75 攻防/W3 ※別視点あり
後半「勇者」ワタル視点です。
「はっ!」
ドスッ!
飛び掛かって来たウルフの腹を、槍で一突き。
「ギャウン!」
「おらぁっ!」
ブンッ…!
腹のド真ん中を突かれ、悲鳴を上げるウルフ。
俺はウルフを突き刺したまま、槍を大きく横薙ぎに振るう。
「ワウッ!?」
サッ…
ドカドカッ!
「キューッ!」
「ヂュ~ッ!」
槍からすっぽ抜けたウルフの身体が飛んで行き、他のウルフは跳び退いて避けられたが、角兎と生き残りの歯鼠を巻き込んだ。
「でやぁっ!」
スパッ!
「キャウゥンッ!」
跳び退いたウルフが、他の冒険者に後ろ脚を斬り付けられ悲鳴を上げる。
「グルァアッ!」
手傷を負わされたウルフは怒り、自身を斬り付けた冒険者に跳び掛かる。
「ひぇえぇっ!?」
剣を振り抜いた体勢の冒険者は、跳び掛かって来るウルフに対応出来ない。
「くそっ…!」
間に合わないと思いながらも、俺は冒険者に跳び掛かるウルフに槍を突き出そうとする。
ドッ!
「ギャッ!」
しかし俺が槍を突き出す前に、空中にいたウルフは頭に矢を生やして吹っ飛んで行った。
ドサッ…
絶命したウルフが地に落ちる。
「…え?」
「ボサッとするなっ、立て!」
直前まで死に曝され腰を抜かした冒険者を、俺は手を引き叱咤して無理矢理に立たせる。
いくら冒険者が個人単位と言っても、助ける余裕があるなら助ける。
「助かった…!」
「礼はいい、構えろ!」
「お、応!」
戦いに復帰していく冒険者。
「キューッ!」
(今のは…。)
ドスッ!
俺はその背を見送り魔物と戦いながら、あのウルフを射抜いた弓手について考える。
射抜かれたウルフは、横に吹き飛んだ。
それはつまり曲射による射ち降ろしではなく、この乱戦の最中跳ぶウルフの軌道を読んで、直射で頭に当てたと言うことになる。
燃え跡の向こう数mが曲射の射程限界だとして、そこから十数mは手前のここであっても、矢が命中したウルフが吹っ飛ぶ程の威力があった。
以前森で他の冒険者が短弓でウルフを仕留めるのを目撃したが、2~3mの距離から身構えていたウルフを射っても1mも飛んでいなかった。
当然周囲には弓持ちがいないので、相当な剛弓で翔ばされた矢だったということだ。
すると自然と俺に思い浮かぶのは…
(…マーカスか!?)
慣れない弓を使用しての精密な狙撃。
本人は確かに弓が得意と言っていたが、これは最早曲芸の域ではないだろうか?
「ピギィイイィッ!」
「ガウッ!?」
「ピキューッ!」
「何だあのデカイウリボアは!?」
誰かの驚愕の叫びに釣られて、魔物の悲鳴が上がった方を見る。
「プギュォオオォッ!」
ズガァーンッ!
魔物の死体のバリケードの向こう左翼寄りの端あたりで、他のより二回り以上のサイズのウリボアが暴れていた。
「ははっ…、化け物じゃないか…。」
暴れるウリボアの一挙手一投足毎に宙を舞い、踏み潰される魔物を見て俺は呟いた。
「ちっ、ああいうのはオーガのご馳走になるんじゃなかったのかよっ!?」
角兎を斬り捨てて、ジョンが愚痴を吐く。
(なるほど、だから…。)
俺もジョンと隣合って戦いながら、〈初心者の森〉にウリボアの成体がいない訳を知った。
〈初心者の森〉の魔物は中央に向かう程強い個体になっていくが、最終的には〈初心者の森〉の主であるオーガが倒してしまうらしい。
(…こりゃ、思った以上に不味いんじゃ…。)
魔物を蹴散らして暴れている最大級サイズのウリボアを見て、俺はこのスタンピードが見た目以上の危険を孕んでいることを危惧した。
だからといって魔物は容赦無く押し寄せて来る。
ザワザワッ…
森が再度騒めき、深緑が平野を侵食し始める。
否、
「ゴブリンが出て来たぞーっ!!」
処理し切れない数の四足の魔物に、成長限界間近のウリボア。
加えて人と同じように道具を使う二足魔物の増援。
戦場の天秤が傾き始める。
─ 「勇者」ワタル視点 ─
「ゴブリンが出て来たぞーっ!!」
僕達の待機する門まで、スタンピードの防衛前線で上げられた叫び声が聞こえて来た。
「よし、じゃあ行こうか。」
僕は振り向き、「勇者」パーティーの仲間である、セラフィアさん、ジャンヌさん、リズリットさんに声を掛ける。
「分かりました。」
「お待ち下さい、「聖女」様。」
僕について来ようとしたセラフィアさんを、セラフィアさんの護衛騎士の筈のジャンヌさんが止める。
「ジャンヌ退きなさい、「勇者」様が出陣なさると言っています。」
「ワタルもセラフィアも馬鹿?
