68 劣を優に変えて
申し訳程度のタイトル要素。
2025/2/2
100万PV達成しました!
沢山の閲覧、誠にありがとうございます。
『異世界から召喚された「勇者」が、ベビーリーフタウンに滞在している。』
という話しは、「勇者」本人が街への滞在を宣言したことで、一晩が経ち2日目ともなればかなりの人間に周知される。
しかし…だからといって人々の生活に大きな変化があるわけでも無く、「人々」にあたる俺達〈白の大樹〉も〈初心者の森〉で狩りに勤しんでいた。
ドッ…!
「ゲッ!?」
地面を見て何かを探すのに夢中のゴブリンに、背後から槍を突き刺す。
ビクンッ!ダラン…
一度大きく痙攣して脱力するゴブリン。
ドサッ、ズルッ…
槍に支えられるゴブリンの死体を地面に倒し、刺さったままだった穂先を引き抜く。
(…よし、死んでるな。)
しばらく様子を伺い、ゴブリンが絶命していることを確認した。
たまにいる狡賢いゴブリンなんかは、浅い傷でも倒れる…いわゆる“死んだフリ”をすることがある。
そして処理しようと近付いたところを、武器でボカリ。
こうしてソロの新人冒険者や、〈初心者の森〉に採取に入った街人が犠牲になる。
そんなことを考えながら俺は槍を背中に納め、右耳と魔石を回収しようとゴブリンの死体に近付く。
ガサガサッ
藪を掻き分けて何かが近付いて来る音。
「っ!」
俺は咄嗟に、シャベルナイフを腰に提げた鞘から引き抜き警戒する。
ガサガサッ、ピョコン!
藪から白い三角が2つ見えた。
「あ、ご主人いた。」
藪から出てきたのはニーニャ。
ガサガサガサガサ
「ニーニャちゃん待って、歩くの早いぃ…。」
とマリ姉だった。
「どうだった?」
俺はニーニャとマリ姉に訊ねた。
「ん、いっぱいいる。」
「ギルドが“魔引き”を決定するのも納得ね。」
やたらと音を立てていた二人だが、ニーニャは両方の手にゴブリンの死体2つを引き摺り、マリ姉は…なんらかの魔法で複数のゴブリンの死体を団子にして運んでいた。
ドサドサッ!
「全部で7体、耳と魔石は回収済みよ。」
魔法を解除したマリ姉が報告してきた。
「俺は3体だ。
死体を持って来るから、耳と魔石の回収を頼む。」
ここから少し離れた場所に、2体同時で相手したゴブリンの死体を転がしていた。
勿論、耳と魔石は回収済みだ。
「ん、任せて。」
親指を立てるニーニャに見送られ、俺はゴブリンの死体の回収を急いだ。
… … … … … … …。
… … … …。
…。
ザクッ…ザクッ…ザクッ…
ゴブリンの死体を回収後、俺はシャベルナイフを使い穴を掘っていた。
ザクッ…
「マリ姉、こんなもんで良いか?」
ゴブリンが5体は埋まる穴を掘ったあたりで、ニーニャと周辺警戒をしていたマリ姉に声をかける。
「あら?…結構深く掘ったのね。」
どうやらマリ姉の予想以上に掘っていたようだ。
しかし深くて悪いということは無いだろう。
「それじゃ、ゴブリンの死体をここに入れましょ。」
「ああ。…ニーニャは警戒を続けてくれ。」
「ん、分かった。」
ニーニャに警戒を任せ、俺とマリ姉は掘った穴にゴブリンの死体を放り込む。
ドサッ…ドサッ…ドサッ…
ゴブリンの死体の数は10、穴に入らない分は崩れないように積み上げていく。
ドサッ
「ふぅ…、こんなもんか。」
ゴブリンの体格は人間の子供くらいとはいえ、持ち上げるのはそれなりの労力が要る。
「あ、終わった?
