67 白猫と香辛料~日常に添えるスパイス~
これが、バブみ…?
…主人公サイド、行きます!
食材の買い出しを終えて、俺達は一旦家に買った物を置きに戻った後、再び街に繰り出していた。
「むぅ…、モグモグ…。」
少し膨れたニーニャが、屋台通りで買った肉サンドを頬張る。
「串焼き…、残念だったな。」
ニーニャが膨れっ面をしながら肉サンドを頬張るという器用な真似をしている理由が、「お気に入りの串焼き屋台が無かったから」…これである。
昨日はオークを2体も売却したので、ニーニャは例のおっちゃん…〈ノーブルの串焼き屋〉が開いていることを期待していたらしいのだが、前回寄った時に言っていたように本業が忙しくなってしまったのだろう。
「モグモグ…ゴクン、ん…別に。」
頬張っていた肉サンドを良く噛んでから飲み込んで俺に返すニーニャだが、まだ少し拗ねているような感じがする。
「ニーニャちゃん、それどんな味?」
マリ姉が徐に、ニーニャの持つ肉サンドの味を訊ねた。
パンに挟まっている肉に絡んだタレが気になるらしい。
「ん、ピリ辛。」
屋台で調理されていた時からそんな気はしていたが、やはりタレにはレッドクローが使用されていたらしい。
オーク串ほどでは無いが一個500ゴールドという、サンド系としては高めの値段にも納得だ。
(やはり香辛料は高級品だな…。)
唯一国内でも栽培されるレッドクローが、平民が比較的頻繁に口に出来る香辛料だろう。
それ故にレッドクローは「庶民の香辛料」と言われ、香辛料を挙って求める貴族でもレッドクローは避けるという噂だ。
「でも、これも美味しい。」
マリ姉に味を聞かれたことで、ニーニャも肉サンドは肉サンドで気に入ったようで口角を上げる。
旨いものに貴賤無し。
生き物の根源たる欲求の一つ「食欲」の前に、人という生き物の一種が勝手に定めたことなど塵芥にも等しいのだ。
「そう、それは良かったわ。」
ニーニャの喜ぶ様子に、マリ姉はそう言って慈母の微笑みを浮かべたのだった。
… … … … … … …。
… … … …。
…。
その後適当に街を散策した俺達だったが、いつの間にか冒険者ギルドの方へと足を運んでいた。
恐ろしく自然な行動。
俺でなかったら、ギルドに到着する前に気付けなかったことだろう。
(…もうすっかり冒険者に馴染んじまったな。)
街中の仕事が無く…やむを得ず登録することになった冒険者だったが、今となっては街中で仕事をしている自分の姿を想像出来なくなっていた。
最初はゴブリンに迂闊にも近付いて膀胱を決壊させていた俺が、今となっては一人でも単体のオークを狩れるようになっている。
ウリボアですら村の男総出、ウルフの群れなんかが出た日には阿鼻叫喚の、農民だった頃には考えられない“今”である。
ガヤガヤガヤガヤ…
そんなことを思いながらもギルドに向かって歩き続けていると、ギルドの方が何だか騒がしいことに気が付いた。
「何かあったのかしら?」
俺と同様に気付いた様子のマリ姉が、少し警戒を滲ませて言う。
ピコピコ…
ニーニャも三角の耳を忙しなく動かしている。
(というか可愛すぎだろ…!)
などと、狩場ではじっくり見る余裕のなかったニーニャの耳レーダーの動きを見て浮かれていた俺は、ニーニャが聞き取り呟いた言葉に冷や水を浴びせられる。
「ゆうしゃ…?…決闘?」
「っ!?」
決闘っ!?…一体誰が誰と?
「「勇者」ですって!?」
決闘という言葉に反応した俺に対し、俺と同じようにニーニャの耳を見て目を輝かせていたマリ姉は、俺がスルーしたゆうしゃ…いや「勇者」という言葉に驚愕の反応を示した。
「「勇者」?一体どうゆう─」
「勇者」と言えば古の勇者のことが思い浮かぶが、それと決闘がいまいち繋がらない。
ので…いつもの如く、俺はマリ姉に訊ねようとした…
「出てくる。」
のだが、ニーニャに遮られる。
ガヤガヤ…ギイィ、ガヤッ…!?
