8 いきなり依頼達成?
長くなりました。
「…こちらがラストさんのギルドカードになります。」
俺が武器を扱ったことがないと受付嬢に訂正した後、更に「主な活動体系」と「パーティーの可否」の二点に答え、ギルドカードの作成となった。
因みに「主な活動体系」には〔採集・討伐・護衛・その他〕から、採集とその他を選び、パーティーの可否は、報酬が減ると困るので今は否となっている。
「それでは登録料として3000ゴールド頂きます。」
ガタタッ!
「登録料が掛かるのか!?」
所持金総額の倍の金を要求され、俺は驚いて立ち上がる。
「え…あ、もしかして知りませんでした?」
逆に知らないことに驚いたというように、受付嬢は登録料について説明する。
「えっと…、まず前提として街に入るには入門料が必要ですよね?」
今回は色々あって俺は払っていないが、それを話した場合、また話がややこしくなるので頷く。
「この入門料は住民カードや各ギルドカードを提示すれば、徴収されません。」
確かに住民らしき人達は何かを憲兵に見せながら、業判定石に触れてそのまま進んで行っていた。
「これは、住民は街に払う人頭税に入門料等が含まれており、ギルドカードは発行した各ギルドが一括で“国”に支払っているからです。」
順序は逆になるが、つまり前もって入門料を払っているから、門で一々払わなくても良いということか。
(便利だな。)
「便利ですよね?
ですが、このギルドカードを作成・運用する魔道具本体が高価で、カードの素材も特殊な錬成金属なんです。
また、魔道具を稼働させる魔石もそれなりのお値段になります。
これらを冒険者ギルドでは、依頼料から引いた手数料の一部を当てて賄っているんです。
なのでランク毎に定められた期間依頼を受けないでいると、数回は未納分の罰金…払えない場合は奴隷落ちですね、回数が10回を越えたらギルド登録の抹消となります。」
いくらか例外はありそうだが、概ね理に適った仕組みみたいだ。
そして、ギルドカードを発行したての俺はまだギルドに1ゴールドも払っていないため、登録料が前払い扱いになるわけだ。
「すまないが、いま手持ちが無くてな…。」
既にギルドカードが発行されている以上「やっぱ止めた」で3000ゴールドを払わなくても良いとはならない。
しかし無いものは払えないというのも事実で…。
(はぁ…、街に来て初日に奴隷落ちか。)
羽根飾りの憲兵に嵌められたと一瞬思ったが、憲兵は街で暮らしているため、受付嬢と同じく、ギルドへの登録に金が必要なことを知っているのが当たり前だと思っている。
まさか村出身の俺が、ギルドへの登録に金が必要なことを知らず、それ以前にたった3枚の銀貨すら持っていないとは思ってもみなかったことだろう。
つまり俺は、他の仕事の無い時期に、ほぼ無一文で兄に家を追い出された時点で、人生を詰んでいたのだ。
「あの~…、ラストさん?」
項垂れる俺を、受付嬢が呼ぶ。
「何だ?」
いくら美人に慰められようとも、こればかりは立ち直れない。
「ご心配なく!
実は冒険者登録する方には、一定数登録料を払えないという方が居まして…」
借金奴隷の先達がいるから大丈夫だとでも?
「冒険者ギルドでは、1ヶ月以内に登録料を払っていただけたら、無利子で登録料の立て替えを実施しています!」
………。
「つまり今すぐ払えなくても良いってことか?」
「はい♪
ただし“1ヶ月以内”ですよ?」
猶予は出来たが、金を稼ぐ当てが無い以上は同じことだ。
(一旦実家に帰って…)
そこまで考えて無理だと思い直す。
仮に実家に帰ったとして、金が用意出来なければ、今度は入門料に1000ゴールド掛かり、宿に一泊すら出来なくなってしまう。
「あ、そんなに深刻にならなくても、ギルドへの登録は完了済み扱いで、依頼を受けて登録料を稼ぐことが出来ますよ?」
あ、そうか。
ギルドに登録料の立て替えをして貰ったからといって、ギルドの仕事が出来ないわけではない。
「じゃあこいつを今売れるか?」
背負い袋から、この街への道中で狩った角兎を出す。
「それは…、角兎ですか?