それじゃ、次は穴の周りの草刈り手伝って頂戴。」
一息つく間も無く、マリ姉が俺に次なる労働を課してくる。
俺がゴブリンの死体を積み上げている間に、マリ姉が草刈りをした範囲は穴の外周の4分の1程。
俺は元農民の面目躍如で、残る範囲の半分以上の草刈りを完了させたのだった。
…………………。
…………。
…。
「それじゃ危ないから離れて。」
マリ姉の注意を受け俺とニーニャは、草刈りをした範囲の更に倍程の距離を取った。
「それくらいでOKよ。…それじゃいくわよ?」
そう言って草刈りをした範囲の外周ギリギリに立つマリ姉は背後に振り返り、片手をゴブリンの死体の山に向け魔法を発動する。
「魔の火よ、燃やし尽くせ…『魔炎』!」
ボオォッ!
マリ姉の掌から噴出した火がゴブリンの死体に燃え移り、マリ姉が魔法の発動を止めて尚もゴブリンの死体の山は燃え盛っていく。
魔力の炎により、みるみる内に嵩を減らしていくゴブリンの死体の山。
プスプス…
しばらく経って炎が消えると、山となっていたゴブリンの死体は僅かな灰となって、掘った穴の底で燻るのみであった。
こうして、死体とはいえゴブリン10体がゴブリン1体にも満たない灰に変わるのを見ると、殆どの国が攻撃魔法使いの確保に必死になるのも頷ける。
もちろん死体と生体では効果が大分異なるのだが、仮に…今灰になったゴブリン10体が生きていたとして、結果は灰がゴブリンの形をした炭に変わっただけだろう。
継続する『魔炎』と違い瞬間的な『火球』だったとしても、攻撃魔法を受けて良く生きていたものだと自分でも思う。
…これはケインとの決闘の後、教会で治療を受けた際の話。
─ 回想中 ─
『おやおや、本日は如何されました?』
司祭様が、マリ姉とニーニャに付き添われる俺を見て訊ねてきた。
『ああ、…ちょっと決闘で『魔弾』を食らってな。』
『何と!?では急いで治療しなければ!
さあ、こちらへ。』
司祭様の反応は些か過剰ではあったが、魔法の攻撃とはそれほどの脅威なのだ。
『…む、これは…?』
『何か?』
俺の負傷部を見て首を傾げた司祭様に、俺は問題があったのか訊ねるも、司祭様は首を横に振り神請魔法を発動した。
『この者に癒しを与え賜え…『回復』。』
─ 回想終了 ─
…あの時は『回復』一回で済んで、金銭的にも良かった。
マリ姉曰く、
『ラス君は魔力の放出は不可レベルで苦手みたいだけど、魔力量はそれなりに多いみたい。』
とのことだ。
魔力量が多いということは、魔力の干渉も大きくなる。
それはつまり攻撃魔法に耐性があるということで、だからこそ『魔弾』を受けても立っていられたのでは?…ということらしい。
あの時は魔法が使えない=魔力が無いではないことを知って驚いたと同時に、魔力があっても俺は魔法が使えないということが残念だった。
しかしまぁ、魔物の中には魔法を使ってくるものもいるので、冒険者をやる以上“魔法に耐性がある”というのは生存率を上げることに繋がる。
「ご主人、帰ろ?」
「お?…ああ、そうだな。」
どうやら考え込んでしまっていたらしく、ニーニャに帰還を促された。
ニーニャにマリ姉、〈白の大樹〉の仲間で…俺の大事な二人。
前を並んで歩く二人の小さな背中を見て、俺は彼女たちの盾になれるこの身体を初めて誇りに感じたのだった。
マリ姉「ヒャッハー!汚物は消毒だぁ~!」
『魔炎』のイメージはダ○ソ3の火炎噴流。
つまり火炎放射器。
敵に接近された時に焼き払うのが主な用途の下級攻撃魔法。
いつも読んでいただきありがとうございます。
ブックマーク、☆、いいね等、執筆の励みになります。
「面白かった」「続きが気になる」という方は是非、評価の方よろしくお願いします。
感想、レビュー等もお待ちしています。




