64 ギルド内定期報告会 ※別視点
ラストがニーニャやマリ姉と仲を深める一方…
冒険者達が去りガランとしたギルド内。
酒場を併設するホールは灯りが消され、今日の仕事を終えた職員達も帰って行く。
そんな冒険者ギルド内で唯一灯りが煌々と照らす一室…ギルドマスターの執務室では、ギルドマスターのオットー、サブマスター、買い取りカウンターのおっさんこと買い取り部門長のボンレス、そして職員代表という残業を押し付けられたリタ(本人無自覚)の4人がテーブルを囲んでいた。
「おし、それじゃぁ中間報告会を始める。」
ギルドマスターのオットーが、会議開催の音頭を雑に取る。
「では私から。
今月の当ギルドの収支は先月同様に黒字。
また、昨年の同月に比べ1割程増加する見込みです。
次に当ギルドへの新規登録者ですが、不作により困窮した農民の登録が増加しています。
こちらも昨年に比べ最大5割の増加が予想されているので、ギルドでの対策を提案します。
次に───」
音頭に呼応して立ち上がったサブマスターはいつものように、手に持つ資料を次々と捲って内容を読み上げていく。
「───。
以上で定例報告を終了します。」
分鐘一つ程後、サブマスターはそう締めくくり着席する。
「んじゃ買い取り部門から。
最近冒険者一人当たりの持ち込みが増えてる。
冒険者の人数自体も増えてるみてぇだが、解体の手が足り無ぇ。
雑用に何人か募集をかけてくれ。」
ボンレスは端的に要望を述べ、ドカリと座る。
「えっと…事務部門からは、街中の依頼は例年と変わらず。
周辺の村からは、畑の害魔物駆除の依頼が現時点で昨年の件数を越えました。
それと冒険者より、魔物の縄張り争いや街道での目撃情報が寄せられています。
後はいつも通りです、はい。」
リタは職員から寄せられた雑多な情報から、目新しいものを拾い上げて話し終わると着席した。
「ふ~む…。
総じて魔物が増加傾向にありそうだな。」
各部門から挙げられた情報から、オットーはそう指摘する。
「はい…加えて今年の不作となると─」
「凶暴化する、だろ?」
自分の指摘に続いて補足意見を出そうとしたサブマスターの言葉を遮り、オットーは結論を出した。
「…はい。」
サブマスターはオットーの割り込みに眉をひそめるも、いつものことなので会議の進行を優先する。
「昨年は〈初心者の森〉の魔物限定の買い取り強化で済みましたが、どうやら今年は大々的に“魔引き”をしないといけませんね。」
魔引きとは、森が養え切れない程増えた魔物をギルド主導で減らす…つまり魔物の間引きのことである。
「ああ、しかも〈初心者の森〉だけじゃなく管轄区域内の村にも…だな。」
〈初心者の森〉のように、魔物の生息域として“あえて”残されている場所以外でも魔物は生息している。
しかしそういった場所以外の魔物は人に駆除され数が抑えられる…のだが、不作により人里に姿を現しているとなると放っては置けない。
「あ、そういえばスマト村はどうしますか?」
リタが手を挙げ、オットーに質問する。
「…王都支部の返答は?」
質問されたオットーは、返答をサブマスターに投げる。
「スマト村及び訴えのあった村々に関する本部の返答は、調査の完了したスマト村は依頼受け付け拒否、調査中の村は制限付きで依頼受け付けとなっています。」
淡々と答えたように思えるが、サブマスターは怒りに僅かな威圧感を放っていた。
「となるとスマト村周辺は放置…してもなぁ。」
スマト村はこの街に近い為、魔引きで空いた場所にスマト村周辺の魔物が流入するだけで制裁の効果が薄い。
「そうですね。
ですが冒険者ギルドの意思を広く知らしめるには、これ程分かり易いことは無いでしょう。」
サブマスターが言っているのは、詰まるところ“見せ締め”である。
ギルドの意義として、最近横行する依頼内容の意図的な詐称や獲物の強奪などの行為を許すわけにはいかないのだ。
「…まあ、放置するだけなら金も掛からんしな。
んじゃいっそのこと、全ての村の調査結果を待って“赤”の周辺は全部放置にした方が面倒が無いだろ?」
火の無いところに煙は立たない。
オットーが言っているのはそういうことである。
「告知の方はどうしますか?」
魔引きとは別に、ギルドに“赤”判定された村からギルドの仲介・直接を問わず依頼を受けないようにという、冒険者向けの告知のことだ。
「それは順次やるようにしてくれ。
これ以上被害が増えないようにな…、はぁ…。」
真偽を問わずとも、一端こういった話が出てしまうと聴取や調査に時間も金もかかる。
ギルドマスターのオットーが溜め息をつくのも無理なからぬ話だ。
「ふぁ…あっ、済みません!」
と…ここでリタが欠伸をして、慌てて他の三人に頭を下げる。
「いえ、お構い無く。
会議も区切りがつきましたし、そろそろ解散しませんか?」
サブマスターが執務室の壁掛け時計を見て、解散の提案をする。
時刻は11時になろうかといったところ。
「他に話しておきたいことは無いな?
………んじゃ解散!」
開始時と同様に、他に議題が無いことを確認してオットーが解散の号令を出す。
ササッー…
解散となれば各自が無駄な動きをすることなく帰り支度を始める。
時間が時間だけに、もたもたしていたら明日の業務に差し支えてしまうのだ。
あっという間に灯りが消される執務室。
人の居なくなったギルドは建物の大きさもあり、不気味な静けさをかもし出していたのだった。
この展開を感想で予想していた方がいました!
まあ、テンプレ過ぎる展開でしたかね?
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