66 勇む者 ※別視点
※警告⚠️
食事中の閲覧注意!!
ギルド視点になります。
2025年1月
【 祝! 初ランクインのお知らせ】
本作がハイファンタジー月間ランキング37位にランクインしました!
(連載中作品に限定するとなんと14位に!?)
ブクマ・☆等の応援ありがとうございました。
注目ランキング入りのきっかけとなった、初期から本作を応援して下さった読者の方々には特段の感謝を。
まだまだ完結には程遠いですが、頑張って執筆していきたいと思っていますので、これからも応援のほど、宜しくお願いします。 FURU
バアァンッ!
「たのもーーっ!!」
冒険者ギルド出入り口のスイングドアが勢い良く開かれ、若い男の威勢のいい大声がギルド内の隅々に響き渡る。
コツコツコツ…
「…煩い。」
カチャカチャ…
「癪に触るが、同意見だ。」
コツ…コツ…
「…まぁ、《……》様のなさることですから。」
ドアを開けた青年に続いて彼のパーティーメンバーらしき女3人が、攻撃魔法使い・騎士・僧侶の順でギルドへと入って来る。
「何だお前、迷惑ってモンを知らないのか?」
昼間からギルド併設の酒場で酒を飲んでいた冒険者が、ギルド内を受付カウンターに向かって我が物顔で闊歩する青年に突っ掛かる。
「済まない、モブの相手をしている時間はこの街に無いんだ。」
そう言って突っ掛かってきた冒険者をあしらう青年。
「痛い目見ないと分からねぇか?」
酔っ払っていた冒険者は、赤ら顔のまま剣呑な表情を浮かべる。
「はぁ…、僕は警告したからな。」
青年がそう言った瞬間。
ボスッ…!
砂袋を叩いたような籠った音。
「カッ、ハァッ…!?!?」
それは青年が酔っ払った冒険者の鳩尾を、目にも止まらぬ速さで殴った音だった。
「ゥプッ、…オエェェッ!」
ビチャビチャッ…!
腹の中身を床にぶちまける冒険者。
「うわっ!?」
「ちょっ、おま…!」
「やり過ぎだっ!」
状況を見ていた他の冒険者達は、青年を注意しに行った冒険者を殴ったことを口々に非難する。
「状況判断力の欠如、つまり自業自得。」
「あの程度も堪えられないとは…、情けない。」
「これも全ては救世のためです。」
パーティーメンバーは青年を擁護するわけでもないが、口にする勝手な言葉は冒険者達の怒りに油を注ぐ。
「何の騒ぎだ!」
冒険者が青年に突っ掛かった時点でリタが呼びに行っていた、ギルドマスターのオットーがホールに姿を現す。
「あ、やっと出て来た!」
騒ぎを起こした張本人の青年は、ギルマスの登場に罰の悪い様子を見せるどころか、その顔には喜色を浮かべる。
「何の用だ?」
「鎮まりなさいっ!」
オットーが青年を見留めた瞬間、見計らっていたように制止を呼び掛ける女僧侶。
「こちらの青年は、神の啓示により救世教会が〈異世界・日本〉より召喚に成功した「勇者」です!」
「「「「「!?」」」」」
女僧侶の発言の衝撃に、流石のオットーもその他大勢と同じような反応となる。
「そしてこちらが救世教会第一聖「聖女」ならびに、〈聖ブレイブハート及びリィンカ教皇王国〉第二王女セラフィア・リィン・ブレイブハート様にあらせられる。
無信心なる下郎共よ頭が高い、控えよ!」
驚愕する一同に畳み掛けるように、女騎士が女僧侶の身分をも明かす。
この女騎士の独断行為によって「勇者」の信憑性は増したものの、他国の姫が入国していたことへの対応で冒険者ギルドが一時混乱に陥ってしまうのであった。
「あはは~…、やっぱこうなっちゃったか~。」
その間、「聖女」に全てを持って行かれた「勇者」は、所存無さげに苦笑いしていたのだとか。
… … … … … … …。
… … … …。
…。
ギルドが混乱に陥ってからしばらく後、場所はホールからギルドマスターの執務室。
「ふぅ~…。
んで…異世界の「勇者」と救世教会の「聖女」サマがお揃いで、こんな辺鄙な冒険者ギルドに何用で?」
オットーは愛用の椅子に身体を預けて、大きく溜め息を一つ。
その後姿勢を正して用件を尋ねる言葉にトゲがあるのは、混乱の収集がどれ程大変だったかを物語っていた。
「あ、その前に。
僕の名前は伊瀬渡といいます、こっちの世界的にはワタル・イセになるんですかね?
