85 事後処理 取り敢えず合流
明日の分が書けたので早めの更新です。
文章のレイアウトを試験的に変えてみました。
これで地の文が読み易くなっていると良いのですが…。
ご意見頂けたら参考にさせて貰います。
スタンピードを終わらせる方法は主に二つ。
一つは魔物の殲滅、そしてもう一つがスタンピードを統率する強力な魔物を倒すこと。
前者の方法は言わずもがなスタンピードの魔物を倒し尽くす方法で、数千から最大10万の魔物のほとんどを倒すのは現実的では無い。
すると実質後者の方法が唯一の方法となるわけだが、大体のスタンピードの場合最初からいわゆる“ボス個体”が出てくることは稀で、結局のところ「魔物の総個体数を減らした後、出てきたボス個体を討伐」という折衷案的な方法になることがほとんどだ。
今回のスタンピードはきっかけこそ〈魔物誘引剤〉という人為的なものではあったが、誘引剤の効果はそれほど続くものでは無く、ボス個体が2体というイレギュラーがあったものの通例通りの方法で収束出来るようだ。
何故それが分かるかというと…
「ギャアギャア!」
「キャンキャンッ!」
「ピギィイィッ!」
「プギャァアァ!」
俺がトドメを刺したエレファントボアと、それから少し後にオーガが討伐された後、恐怖に駆られた悲鳴のような鳴き声を上げて一目散に森へ逃走を始めた魔物達。
我先にと逃げるその様は最早“群れ”と呼べるものでは無く、烏合の衆となった魔物達は一部の冒険者達の追撃を受けて未だに数を減らしていく。
たまに混乱により街の方に向かう魔物もいたりするが、弓隊と外壁前に布陣する防衛隊により即座に討伐される。
ガッ…、ガッ…
「うっ…!、ぐぅっ…!」
俺は槍を支えに、一歩を踏みしめるごとに身体に走る激痛に都度呻き声を上げながら、ニーニャとマリ姉が居る筈の門前に向かう道すがら、そんな光景を視界に流す。
… … … … … … …。
… … … …。
…。
ガッ…、ガッ…
「……あっ、ラストさん!」
激痛に耐えながら、やっとのことで門前にたどり着いた俺をいの一番に出迎えたのは、意外なことにニーニャでもマリ姉でも無く、軽戦士スタイルの冒険者ギルド職員のリタだった。
「よぉリタ、っ!いてて…。」
出迎えてくれたリタに手を上げて返事をしようとした俺だが、体勢を変えたことでここに来るまでに慣れた場所以外に激痛が走った。
「って、怪我してるんじゃないですか!?
待ってて下さい、すぐに〈回復薬〉を持って来ますから!」
痛がる俺を見たリタはそう言い残すと、俺が何かを言う前に駆けて行ってしまった。
(…ニーニャとマリ姉は何処だ?)
リタに待てとは言われたが、そうも言っていられない。
こっちは前線部隊よりもランクの低い者達で構成されていたせいか、前線から大量に流出してしまった魔物による被害が思っていた以上に大きい。
俺が二人を探している間にも、防衛隊の陣地には倒れ伏してピクリとも動かない人影が散見され、知り合いを探す呼び声や負傷者が苦痛に漏らす呻き声が四方から聞こえてくる。
ガッ…、ガッ…
(おっ!)
ガッ!
あまりにも二人が見当たらず不安を感じ始めた頃、俺はようやく門の正面から少し手前に出た場所…バーンさんとギルマスが待機する本陣付近にニーニャの白い三角耳と、マリ姉の被る唾広のとんがり帽子を発見した。
(良かった、無事だ!)
ニーニャもマリ姉も歯鼠や角兎に遅れを取ることは無いと信頼していても、エレファントボアが現れたように戦場に絶対は無い。
何やら二人とも地面に膝をついて作業しているようなので、俺は自分の無事を伝えようと声を掛けようと口を開いた…
「おぉ─」
「もっと布を持って来い!」
ビクッ!
俺が呼び掛けを発したタイミングで、バーンさんの逼迫した大声が聞こえて驚く。
「りょ、了解しました!」
ダダダッ…!
バーンさんの指示を受け、恐らく防衛部隊で戦っていたのであろう若い憲兵隊員が、門内の物資補給所に飛んで行く。
「ラストさんっ、探しましたよ…!」
ズンズンッ…
ポーションを片手に持って近寄って来たリタに、「待っていて下さいって言ったじゃないですか!」と叱られる俺。
…確かにリタはそう言ったが、俺の返事を待たずに去ったのはリタの方だし、俺は了承したつもりも無い…というのは言い訳だろうか?
まぁ…リタとしても善意の行動であり、行動の迅速さや今俺に向けてくる怒りは、俺に対するリタの心配の現れなのであろうことを察せられない程鈍くは無い。
「…あっ、ご主人!」
「え?…ラス君!」
と、ここでニーニャがリタに叱られる俺に気付き、ニーニャに釣られてこっちを向いたマリ姉も俺の存在を認識したようだ。
「ご主人から血の匂いがするっ!?」
「嘘っ!?治療を…それ頂戴!」
パシッ!
「あっ!?」
普段あまり表情の動かないニーニャが明から様な驚愕を浮かべ、マリ姉はそんなニーニャが言った言葉に過剰な反応を示してリタの持っていたポーションを強奪する。
「ちょっと待て!落ち着けって、な?」
(止めて下さい、死んでしまいます。)
リタから強奪したポーションをそのまま瓶ごと叩きつけてくる勢いのマリ姉を抑え、俺は三人に落ち着くように求める。
今はまるで俺が致命傷を負ったように慌てふためいているが、普段の三人であれば、俺が自力でここまで来た時点で心配はしてもここまでの反応にはならなかった筈だ。
…となると過剰な反応をしてしまう原因があるわけで、
「一体何があってそんな…」
と、俺の何気無い言葉に答えたのはニーニャ、マリ姉、リタの三人の誰でも無かった。
「う…、ラスト?…お前は無事だったんだなぁ。」
足元から聞こえた、聞き馴染みのある若い男の声。
しかし俺が知るその男は、こんな弱々しく話すような性格じゃ無い。
「ジョン!?…お前どうし…っ!」
声の聞こえた方向を頼りに、奴に抗議しようと近寄る俺だったが、目に入った光景に俺の頭の中は真っ白になってしまったのだった。
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