「貴様ら邪魔だっ、道を開けろ!」
「「勇者」様、本当に大丈夫ですか?」
「セラフィアさんのおかげでバッチリだよ。
予定通り〈ハイポーション〉も貰えたし。」
「…アイテムのためにわざと怪我するとか馬鹿?」
「いや、回復手段はあった方が良いでしょ?」
そんな会話をしながら、ギルドに詰めかけた人々を掻き分けて出てきたのは、俺達が街で擦れ違ったハーレムパーティーだった。
「「勇者」?」
「おい、この街に「勇者」が来たってよ!」
ギルドに詰めかける人々の中には、単なる野次馬根性で来ていた人もいたらしく、騒ぎの理由を知ってもう一度騒ぎ始める。
「道を開けろと言ったのが聞こえないのか!」
パーティーの先頭を進む女騎士が、一向に散らない民衆に怒鳴り声を上げる。
「ジャンヌさん、落ち着いて下さい。
…リズリットさん、拡声の魔法って使えますか?」
「当然、私を誰だと…ってそういうこと?
『扇動』。」
女騎士を宥めて、女魔術師に何らかの魔法を掛けさせた青年が話し始める。
『あーあー、…ゴホンッ
ベビーリーフタウンの皆さん、コンニチワ!
僕は異世界の日本と言う国からやって来た、ワタル・イセと申します。』
張り上げたわけでもない声が、勇者パーティーからそれなりに離れた距離にいる俺達にはっきりと届いた。
ザワッ!?
「何か声が聞こえるぞ!?」
「魔法だ!」
「というか「勇者」だって?」
通り掛かっただけの人々にも、「勇者」を自称する青年の声が届いたらしい。
「まさかこの街全体に…!?
…あの格好、魔道国家の魔導師ね。」
マリ姉が勇者パーティーの魔術師…魔導師(?)が使った魔法に、戦慄したように呟いた。
「勇者って黒い髪に黒い目なんじゃ?」
「でもコンニチワって言ってたぞ?」
俺は青年の目が黒目であることを知っているが、この距離からでは明るい茶色の髪色しか判別出来ない。
それに「コンニチワ」と言うのは異世界の挨拶らしいが、有名な言葉なだけあって証拠には弱い。
『え~と…今皆さんに集まって頂いていますが、僕達もこの街に来たばかりなので、出来れば解散していただきたいと思っています。』
また異世界人の特徴として、やたらと丁寧な言葉遣いも挙げられる。
『僕達はとある目的があって、この街に訪れました。
目的を達成するまではこの街に滞在するので、常識的な行動を心がけて下さい。』
異世界の人間に“常識”を語られるとは…、果たして常識から外れているのはどちらなのだろうか?
『以上、「勇者」ワタルからのお願いでした。』
そう言って頭を下げる…オジギと言われる礼を取る青年。
作法まで異世界のものとは、ここまで徹底されると逆に怪しく感じてしまう。
「…これは、本物かも知れないわね…。」
しかしマリ姉はあの青年が本物だと、かなり高い確率で考えているらしい。
「どうして?」
ニーニャがマリ姉に理由を訊ねた。
「…あの青年、聞こえる言葉と口の動きが殆ど一致していなかった。」
そう言えば…古の勇者は最初は言葉が通じず、ある日突然流暢に話し始めたと言う。
「おそらく言語系スキル。
古の勇者のスキルは、『物体召喚』『武神の目』そして…『全言語翻訳』の三つと言われているわ。」
古の勇者のスキルは推測でしか無いものの、推定されているスキルは何れも超希少スキルである。
特に『全言語翻訳』は生まれつきでは習得されないスキルであるため、青年が習得していることなど本来はあり得ないのだ。
唯一の例外と言われているのが、勇者が世界を渡る時に授かる恩恵。
それは青年が異世界人であることの、何よりの証明であった。
マリ姉、読唇術出来るとか有能過ぎ無い?
そして勇者のスキル三つをネタバレすると、
『物体召還』 →『マジックボックス』
『武神の目』 →『鑑定』
『全言語翻訳』→『異世界言語』
の、テンプレ三点セットになります。
(ネタバレすんなって怒られ無いですよね?)
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