 治療を受けることができて、尚且つ「勇者」…というよりは王族出身の「聖女」という権威に対してもこれなのだ。

 だとすれば何の権威も無い俺の、基準が曖昧な報酬の分配など、なまじ金という形あるもののため、ギルマスの言う通りあるだけ取られるまで終わらないだろう。


 そしてあるだけ取られるだけで終わるなら、まだマシな方なのだろう。


「理解したって顔をしてんな。」


 理解したなんてものじゃない。


 最悪を想像し背筋を凍てつかせる俺に、ギルマスは空気を変えるように言う。


「ま、憲兵隊は憲兵隊で手厚い保証がされてるみたいだぜ?」


 そう言って聞かされた話では、殉職者の家族には殉職時の階級における給与の5割が10年に渡り支払われるそうだ。


 特に俺が報酬を分配したいと言った二人は、ジョンの遺族には200万ゴールドの一時金が支払われ、且つ二階級特進で部隊長扱いとなるらしい。

 そしてマーカスは100万ゴールドの一時金と、今回の件で弓兵長に昇進したとのことだ。


 憲兵隊は憲兵隊で功績をしっかりと把握しており、しかるべき対応がされているらしい。

 つまり俺が一々気を回さずとも良かったどころか、更に無駄な軋轢を生み出すところだった。


 …何故ギルマスがそんなことを知っているかと言えば、冒険者ギルドのギルドマスターという立場上、他の組織の内情もある程度知ることができるとのことだ。


「つーわけでその400万はお前の正当な権利ってわけだ。

 勿論その金をどう使うかはお前の自由だが、土まみれのお前のギルドカードなんか見たくないね。」


 俺が納得したことを分かっていながら、ギルマスに冗談ぽく釘を刺された。


「ならその報酬は全部ギルドの口座に預金してくれないか?」


 三人合わせて700万ゴールドの大金だ。

 そんな大金を堂々と引っ提げて他の冒険者が屯するホールに戻るなど、俺が報酬を分配しなくとも安心できたものでは無い。


「分かった。」


 特に理由も聞くことなく、あっさりと了承するギルマス。

 

(なら何で報酬袋で用意してるんだよ!?)


 50万の支払いで預金を勧められた以上、報酬額を伝えて預金に入れた方が面倒が無い筈だ。


「…現物を見て実感したい奴が多いんだよ。」


 そんな俺の考えを見抜いたように、ギルマスが呆れたように言った。

 

 基本的にその日暮らしの冒険者だ。

 一生お目にかかれないような大金を手にしたとあれば、無駄にジャラジャラと鳴らしたい気持ちは分からないでもない。


 報酬が金貨一枚では無く、大銀貨100枚で用意されているのもそういうことなのだろう。


ごそごそ、カチャンッ


 俺がそんなことを思っている間に、マリ姉やニーニャも預けることにしたのか、合計4つの報酬袋を金庫に入れて鍵を掛けるギルマス。


「エレファントボアはまだ素材の処理が終わって無いから、また後で呼び出す。」


 報酬の話ですっかり失念していたが、そう言えば素材の優先権も報酬に含まれていた。


「ああ、分かった。

 …それじゃ、行こう。」


 用件は済んだと判断して、俺はマリ姉とニーニャに声をかけて退出しようとする。


「ああ待て、これを代官屋敷に持って行ってくれ。」


 席を立った俺たちを引き留め、ギルマスは一通の便箋をさし出してくる。

 

 さし出された便箋には細やかな模様が描かれており、いかにも高級な紙だということが分かる。

 …のだが、その模様は良く見ると繊細な花柄であり、ギルマス(筋肉ダルマハゲ)には似つかわしく無い。


「中身は読んでも構わんが、ちゃんと代官屋敷に持って行くんだぞ!」


 ギルマスがまさかの少女趣味であることに困惑する俺とマリ姉だが、代官屋敷に行くことを念押しされ追い出されてしまった。


「どんなことが書かれているのかしら?」


 ホールに戻る途中、マリ姉がそんな疑問を呟く。


「………ま、代官屋敷に行けば良いんだろ。」


 いかにもな高級紙が使われた手紙なのに読んでも良いとは不審だが、とにかくギルマスに言われた通りにすれば良いだろう。

 

 それは問題の棚上げに他ならないが、俺は今日これ以上気を揉むことはしたくなかった。

 



 

 

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