74 W1、W 2
第1ウェーブ 歯鼠時々角兎
第2ウェーブ 角兎、ウルフ、ウリボア
※『残酷描写注意』です!
ワサワサワサッ
騒つく森から湧き出すように出てきたのは歯鼠の大群、…に時々角兎が混ざる。
「歯鼠凡そ三千、角兎も確認しました!」
憲兵隊の最前列にいた誰かが、後ろに向かって叫んだ。
「弓隊、火矢構え…」
その叫び声に呼応して後方の弓部隊が即座に弓を構え、つがえた矢に火が灯された。
「射て!」
ヒュッ!
同時に放たれた百の火矢が、俺達の頭上に橙色のアーチを描く。
ザァッ…!
「「「キュイィイッ!?」」」
雨のように歯鼠の大群に降り注いだ矢は、歯鼠の大群の手前に落ち、十数の歯鼠を穿った。
「ああっ!?
弓の奴らは馬鹿かっ、もっと奥狙えよ!」
俺達の後ろ…弓部隊の前に並ぶ最後列の冒険者が、その結果を見て文句を言う。
確かに、三千の大群の十数を削ったところで大した意味は無い。
しかし…
ボワッ!
火矢によって地面が燃え上がり、歯鼠の大群の前に炎の柵が生み出される。
「「「「「ヂュ~~~ッ!?」」」」」
突然現れた炎の柵に、止まれずに突っ込んだ歯鼠の先頭集団が燃やされ断末魔を上げる。
歯鼠の体長は30cm程度、矢の点や刃の線で攻撃するには効率が悪い。
加えて弱い魔物は火を恐れる。
広範囲にわたる面での攻撃と、後続の足止めを兼ねた憲兵隊の作戦だ。
「魔物の足が止まったぞ!
暫く奴らは的だ、各自射ちまくれ!」
ヒュヒュンッ、ヒュヒュッ
今度は火の灯らない矢が先ほど同様、山なりの軌道を描き断続的に放たれる。
「キィイッ!?」
「キュッ、キィッ!」
「ヂュッ」
三千もの的があれば、大体の狙いを付けられれば何れかには当たる。
炎の柵の向こうで右往左往する歯鼠の大群は、降り続ける矢により続々と動かなくなっていく。
「チュチュッ…!」
しかし全ての歯鼠が、正面の炎の柵を見て止まるわけでは無い。
一部の賢い個体が、炎の柵の迂回に成功する。
「おらっ!」
ザシュ!
「ッ!」
しかしそんな歯鼠の個体も待ち構えていた冒険者に、断末魔を上げる間も無く討伐される。
… … … … … … …。
… … … …。
…。
スタンピード発生から十数分。
トスットスッ
「ヂュイィッ!」
歯鼠が矢に穿たれ上げる鳴き声よりも、地面に矢が突き刺さる音の方が多くなってくる。
歯鼠を止めていた炎の柵がほぼ鎮火する頃になると、生きている歯鼠は合わせて百程がてんでバラバラに動いている状態となっていた。
「ほぼ弓で片付けたな。」
歯鼠の死体や無数の矢が突き刺さる平野を見て、ジョンが漏らした言葉だ。
多少前衛部隊が動いたものの、消耗は無いに等しい。
しかし前衛の損耗無く歯鼠の大群を殲滅することは出来はしたが、弓隊が門まで補給の列を形成しているところを見るに、これ以降の戦いは後方支援が薄くなりそうだ。
ドドドドド…
「角兎の群れですっ!
…つ、続いてウルフ、ウリボアも確認!」
茶と白の斑模様の毛玉が跳ねるように迫る後ろから、数体のウルフが固まって角兎の群れの一部を囲い込むように追い、ウリボアは進路の魔物を弾き飛ばしながら直進して来る。
「魔防柵用意…」
憲兵隊に号令がかかり、間隔を空けた縦二列の憲兵が屈む。
ドドドドッ
魔物が混合した凡そ千程の群れが、先行していた歯鼠の群れを呑み込み、平野の燃え跡の灰を巻き上げる。
「引けえぇっ!」
「「「「うぉおおぉっ!」」」」
グワッ…!
伏せられていた細身の丸太の柵が持ち上がり、尖るように削られた両端の片側が魔物の群れに向けられる。
ドドドッ…!?
突然現れた障害物に、向かって来ていた魔物の群れの動きが乱れる。
脇に逸れる、反転する、止まる、跳躍する。
反応出来た先頭の魔物はそれぞれの行動を取ったが、後続の魔物はそのまま柵に突っ込む。
ガタンッ!
「ギャウゥウンッ!?」
「プギーッ!」
走る勢いで、鋭く削られた丸太に自ら突き刺さる魔物。
魔物が柵に衝突した衝撃で、削られた丸太の反対側が地面に食い込み固定される。
「ピギュッ」
「ギャウッ」
「キュッ」
丸太に突き刺さったのは精々が20~30体。
しかし辛うじて杭による刺殺を免れた魔物も、続々と来る後続と即席の壁となった柵に挟まれて次々圧死していく。
「ガァウゥッ…!」
「うわぁあっ!」
ただしそれだけでどうにか出来る程、スタンピードは甘くは無い。
跳躍で刺殺も圧死も回避したウルフが、着地した直ぐ側にいたこのスタンピードの犯人の集団に襲い掛かる。
「来るぞっ、総員戦闘態勢!」
これを皮切りに、すっかり魔物の死体の山と化した柵を越え、血の臭いに興奮した魔物が行く手を阻む人間達に牙を剥く。
「ガウァッ!」
ズシャアァッ!
「ぐわぁっ、目が…!」
とある憲兵がウルフに顔面を引っ掻かれ、視界を失い無防備になる。
「ガウガウッ!」
「ガァアァッ!」
そんな憲兵に群がるウルフ数体。
「ひっ…止め、ぎゃあぁあっ~!」
その憲兵はウルフに引き倒され見えなくなってしまったが、悲鳴が上がったことから無事では済まないことが明らかだった。
そしてそんな光景はあちこちで起こる。
「キューッ!」
ドスッ…!
「ぐっ、…くそがぁっ!」
ボキッ
脇腹に刺さった角兎を引き抜き、引き抜いた角兎の首を折る冒険者。
「くそっ、くそ…が。」
バタリ
悪態を何度も吐きながら地に伏せ、二度と立ち上がることは無かった。
ドドドドッ!
「ピギーッ!」
そして俺にも、ウリボアが突進を仕掛けて来る。
「危ねぇっ!」
バッ!
俺は横に跳び、ウリボアを躱す。
ドゴッ!
「ぐぁああっ!?」
「こいつっ!」
ザンッ!
俺が躱したウリボアはそのまま油断していた他の冒険者を轢ねた後、更に他の冒険者に斬り伏せられたのであった。
スタンピードは始まったばかりであったが、既に戦場は混戦の模様を描き出していた。
Q , 角兎に殺されるとかダサw
A , 宜しい、ならば蟻の大群と戦いたまえ。
(数の暴力って怖~…)
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