表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/114

6  職を探して三千里

ビラ配りA「デフだからいっぱい食べるでしょ?」

ビラ配りB「この人モテないんだろうなぁ。」

 あの後、巡回の憲兵に声を掛けられるというアクシデントがあったが、事情を話すと厳しかった表情が見る間に気の毒そうに変わり、終いには、

 

「まあ…何だ?

 お前さんはまだ若い、人生これからさ。」


 と、肩に手を置いて言われた。


「だから余計なお世話だって言ってんだよ!」


 と、もう一度叫びたくなったが、それをしたら今度こそ牢に放り込まれてしまうので我慢した。


「そうだと良いんだがな…。」


 俺は半ば自分に言い聞かせるようにして、死んだ目で、巡回の憲兵に相づちを打った。


… … … … … … …。

… … … …。

…。


「ここだ。」


 迷惑ついでにもう一つの迷惑を。

 ということで巡回の憲兵に案内して貰い、俺は漸く…漸く商業ギルド前へと辿り着いた。

 もうそれだけで人生の目標を達成した気分を味わった。


「世話になったな…。」


「お…おう、仕事だからな。」


 感極まった俺の礼に、巡回の憲兵は引き気味に謙遜した。


「じゃあ、俺は巡回に戻るよ。

 良い仕事に就いたら、今日の礼に一杯奢ってくれよな。

 女神ニュグラスの加護がありますように。」


「ああ、承知した。

 女神クトゥグァの加護を祈るよ。」


 それぞれこの国で信仰される豊穣と戦の女神の加護を祈り合って、俺は後ろ手に数度手を振って去る憲兵を見送った。


(…あれ、あいつ何て名前だ?)


 再会の約束のようなものを交わしたが、相手の名前を聞いていないことに気が付く。

 相手の名前が分からなければ職業で訊ねるしかないのだが、この街には憲兵が何十人といることだろう。


(ま、良いや。)


 案内してくれた憲兵を探す苦労を想像し、面倒になった俺はこの件は忘れることにした。

 だいたいああいうのは激励の常套句だし、気が向いたら門番のジョンに聞けば良いだろう。


「よし、」(たのもー!)


チリリンッ♪


 迷惑を考え、内心で気合いの入った訪問の挨拶をしてから、商業ギルドの入り口のドアを開けた。


「いらっしゃいませ、こちらは商業ギルドになります。

 ご用件は何でしょうか?」


 内心の勢いとは真逆に、ソロリと入っていった俺に、カウンター向こうに座る美人の(←ここは重要だ!)受付嬢が用件を訊ねてきた。


「えっと…仕事を、探してて。」


 美人受付嬢に対し俺のトラウマ発動!

 ラストはどもりながらも用件を言いきった!


「求職の方ですね?此方へどうぞ。」


 スラスラと話す受付嬢が、にこやかに自らの前のカウンターの席を示す。


「お、おう。」


 トラウマが発動しっぱなしの俺は、ギクシャクとした動きで、何とか示された席に座る。


「あなたの名前は?」


「ラストだ。」


 俺が席につき始まったのは、職を紹介するにあたっての質問だった。


「ではラストさん。

 あなたが希望する職種はありますか?」


 貴女が触手に絡まれているところが見たいです。


「いや、特には…。」


「文字の読み書き、計算は出来ますか?」


 胸を揉みもみっ!?結婚は是非とも!


「読みと計算は少し、書くのはあまり…。」


「ではこちらを声に出して読み上げ、その後こちらの紙に文字を書いて下さい。」


「………あ、ハイ。」


 受付嬢が渡してきた二枚の紙片と羽根ペンに、トラウマで迷走していた頭が正常に戻る。


「…えっ、これを?」


 渡された紙片の一枚に書いてあった、ワームののたくった後のような線に、思わず俺は確認する。


「はい。

 そちら現在人類種共通言語となっている現行人間種(ヒュムス)語となります。」


 村で隠居の年寄り達が、子供の頃教えてくれた文字も現行人間種語の筈なのだが。


(とりあえずそれっぽく読んでみるか…。)


「ええと…。

 わたしは、…ソイオイ、オ?…ヨイ、オイ500ゴールド。」


 とりあえずこれで一文だ。


「わたしは、イオウィオ、オプ…いやこれは林檎(アプル)か!」


「…続きからどうぞ。」


 心なしか受付嬢の態度が冷たいような気がする。


「100ゴールド、と……大玉蜜柑(オラン)が100ゴールド。」


 二文目の残りと三文目を一気に予想で読み上げ終わる。


(ゴールドってことは金の話だろ?)


 商業ギルドらしい文章だ。

 何も書かれていない紙片を、自分の近くに手繰り寄せる。


(で、こっちは「文字を書け」…ねぇ。)


 受付嬢はこれをやる前に「読み書き、計算は出来るか?」と質問してきた。

 となると文章に出てきた数字を使えば…!


 [CHENZI IZU 3OOG]


 これが、俺の、答えだっ!


「…ぷっ。」


 自信満々に返した紙片を見て、受付嬢が吹き出す。


「あはっ、あははは!」


 何が可笑しかったのか、声を上げて笑う受付嬢。


「あはは…、もう…申し訳ありません。」


 いや、気にしない。


「貴女の可愛い笑顔が見れたので、むしろお礼を言わせて欲しい。」


「…え?」


 俺の返答に固まる受付嬢。


(…って、しまったあぁ!)


 受付嬢の笑い声を、村の女たちに受けた嘲笑と頭が勘違いして、美人トラウマが発動してしまっていた!

 そしてよりにもよって、内心で思っていた筈の迷走した言葉を口にしてしまっていた!


「ボソッ…。(この人私のこと可愛いって。)

 ………、コホンッ!」


 何か言ったような受付嬢だったが、俺がそれに言及する前に、咳払いを一つして空気を整えた。


「残念ながら現在、この街にラストさんに紹介可能な職はありません。」


 ぎぃいやあぁぁ~っ!


 美人受付嬢の口から紡がれた言葉は死刑宣告となり、俺は頭上から巨大な刃が振るわれたのを幻視した。

 

因みにラストに渡された文章

「I sold a rabi 500 G.

I buy a aple 100 G,

and a oran 100 G.」


適当訳で

 私は一匹のラビを500Gで売った。

 私は一個のアプル100G、

 と一個のオラン100Gで買った。


となると計算が

 500-100-100=?


つまり解答として

 CHANGE IS 300G.(お釣りは300G)


う~ん…、残念!



いつも読んでいただきありがとうございます。


ブックマーク、☆、いいね等、執筆の励みになります。

「面白かった」「続きが気になる」という方は是非、評価の方よろしくお願いします。


感想、レビュー等もお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