81 クリティカル*ヒット
※1 残酷な描写注意!
※2 食事中の閲覧注意!
タイトル?…何かおかしいかい?
先に動いたのはエレファントボア。
数十人に群がられても蹴散らせる力を持っていれば、偶々生き延びているだけの小さな生物2匹…一丁前に身構えていても脅威には感じないのだろう。
ドドドッ!
土煙を上げて迫る巨体、それはさながら小山が襲って来ているように見える。
「やっぱり俺か、よっ…!」
バッ!
何故か気に障るらしく俺に向かって来たエレファントボアを、ある程度引き付けてからジョンのいる反対側に跳んで避ける。
ドドドッ…!
余裕を持って避けたつもりだったが、数瞬後に俺がいた場所をエレファントボアが通過する。
「よっしゃぁ!」
ブンッ、ザシッ…!
回避行動を取らずにこっそり俺から少し距離を離して待機していたジョンが、擦れ違い様にエレファントボアを槍の穂先で斬り付ける。
俺一人だと避けるので精一杯だが、狙いが分かっているならこれ程反撃しやすい状況も無いだろう。
「ブギィイィッ!」
簡単に潰せる筈の生き物に反撃を受け、痛みと怒りに声を上げるエレファントボア。
ドドッ…!
そしてその怒りの矛先を向けるのは…
「だから違う…、だろっ!」
バッ!
やはり俺に向かって来たエレファントボアを、先ほど同様に躱す。
俺が躱してはジョンが突く、というのを数回繰り返すこと幾度目か。
何度も同じ方向に躱し続けたことで、エレファントボアはほぼ逆に頭の向きを変えられた状態になった。
ジョンの立ち位置は大きく変わらず。
エレファントボアは俺に夢中で、目と同じような全生物の弱点の内一つを、ジョンに無防備にも晒していた。
「腹ん中をブッ刺してやんよ!」
ズブッ…!
身体に無数の傷を負い血を流しながらも怒りで動きが鈍る気配の無いエレファントボアに、口の悪くなったジョンが目の前に曝された後ろの弱点…つまり肛門に槍を突き入れる。
「ブオオオオオッ!!!?」
意識外からの完全な不意打ちの大ダメージに、当たってもどうということは無いを体現していたエレファントボアも悶絶の絶叫を吼えた。
「へっ、どうだ!」
ズルッ…、ブパァッ…!
してやったり顔のジョンが槍を引き抜くと、栓が無くなった穴から大量の血を噴き出すエレファントボア。
「うわっ、バッチイ!?」
出血する場所が場所なだけに、殊更に血が掛からないように慌てて離れるジョン。
「ブオォォッ…」
呻くように鳴くエレファントボア。
あの出血を見るに、内臓が大分深く傷ついているであろうことは明白だ。
「ォォ…、オオォッ!」
ボコォッ…!
しかし致命傷を受けて尚、自分を傷付けた敵と相打つのが主足り得る魔物の矜持なのか。
エレファントボアは明らかに緩慢となった動作ながら、その立派な牙で砕いた地面の一部を持ち上げる。
「おい、嘘だろっ!?
『割り込み』!」
ニーニャとマリ姉と狩りをしていて習得したスキルを発動させる俺。
「ブォオォッ!」
ブンッ!
致命傷を負わされては流石に無視出来ないのか、ジョンに向かって牙で掘り起こした岩盤を勢い良く放るエレファントボア。
これまでのパターンと違うエレファントボアの動きに、ジョンは完全に回避行動が遅れていた。
放られた岩盤はウリボア程のサイズがあり、人に直撃したら一溜りも無い。
「うわぁ─」
シュンッ…!
悲鳴を上げ身を屈めるジョンの前に現れる俺。
「『破壊突き』ッ!」
飛んで来る岩盤に俺は、出来れば使いたく無かった威力重視の槍スキルを放つ。
ベキィッ…、バカァアァンッ!
槍の当たった真ん中から割れる岩盤。
ドスンドスン…
2つに分かたれた岩盤は、避けるように俺とジョンの両隣に落下した。
岩をも砕く威力の突きを放つ『ピアス・ブレイク』、しかしこの強力なスキルには致命的な欠点があった。
岩をも砕くということは、岩並みの固さであってもスキルの威力に耐えられ無いということ。
つまり総鉄製槍でも無い限り、スキルの反動で槍も破壊されてしまうのだ。
故にこのスキルは別名『槍壊し』とも言われている。
(あー…、30万ゴールドが…。)
オークを叩き斬ったりと割と無茶な使用にも耐えてくれた槍だが、当然のこととはいえ『槍壊し』の威力には耐えられるものでは無かったようで、撓りの良かった木製の柄は真ん中から見事なくらいポッキリと折れてしまっていた。
「…ラストお前、武器が…。」
庇われた状況への理解が追い付いたジョンが、俺の手の2つに分かれた槍だったものに視線を落として言う。
「どうせ避けるので精一杯なんだ。
長物なんかあっても邪魔なんだよっ…!」
確かに先ほどまでなら、俺の言うことも強ち間違いでは無かった。
しかし今にも倒れそうにふらつくエレファントボアは、動くのがやっとと言った様子だ。
「…これ使えよ。」
エレファントボアがすぐには動き出さないと見て、ジョンが〈憲兵隊制式槍〉を俺に差し出してきた。
「…良いのか?」
ここで遠慮する場面では無いのだが、俺に槍を渡すとジョンは予備武器の剣で戦うことになってしまい危険だ。
「ああ…今のでタゲがお前に戻ったみたいだし、俺は一走りして新しいのを貰って来ようと思う。」
一見エレファントボアを俺一人に任せての戦線一時離脱の宣言だが、エレファントボアのタゲが俺に向いている現状、俺が武器を取りには行けない。
それにエレファントボアを仕留めるでも無くジョンが戻るまでの時間を稼ぐくらい、今のエレファントボア相手なら十分可能な範囲だ。
「分かった。
ここは俺に─」
「言わせねぇよ!?
それじゃここは任せた、俺は先に行かせて貰う。」
俺の台詞を遮り早口でそう言い切ったジョンが、俺が何かを言う前に走り去って行く。
「プゴオオォ…ッ」
「…何だ、待っていたのか?」
ジョンが去って行った途端に存在をアピールするかのように息を吐いた死に体のエレファントボアに、俺は右手に〈憲兵隊制式槍〉左手に折れた槍の穂先側を持った似非二槍流で構えながら問う。
「ゴォオッ!」
俺が死に体と思ったのを否定するように、一際力強い呼吸をするエレファントボア。
事実、死にかけの一撃でも“当たれば”俺は終わりに違い無い。
「…来いよデカ豚、見栄なんか棄てて掛かって来い。」
「ブ、ブオォ…、ブッブォオオォッ!」
ドッドッドッ…!
俺の挑発を理解しているかのようなタイミングで、今持てる全力で動き始めるエレファントボア。
迫る巨体の迫力の中に、傷を庇っているのかどこかコミカルな動きが混ざるエレファントボアを見て思う。
(ジョン、早く戻って来いよ。
で無いと…)
「別に倒してしまっても構わないだろ?」
俺が呟いた言葉は、誰にも聞き咎められることは無かった。
相手が死に体と見るや調子に乗り始める主人公…。
(理不尽に狙って来る相手が弱っていたらそりゃぁ、
…ねぇ?主人公まだ15歳だし…。)
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