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農家のデブ三男、兄に実家を追い出されて街で冒険者始めたらモテ始めました!?  作者: FURU
3章  白の大樹

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61 昨日の敵は今日の友?

厨二貴族ケインとの決闘を制したラスト。

しかしそれで一件落着とは行かず…

 気絶したケインは、そもそもが鎧のせいでケイン本来の勢い(速度)でなかったことと、鎧の防御力のおかげで割りとあっさり意識を取り戻した。

 ケイン側…というよりはドクソン子爵家側の人間であるセハスやケインの護衛部隊長(もう一人の審判役だ)に取っては、仕える主に大事がないようで安心した様子だ。

 俺としてもいくらケインから言い出した決闘とはいえ「貴族に怪我を負わせた」となれば、今後生活がしにくくなるので良かった。

 …とは素直に言えない理由があった。


「先ほどのは紛れ当たりだ!

 神聖な決闘においてそのような決着など…、認められるものかっ!?」


 セハスに決闘の結果を伝えられたケインの言である。 

 要は、自分の納得する結果じゃなかったのでやり直しをしたいということだ。


「坊っちゃまそれは…。」


「…ふんっ。」


 これにはセハスもケイン宥める言葉が続かず、護衛部隊長にいたってはあからさまな不快を示している。


「…で、ラストはどうする?」


「断るに決まっている。」


 呆れ顔で訊ねてくるギルマスに、俺は両腕をクロスさせて断固拒否の姿勢を示す。


「ぎゃあぎゃあ」


 …しかし喚き続けているケインの様子を見るに、再度の決闘を叩き付けられては場が整っていることから、拒否しても無理矢理決闘を開始されかねない。


「これは一体何の騒ぎかしら?」


 しかし修練場に響いた女の声が、この混乱を納める一言となる。


「げぇっ、カンヌ!?」


 フリルが大量にあしらわれた薄ピンク色のドレスを着たいかにも貴族な令嬢を見て、ケインは自身の天敵に遭遇したというような反応をする。


「あらケイン様、婚約者に向かってその反応は何かしら?」


 カンヌと呼ばれた令嬢はいつの間にか持っていた扇子で口元を隠し、目を細めてケインに尋ねた。

 口調は柔らかであるが、細められた目には端から見ても凍えるような冷たさが湛えられていた。


(うわぁ…、尻に敷かれてんなぁ。)


 ケインが自分の婚約者を見て、ああいった反応をするのも無理は無い。

 …とは思いはしたものの、彼女を怒らせたのはケインのため同情は不要だろう。


「ケイン様、(わたくし)悲しいのです…。

 この度のダイカーン子爵家の夜会、私ケイン様と同じ馬車で向かうのを、とぉ~っても楽しみにしていましたの。」


 どうやらカンヌ嬢はケインを恋慕っているようで、俺としては何故ケインがカンヌを避けたがるのか今一理解出来ない。

 カンヌ嬢は貴族令嬢なだけあって長い金髪は緩く巻かれ艶があり、今は陰っているが笑えば愛らしい顔をしていることは確実だ。

 …そして何より胸もデカい。


「なのにケイン様ったら…、…ケイン様に分かりますか?

 ドクソン子爵家に赴いたのに、ドクソン家の執事にケイン様が「既に出発なさっている」と言われた私の気持ちが!」


 …控えめに言って最低である。


「聞いてくれカトリーヌ、我にはやらなければならぬ事があってだな…。」


 …ケインも愛称で呼ぶ程度にはカトリーヌ嬢を内側に入れているようだが、だからこそ余計に質が悪くなっている。


「平民女に浮気することが大事な用ですって!?」


「ぐふっ…!」


 カトリーヌ嬢の言葉は、現在進行形でマリ姉と付き合いながらニーニャとも本番手前までの行為をしている俺にも効いた。


「浮気では無い!

 ただ、今のうちに側室に─」


「認めませんわ、平民を側室などと…っ!」


 一見貴族主義な発言に思えるが、カトリーヌ嬢の言葉は間違いでは無い。

 確かに貴族…特に高位貴族は血を保つため側室を持つのが常識だ。

 しかし側室となるのは貴族だけで、平民は良くて妾までにしかなれない…というのは平民でも知っている。


「マリアの魔力量は多い。

 我の子を孕めば優秀で魔力量に優れた子になるに違い無い。

 であるならば継承権はあった方が良かろう?」


「ふざけないで下さいましっ!

