89 一つのく…切り
※残酷描写注意!
本章も残り数話になりそうです。
(いや~、長かった…。)
スタンピードの収束から3日後、俺は1人で街の中心広場にやって来ていた。
というのもスタンピードの首謀者の生き残りが、今日ここで処刑されるのだ。
スタンピード防衛戦線の更に前…真っ先に魔物の群れに呑まれる場所に配置されていた十数名の首謀者・関係者達だが、なんとあの戦いを生き延びていた者が1名だけいたのだ。
しかしそれは魔物と戦って生き延びたわけではなく、スタンピード後に魔物の死体を処理していたところ、頭に矢が刺さったウルフの死体が覆い被さるような形で下敷きにされていたらしい。
大方、ウルフに押し倒されはしたものの喉笛を噛み千切られる前に、偶々流れ矢がウルフを絶命させたのだろう。
…戦闘に参加した者に多くの犠牲者が出たというのに、スタンピードを誘発した者が生き残るとは運の良い奴め…。
そう思うのは当然俺だけでなく家族や知人を亡くした街の人々も同様で、一先ず魔物の死体処理が完了するまで監視付きで広場に晒され、戦後処理が粗方完了した翌日の今日、ギロチンを用いた公開斬首の運びとなった。
スタンピード発生時には「生き延びたら解放されるらしい」という話を聞いたが、あれだけ大勢の死傷者が出た以上、そうは問屋が卸さないということだ。
…もしかしたら恩赦は本当のつもりだったのかも知れないが、処刑の行われる広場に集まった民衆の数を見るに、政治的判断により予定が変更された可能性も高い。
ザワッ…!
そこまで考えたところで、広場に詰めかけた民衆が騒ついた。
憲兵に両脇を抱えられ、憔悴した男が足を引き摺るようにして処刑台に上がってきた。
ウォオオ…!
「お前のせいで仲間が死んだ!」
「夫を返してっ!」
「父ちゃんを返せー!」
「私の彼も目覚めないのよっ!」
男が姿を見せた途端、集まった民衆が口々に怒りや悲しみを叫ぶ。
ヒュン…ヒュン…
「鎮まれっ、物を投げるな!」
「痛っ、止めろ!逮捕されたいのか!?」
それだけでなく石や靴、ゴミなどが処刑台の上に向かって投げられる。
男を連れて一緒に処刑台の上に登った二人の憲兵が制止を呼び掛けるも、大切な人を喪った人々は止まらない。
この様子を見るに、あの男が晒されていた期間監視がついたのは、男の脱走の防止というよりも民衆による私刑を防止する意味合いが強かったのだろう。
憲兵に当たることもお構い無しに物が投げられるとは、監視の憲兵は気が気でなかったことであろうことが伺えた。
「殺せっ、殺せっ!」
「死ね、死ね!」
物を投げない者も繰り返し叫び、広場の緊張が高まる。
(これは不味いぞ…。)
ガチャガチャ!
「鎮まれっ、鎮まれえぇ~い!」
俺が危機感を覚え始めた頃、全身を金属鎧で覆った兵士が処刑台に駆け上がり、民衆のシュプレヒコール以上の大声で制止を叫んだ。
「「「「「………。」」」」」
そのあまりの大声と、憲兵とは明らかに異なる格好を見て、一瞬で鎮静化する民衆。
そして次に訪れるのは「あれは誰だ?」という困惑。
当然俺も困惑していたのだが、他の民衆と異なる部分で困惑していた。
(今の声…、どこかで?)
俺に全身鎧の兵士の知り合いなんかいないのは確かなのだが、何年も前には聞き馴染みのあった声のように感じたのだ。
「止めろっ、離せぇ~!」
カチャカチャ
民衆がとりあえず大人しくなったことで、先ほどまで投げられる物を防ぐのに必死だった憲兵が、罪人の男をギロチンにセットしていく。
抵抗空しくギロチンにセットされた罪人の男の額からは、民衆が投げた石が当たったのか一筋の血が流れていた。
「大罪人チープンの処刑準備、完了しました!」
コツコツ…
作業を終えたらしい憲兵二人がどこかに向かって敬礼をして告げると、執事服のような上質な黒い服の老紳士が処刑台に上がってきた。
バサッ…!
その老紳士は左手に持っていた巻かれた羊皮紙を広げ、朗々と話し始める。
「只今より、大罪人チープンの処刑を執り行う!
この者の罪状は「取り扱い指定危険物の違法取り扱い」、並びにこれを用いた「反逆罪」。
その他余罪として「違法奴隷取り引き」「不当契約」「貴族関係者との僭称」「脱税」「恐喝」…」
この3日間でスタンピードを誘発させたのがアーコギ商会のベビーリーフタウン支店の奴らであることは聞いていたが、悪い噂が流れる評判の良くない商会なだけに悪行のオンパレードだ。
「ま…待てっ、待ってくれ!」
次々に読み上げられる罪状に堪えきれなくなったのか、制止の声を上げて役人(?)の言葉を遮るチープン。
「…何だね?
罪状は既に決している、貴様は懺悔でもしていると良い。」
役人は一切取り合わず、チープンを冷たい目で見下ろす。
「償いはした筈だ!
スタンピードを生き残れば、恩赦が出るんじゃなかったのか!?」
償いをしたと言いながらチープンに反省の色は無く、この期に及んで必死に処刑を逃れようと必死だ。
「ミレット伯爵代理様の言葉を教えてやる。
『我がミレット領の臣民を私欲で死に至らしめたその大罪、決して許されるものではありません。』
とのことだ。」
チラッ…
…コクッ
絶望に顔面から血の気を失せさせるチープンは気付いていないが、役人の目配せに全身鎧の兵士が頷いていた。
このことから俺は、あの全身鎧の兵士が「ミレット伯爵代理様」とやらの兵士であることを察した。
「…オホンッ!
因って大罪人チープンを公開斬首に処するものとする。」
スッ…
気を取り直した役人がそう締め括ると、憲兵がギロチンの刃を上げている縄の横に立つ。
「ままま…待てっ、俺はアーコギ商会の次期会頭なんだぞ!?
俺を放免するならいくらでも金を出すぞ!」
「憲兵、執行したまえ。」
役人はもはや喚くチープンを相手にせず、淡々と待機していた憲兵に指示を出す。
「はっ!」
シャリン…
憲兵は役人に敬礼して返事をすると、腰に佩いていた剣を抜く。
「誰かっ、金ならいくらでも出す!」
ブンッ、ブツッ!
振り下ろされた剣が縄を裁つ。
ガーッ…!
滑り落ちる磨かれた刃。
「あああっ、たす」
ドンッ…!
「「「「「ワァアアッ!!」」」」」
悪人の断罪に沸き立つ民衆。
しかし何故か俺の心は晴れないままだった。
意図したこととはいえ、前話で予想以上にラストにヘイトが向いててメンタルブレイクしかけた作者が通りますよっと。
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