84 実績解除:魔物よ、これが人類だ!
悪態を吐いたところで現実は非情で、俺とエレファントボアは互いに満身創痍の状態で向き合っている。
「ブシュルルル…。」
ガッ、ガッ…!
「……、ん?」
突進して来る兆候は見せているエレファントボアだが、一向に突進しては来ない。
(…何を警戒しているんだ?)
確かに散々避けながらの反撃を繰り出していた俺たちだが、今の俺は明から様に立っているのがやっとだ。
「ブゴッ!」
短く吼えたエレファントボアが、その凶悪な牙を天に突き立てるように首を振る。
その牙で俺を突き刺してやるとでも見せつけてアピールしているつもりなのだろうか?
今更そんな風にしなくても、いっそのこと一思いにやれば良いだろうに…。
(……っ!、もしかしてそういうことなのか?)
既に何か抵抗するつもりも失せた俺だが、エレファントボアは無抵抗の俺を攻撃するつもりは無いらしい。
つまり奴は俺に「構えろ。」と意志表示しているのだ。
(そういうのは捨てろって言ったんだがなぁ。)
と自分が調子に乗って言い放った言葉を振り返るが、今となってはその言葉通りの行動をされなくて助かった。
ついでにジョンが戻って来るまで、このまま戦意を見せずにいれば…
ドンッ!
(あ、はい。)
…どうやら俺のせこい考えは見破られているらしく時間稼ぎを考えたところ、エレファントボアは右の前脚で足元の地面を踏み砕いた。
「そんなことは無い。」とエレファントボアの行動を偶然で片付けて時間稼ぎを敢行しても良さげなものだが、万が一間違いで無抵抗のまま殺されては魔物以下の存在になり下がることになる。
(……それは、嫌だな…。)
どちらにせよ結果が変わらないものだとして、人として…いや俺という男の生き様としてそんな最期は迎えたく無い。
穏やかな最期を迎えたいとは思うが、それが無理なら命尽きるまで戦うことを選ぶとは、俺も冒険者らしくなったということだろうか?
(腹を括るか。)
ふと…ここ最近はこんなことが多いと思ったが、覚悟を決めるのにそんなことはどうでも良い。
「ふぅううぅ…、っし!」
ズキッ、ズキズキ…
不思議なことだが、腹を括れば息をするだけでも激しく走った痛みが引いていく。
これがいわゆる“ハイ”ってやつかも知れない。
「『ブゴォオォッ』…!」
ポゥ
エレファントボアが吼えると、スキル発動に伴う魔力光が発生する。
(ああっ、本っ当にクソッタレだ!)
ただの突進でも十分死ねる威力だというのに、奴はスキルで強化までしてきやがった!
「獅子鷲は角兎を狩るにも全力で翔る」とはよく言われるが、まさか狩られる角兎の気持ちを体感することになるとは思ってもみなかった。
ドドドドッ…!
しかしそんなことを俺が考えていても、エレファントボアは構わず光を纏い突進して来る。
前回は同じようにスキルで強化して威力を流すようにしていても、強化されていた筈の盾は一発で破壊された。
今回は前回と同じ対応をしようにも盾は無いし、そもそも身体の調子が悪過ぎる。
(ま、…悪足掻きしようかね!)
グッ…
向こうがスキルを使って来るなら、こちらもスキルを使って迎え撃とうではないか!
そして手持ちで“今”有効そうなスキルを発動しようと、そのスキルを思い浮かべ─
ヒュッ、グサッ!
スキル名を口にする直前、何処からか飛来した矢が、エレファントボアの左目に突き刺さる。
「ビィイイィッ!?」
投擲される物体には警戒して避けることが出来ても、見えないほど遠距離から放たれた矢は避けられない。
(助かったぜ、マーカス!)
自称「弓が得意」な憲兵の顔を頭に過らせ、槍スキルを発動させる。
「『槍突撃』ィイッ!!」
ドンッ…!
スキルの発動によりダメージで動かない筈の身体が、半ば強引に仰け反ったエレファントボアに向かって飛び出す。
槍の穂先が向かうのは、エレファントボア自身が許容してできた首筋の槍傷。
ズブッ…!
「ギィイイッ!?」
エレファントボアが取るに足らないと放り捨てた俺の30万ゴールドによる傷が、今となってエレファントボアの命運を決定付けた。
「おおおおっ…!」
ズブブブッ…
俺は雄叫びを上げながら、槍をエレファントボアの首筋に差し込んでいく。
ブツンッ!
そして手に伝わる、何かを突き破った感触。
「ギッ…!?…ブゴ、ォ?」
ビクッ、ビクンッ!
暗闇に覆われた視界と痙攣するだけで動かない身体に、エレファントボアは困惑した鳴き声を途切れ途切れに漏らす。
「ふっ…!」
ズルッ!
エレファントボアの首を貫通した槍を、一息で一気に引き抜く。
「プギイィッ……。」
ガクッ、ズシィイィンッ…
槍を引き抜く勢いにももう抗えず、悲しげな声を上げながら膝を屈し、果てに身体を横たえるエレファントボア。
「コフー…、コフー…。」
ググ…
間際の息を漏らすエレファントボアが、見えない筈の目で俺を見るように顔を向ける。
「…俺の、俺たちの勝ちだ。」
魔物が言葉を理解出来るかは別として、俺はエレファントボアに“人”の勝利を宣言する。
態々一騎討ちのような真似をしてきたエレファントボアだが、矮小な人類は強靭な身体を持つ魔物は寄って集って倒すしかないのだ。
「これが、人類だ…!」
俺はその事を卑下するでも無く、逆に人類の強みとして堂々とする。
「…ブフゥ~。」
そんな俺に呆れたように息を吐き、エレファントボアは俺に向けていた頭も地に着ける。
…もう死を待つのみなのだろう。
フワン
「お?」
唐突にスキルを習得した感覚がした。
(何だ…)
俺は死を待つエレファントボアを横目に、保有スキルを思い浮かべる。
そして次々に浮かんで来るスキル名の中に、新しく加わったスキルがあった。
「お前…、良いのか?」
訊ねる俺にエレファントボアは答え無い。
『猪突猛進』。
それが俺が新たに習得したスキルの名称だった。
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