私達の役目はオーガの相手。」
セラフィアさんに叱られたジャンヌさんが何かを言う前に、リズリットさんがぼそりと言う。
「なっ、貴女!」
「魔女風情がっ、「聖女」様を侮辱するか!?」
リズリットさんの明け透けな物言いに、セラフィアさんとジャンヌさんがいきり立つ。
「二人とも待ってくれないかな?」
いつものことだけど、今は喧嘩をする時じゃ無い。
僕は仕方なく三人の間に入り仲裁する。
「「勇者」様が言うのであれば…。」
セラフィアさんが引き下がってくれたことで、ジャンヌさんも引き下がらざるを得なくなる。
これで二人はOKだとして、見下すような目のリズリットさんに、僕は説明をする。
「リズリットさん、僕は役割を忘れた訳じゃない。
このスタンピードは3つのウェーブ…魔物の群れが出て来るんだけど、第3ウェーブのゴブリンの数が半分になるとボスのオーガが出て来るんだ。」
オーガがいつ出現するか不明だから待機にされていたけど、僕は〈ブレサガ〉のストーリーモードでオーガが出て来るタイミングを知っている。
「だからオーガが出てから前線に向かうより、オーガが出て来る前に行った方が犠牲は少なくなると思うんだ。」
後ろから戦いを見ていて分かったけど、最初の街なだけあって憲兵隊も冒険者もはっきり言って弱い。
第1ウェーブは僕の警告のおかげであっさりクリア出来たみたいだけど、第2ウェーブは被害が出過ぎだし進行も遅い。
時間をかけ過ぎてゴブリンの合流を許す体たらくだ。
「「勇者」様を蔑ろにした者達も救いたいとは、流石は「勇者」様です!」
「聖女」のセラフィアさんは相変わらず僕の意思に逆らわない。
「…愚か者には良い薬だと思うけど、まぁ好きにして。」
僕の作戦で肝心の、リズリットさんの消極的賛成も得た。
ジャンヌさんはセラフィアさんに従うから、これで「勇者」パーティー皆の意見が揃った。
「それじゃ、一発行ってみよう!」
シャリンッ…
僕は腰に差した2本の剣の内〈白剣・エクスカリバール〉を抜いて、両手で掲げる。
この剣は〈ブレサガ〉ではストーリー終盤に手に入る無課金最強武器だ。
そしてその性能が、
「『聖光剣』ッ!」
バシュウゥッ!
僕が〈エクスカリバール〉の武器スキルを、MPを込めながら叫ぶと、光の柱が〈エクスカリバール〉から伸びていく。
「はぁああぁっ!」
光の柱を発する〈エクスカリバール〉を全力で振り降ろす。
ズバババァアァッ!
「…ふぅ。」
光の柱が消えた後には、僕達のいる門から〈初心者の森〉手前まで、幅約5m 深さ30cmに抉れた一本道が出来ていた。
「「「「「………。」」」」」
門の付近にいた人達の視線が突き刺さる。
「…あれ?
僕、やり過ぎちゃいました?」
僕はこういうときのお決まりのセリフで、静かになってしまった場を和ませようとしたのだった。
警告無しに後ろからドーン!
…さてはオメェ、根に持ってんな?
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