でしたら常設の依頼がありますね♪」
そう言って、受付嬢は依頼書の貼られたボードを指し示す。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
〈角兎の討伐・常設〉
依頼内容:角兎の討伐、納品。数は問わず。
依頼主 :冒険者ギルド
報酬 :角兎討伐一匹につき300G。
納品された角兎は買い取りカウンターにて
別精算
※この依頼書は常設依頼のため“剥がさないで”くだ
さい。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
大人なら簡単に倒せる魔物なだけあり、討伐報酬自体は渋い金額だ。
「とすると買い取り次第か。」
「あちらが買い取りカウンターとなっています♪」
俺の呟きに、すかさずにこやかに案内をする受付嬢。
「ああ、ありがとう。
…よし、いっちょ売ってみるか。」
受付嬢に礼を言い、借金の証拠を持って買い取りカウンターに向かう。
「…いらっしゃい。
さっさとそれを寄越しな。」
買い取りカウンターに着くや否や、カウンター向こうの、防水布エプロンを着用したおっさんが、無愛想に言ってきた。
「わかってるって、ほら。」
急かすように伸ばされた手に角兎を渡す。
「…こりゃ、狩ってから時間が経ってんな。」
格好からして解体のプロらしく、渡した角兎の状態をつぶさに確かめるおっさん。
スンスン…
「生臭く無い…、血抜きとワタの処理も問題無しだ。」
とりあえず腐ってはいなかったようだ。
「だがこれは…、毒吸い草か?」
角兎の腹に詰めた草を見て、おっさんが俺に顔を向けて聞いてきた。
「さあ?
村の婆さんがそれで肉が長持ちするって言ってたことしか知らんな。」
「なるほど、村生活の知恵というやつか。」
俺の答えに、何故か納得した様子のおっさん。
「おい坊主。
この草は毒吸い草と言ってな、解毒薬の材料になるんだ。
お前の村の婆さんは、この草が肉の毒を吸って腐りにくくすることを、経験からわかっていたんだろうよ。」
「へぇ。」
褒めているつもりなのだろうか?
しかし良くわかっていない俺は「だからどうした」としか感じず、気の無い相槌をうつ。
「おめーは馬鹿か?
毒吸い草っつったら、そこに採集依頼が貼ってあんだろうが。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
〈毒吸い草の採集〉
依頼内容:毒吸い草の採集、納品。数は問わず。
依頼主 :ブジ薬屋
報酬 :5枚1束につき500G
※最大10束までの納品(10束以上報酬無し)
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「ほう!?」
角兎の討伐より高い報酬に、俺は歓喜の声を出す。
しかしこの依頼で肝心なのは、5枚1束という点だ。
つまり5枚以下では報酬は貰えないということだ。
「3、4、5…ほら丁度3束になったぞ。」
依頼書を剥がして読んでいた俺に、角兎の腹から毒吸い草を取り出し、束にしたものを渡すおっさん。
「あ、助かる。」
これをカウンターで納品すれば計1500Gの収入になる。
所持金と合わせると、登録料の3000Gになった!
「奴隷落ち、回・避!」
妙なテンションになり、変なポーズを取る俺。
「よかったな、角兎も問題ないどころか稀に見る良品だ。
買い取り額にイロつけて、毛皮に500、肉が2000に、魔石は100。
解体手数料が1割の260を引いて、2340Gで買い取りだ。」
嵌められたとか思って済まない、そしてありがとう羽根飾りの憲兵。
俺はこの街で、冒険者としてやっていけそうだ。
異世界テンプレ:謎技術カード
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