僕は「勇者」らしいんですけど日本では学生やってたんで、気楽にワタルと呼んで下さい。」
「…オットーだ、常識の範囲内で好きに呼べ。」
右手を差し出したワタルに、オットーは簡素に返してワタルが差し出した手を握った。
「それで、用件は?」
「あ、そのことなんですけど…。」
オットーが再び用件を尋ねると、ワタルは辛そうな表情となり言い淀む。
「何だ?早く言え。」
まさか「何と無く来てみただけ。」というオチは容赦しない、とオットーは早く言えと圧を掛ける。
「あの…信じられないかも知れませんけど、僕は日本の〈ブレイブ・サーガ〉というゲーム…仮想の冒険で、この世界で未来に起きる出来事を知っているんです。
………、…あの?」
「それだけか?」
オットーが思っていたような反応を示さなかったことに、逆に面食らいながらワタルは話を再開する。
「えっ!?
えっと…この街はそのゲームで主人公が最初に訪れる街なんですけど、〈初心者の森〉から魔物が大群で押し寄せて来るイベントがあるんです。」
「…「魔物の氾濫」か。」
ワタルの話す未来に起こる出来事に、心当たりのあったオットーは呟く。
「そうです。
僕はその「スタンピード」の警告と、「スタンピード」を未然に防ぐ協力を冒険者ギルドにお願いしたいんです。」
「…情報提供感謝する。
しかし丁度先日、ギルド主導の“魔引き”を内決定したところだ。」
真摯なワタルの頼みを、そう言って断るオットー。
「違うっ、この「スタンピード」は人為的に引き起こされるものなんだ!」
自然な繁殖による魔物の増加が「スタンピード」の原因では無いと訴えるワタル。
「…そう言えば、古の勇者は虚空から様々な物を生み出して戦ったという話があったな。」
「何の話─」
「今の発言、救世主たる「勇者」様に失礼ですっ!」
オットーの発言の意味を分かっていないワタルに代わり、「聖女」セラフィアがオットーに抗議する。
「ちょ…、セラフィアさん?」
「止めないで下さい「勇者」様!
今この男は、こともあろうに「勇者」様の自作自演を疑ったのですよ!?」
「虚空から様々な物を生み出せるのならば魔物も生み出せるのでは?」、オットーが言ったのはこういうことだったのだ。
「なっ…、誤解ですっ!
多分そのスキルは『マジックボックス』という、異空間に物を収納するスキルです。
そして僕にもそのスキルが有りますが、『マジックボックス』に生き物は入らないんです。
それに「スタンピード」の原因は分かっていて、それはとある商会がこの街に持ち込んだ〈魔物誘引剤〉です。」
ワタルは弁明に必死のあまり、通常秘匿されているスキルを明かしてしまう。
「仮に「勇者」殿の言い分が事実だとして、そんなスキルがあるのならば、やはり「勇者」殿が怪しく思えるが?」
〈魔物誘引剤〉は読んで字のごとく、魔物を誘引する液体薬だ。
主に「スタンピード」が発生した際に、街などから魔物の群れを逸らす用途で使用されたりするが、その特性上取り扱いには厳重な取り決めがある。
「違いますっ…そうだ、街の商会を調べて貰えば分かる筈です!」
元々ワタルが冒険者ギルドに頼もうとしていたのは、この「街全ての商会の捜索」だったのだ。
「そりゃ冒険者に頼む事じゃ無いな。
そういうのは憲兵に頼め、…聞き入れて貰えるかは別だがな。」
いくら自由がウリの冒険者と言えど、勝手に家捜しをするのは犯罪である。
「…っ!、分かった…。」
「「勇者」様…!?」
オットーが最後に呟いた、仮にも「勇者」に向けて言うには馬鹿にした言葉。
しかしワタルは、今度はその言葉の意味を読み取り悔しげに引き下がった。
「勇者」本人が引き下がったことで、オットーを咎める理由が無くなってしまった「聖女」セラフィアが言葉を失う。
「でも僕の不甲斐なさで「勇者」という存在を侮られるわけにはいかない。
オットーさん…いや、ギルドマスター。
この僕…ワタル・イセは現「勇者」として、元 Aランク冒険者「ウェポンマスター」オットーに模擬戦を申し込むっ…!」
異世界の人間の私怨では無く、この世界の「勇者」を慮った決闘の申請。
ワタルを胡散臭いものを見る目だったオットーは、
「ああ…、この世界のAランクの実力を見せてやろう。」
と、不敵に笑ったのだった。
次回からタイトルを
「勇者召還された!~ゲーム知識で悲劇を未然に防ぎたい~」
に変更して、ワタル主人公でお送りします。
(↑大嘘w)
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