87 二者択一
ゲリラ投稿です
光の柱によって作り出された平らな道を、俺は今持てる全力で駆け抜ける。
目指すのは最前線、オーガが討伐された地点だ。
俺はニーニャとマリ姉との合流を優先したために倒したエレファントボアから離れたが、普通はあれだけの大物を倒したら何かしらの明確な所有を示さない限り、目の見えないところまで離れることはない。
つまりオーガを討伐した〈勇者〉パーティーは、オーガを討伐した地点の周辺にいる可能性が最も高い…と俺は判断した。
(これは、酷いな…。)
一度通った時は歩くのにとにかく必死で気付かなかったのだが、〈勇者〉パーティーを探して前線を駆けていると、駆け抜けるだけでも門前の防衛陣地以上に悲惨な状況であることが分かる。
人・魔物問わず数多の生物が地を埋め尽くすように倒れ、その合間を縫って憲兵隊員達と一部の冒険者が生存者の捜索と救護を行っている。
しかしそれでは圧倒的に手が足りないのか、救護処置を行われている負傷者より、倒れたまま放置されている者の方が多い。
放置されている者の中には死亡が確認された者も含むのだろうが、パッと見ても3~4人に1人といった割合でしか処置を受けられていなかった。
ウロウロ…
そして救護を行うでもなく、戦場跡を彷徨く結構な人数の冒険者。
「君たち、負傷者の救護を手伝ってくれ!」
そんな冒険者たちに、真面目そうな憲兵隊員が協力を要請した。
「ギ、ギギィ…」
「っ、おらっ!」
ドスッ…!
「げへへっ…。」
しかし声を掛けられた筈の冒険者は死にかけのゴブリンを見つけてトドメを刺すと、憲兵隊員を無視し再び戦場跡を彷徨き始めるのだった。
「死肉漁りめっ…!」
離れて行く冒険者の背中に、そう吐き捨てる憲兵隊員。
グールとは死霊系魔物なのだが、憲兵隊員が言ったのはそういうことでは無い。
グールは生物の死体が動くようになった魔物で動きは遅く、自ら狩りが出来ないために生物の死体を喰うのだ。
そしてグールに喰われた死体もグールとなるため、戦場跡で発生すると厄介な魔物でもある。
憲兵隊員は先ほどの冒険者の行動を、グールのそんな生態に準えて侮蔑したのだ。
俺としては、獲物を空からかっ拐って行くという下級劣化飛竜というのが適切に思ったが、戦場跡をフラフラと彷徨い歩く冒険者を見て
(…成る程、確かにグールだ。)
と、納得したのだった。
負傷者の救護活動をそっち除けで魔物の追撃に森に入った冒険者も大概だが、時折擦れ違う街に帰還する冒険者パーティーを目撃し、俺はこの件で憲兵隊と冒険者の関係が悪くならないように願った。
…………………。
…………。
…。
「あれか!?」
そんな光景を尻目に駆けていると、ようやく目標のオーガの死体が見えた。
「あ~あ…オーガ、横取りされちゃったな~…。」
「「勇者」がもたもたするのが悪い。」
「「勇者」様、今はそれより負傷者の方の治療を。」
「負傷した者は申し出ろっ、慈悲深き「聖女」様が治療して下さる!」
「腕が折れたんだ!」
「俺は足を挫いた!」
「腹を刺されたんだ、助けてくれ…。」
そして「勇者」パーティーと、「聖女」の治療を求めて群がる冒険者達。
「ハイハイ…君たち、いっぺんに治療は出来ないよ。
順番だっ、並んで並んで!」
群がる冒険者に呼び掛ける「勇者」だが、冒険者は我先にと治療を求め聞き入れやしない。
「うわっ、ちょっ!?」
「「聖女」様っ!」
「きゃあっ!?」
次々と押し寄せる冒険者達に圧され、たじたじの「勇者」パーティー。
これでは順番を待っていても、いつ治療を頼めるか分かったものでは無い。
「勇者」パーティーに群がる冒険者達も、漏れ聞こえて来る怪我の内容は一部を除き命に関わらない怪我のようだ。
(ええい、この際仕方無い!)
グイグイグイッ…!
マナーは悪いがこの際ジョンの命が優先だ。
俺は自分の体格を活かし、冒険者の群れを掻き分け「聖女」の前に踊り出る。
「治療を頼みたい、付いて来てくれ!」
「えっ!?は…」
「だ~か~ら~っ、順番だって言っているじゃないか!」
頷きかけた「聖女」を遮り、俺の前に割り込んで来たのは苛ついた顔の「勇者」だった。
「セラフィアさんは善意で治療してくれるって言っているんだから、こっちの指示には従ってくれないと困るんだよね!
それに僕のパーティーメンバーを、一応でもパーティーリーダーである僕の許可なく連れて行こうとするのもいただけないなぁ。
だから「冒険者は野蛮」とか、この世界でも言われているんじゃないのかい?
君たちも人の言葉が通じるなら、もう少し理性的に行動して欲しいものだね。」
冒険者達に感じた鬱憤をぶち撒けるように、俺一人に捲し立てる「勇者」。
しかし俺も引き下がれ無い。
「マナー違反なのは分かってる、でも急ぎで治療が要る奴がいるんだ!」
「はぁ…、ならここに連れて来なよ。
セラフィアさんが移動する時間で、治療に集中して貰った方が効率が良いのは分かるかな?」
ため息を吐き、俺の訴えを聞き入れてくれる様子の無い「勇者」。
「くっ…なら〈ハイポーション〉をくれ、持っているんだろ!?」
「聖女」がこの場から動けないのであれば、〈ハイポーション〉の融通ならどうだろうか?
「それこそ無理な話だよ。
一体何でそれを知っているのかは知らないけど、仮に君に〈ハイポーション〉を渡したとして、その後次々に〈ハイポーション〉を求められることになる僕の迷惑を考えているかい?
そもそも〈ハイポーション〉はポンポン渡せる物じゃないし、僕の持っている〈ハイポーション〉は今の僕らの生命線なんだ。
世界の命運と君の知り合いの一人、果たして大事なのはどっちかな?」
そんなの当然知り合いの一人だが、「勇者」の言っていることはそういうことでは無いのだろう。
最早梃子でも動かなそうな「勇者」に、結局俺は「聖女」も〈ハイポーション〉の入手も出来ることなく、門前に駆け戻るはめになったのだった。
「あのっ、こちらの方々の治療が終わりましたら伺いますから!」
駆け去る俺に、「勇者」の後ろから顔を覗かせた「聖女」が向けた言葉。
一刻を争う事態の今「聖女」のその言葉は、俺にはなんの慰めにもなりはしなかった。
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