 クローバー家を継ぐのはクローバーの血を引く者。

 次期クローバー男爵家当主は私でしてよ?」


 ケインはどうやらカトリーヌ嬢のクローバー家への入り婿のようだ。

 となると妾はおろか、側室すら許されない可能性が濃厚か?


「ぐっ…しかし、優秀な次代を─」


パァンッ!


「…ケイン様、優秀な子であれば私が“いくらでも”産んで差し上げますわ。」

 

プルプル…ッ


 カトリーヌ嬢の言葉の圧に、ケインは(はた)かれた頬の痛みとは別の意味で震える。


「うわぁ…、クローバー様ってヤンデレだったのね。」


「…ん?

 マリ姉は知っていたのか、カトリーヌ嬢のこと。」

  

 意外そうに呟いたマリ姉の態度が気になり、俺はマリ姉に訊ねた。


「あー…、まさかラス君気付いて無いの?

 …ほら、魔術学校の。」


「……、あっ!?」


 残念な人を見る目でマリ姉に言われ、俺はやっとのことで思い出す。


(マリ姉に言い寄ってきた子爵令息と、マリ姉に嫌がらせをした男爵令嬢!)


 気付いてから記憶を振り返ると、逆によく気が付かなかったものだと思う。

 いや…言い訳をさせて貰うなら、ケインとの会見の話の直前の「ニーニャを探す怪しい男」の話で俺はかなり動揺していた。

 …それにマリ姉の見目なら、偶然マリ姉を見かけた妄想逞しい貴族の坊っちゃんが、マリ姉に一目惚れからの勝手に婚約を内定させてもおかしく無いと思うのだ。


「ちょっと「見目なら」って何!?」


 そういうとこだよ、マリ姉(残念美人魔女)


「あら?貴女…。」


カツカツ


 マリ姉が俺に食って掛かってきたときの大声で、カトリーヌ嬢がこちらに気付き近づいて来る。


カツッ、ジー…


 カトリーヌ嬢は普通に立ち話をするくらいの距離で立ち止まると、無言で俺を頭の先から足元までを眺めると、マリ姉を見て言う。


「ふぅうん?これが貴女の“想い人”ってワケね。

 …まぁ、中途半端な貴女にお似合いですこと。」


「カトリーヌッ!我のマリアへの暴言は─」


 あ゛?

「あ゛?」


「…っ!?」


 自分の内心と同じく、ドスの効いた女の声が聞こえて「ぎょっ!?」っとする。


「コホンッ…、失礼いたしましたわ。」


 ニッコリと笑ってそう言ったカトリーヌ嬢。

 俺が思ったとおりに可愛いらしい笑みだったが、これが「今のは忘れろ永遠に。な?」という意味であることを本能で覚った。


「……、よろしくてよ。

 さあケイン様、ここからは共にダイカーン子爵家に参りましょう?」


ガシッ…!


「ま、待てカンヌ!我は決闘の再戦を─」


参 り ま しょ う(・ ・ ・ ・  ・)?」


 …ケインもよくもまぁ、悉くカトリーヌ嬢を逆撫でする行動をする。


ズルズル…


 カトリーヌ嬢に引き摺られて行くケイン。


「待ってくれ、これはどうする?」


「「「「「ッ!?]」」」」


(ギルマスッ!?)


 去ろうとするカトリーヌ嬢を止めたギルマスに、空気と化していた修練場にいる全ての人間が息を飲んだ。

 ギルマスの手には、ケインの宝剣(笑)〈クーゲルシュライバー〉が。


「………。

 好きになさいな、迷惑料とでも思いまして?」


「なっ!?」


「お黙りあそばせ?」


 抗議しようとしたケインだったが、カトリーヌ嬢は取り合わない。


(…てか、子爵家の宝剣じゃないのかよ?)


 この疑問を持ったのは俺だけでは無い筈だ。


「…分かった。」


「それでは皆さま、ご機嫌よう?」


 ギルマスが了承すると、カトリーヌ嬢は今度こそ修練場から出ていく。


ズルズル…


 …婚約者(ケイン)を引き摺って行くその姿は、あくまでも優雅であったと俺は思う。


「カンヌ待て…って、アーッ!?」


 修練場の外(誰も見ていない所)でナニが行われたのか?

 それは下世話な噂好きの冒険者ですら口にすることは無かった。

これにて一件落着



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