59 違和感の正体
ようやく闘います。
???「はい、回収しちゃおうねぇ~♪」
細剣の構えはダ○ソの戦技のイメージです。
元より攻撃魔術の使えない俺の圧倒的不利。
更にケインはドクソン子爵家に伝わる宝剣を持ち出し、武器の差までつけられた。
闘いの勝敗を決める大きな要素はあと「戦う本人の技量」となるのだが、片や幼少より剣術を習ってきた貴族、片や武器を持って数ヶ月の元農民。
魔物相手の実戦経験と、ギルマスに稽古をつけて貰ったことが救いかも知れない。
キン キン
おかげで俺は野次馬達の予想を覆し、性格に相応しい猛攻をかけてくるケインの剣筋を捌けていた。
「どうした?守ってばかりではっ!」
カキンッ!
「くっ…。」
穂先を上段から強く打ち据えられた俺は、体勢が崩されないように歯を食い縛る。
「行けーっ!今だぁー!」
「ああっ!?早く下がれ!」
槍の保持に気を取られ足を止めてしまった俺を見て、勝敗を賭けているらしい野次馬が騒ぐ。
「はあぁっ!」
「ふっ…!」
ガキィンッ…!
一旦下がり溜めを入れてから飛び込んで来たケインの細剣を、俺は槍を振り上げ弾く。
「あぁ~…。」
「ぃ良ぉしっ、ナイスだ!」
押されているが意外と健闘できている。
…というのが大多数の野次馬の見方だろう。
ヒュッ
ケインのがら空きの胴に軽く一突き。
ガッ…!
「ぐっ…!」
しかし鎧に阻まれ、ケインにダメージは無い。
(…まただ。)
ケインが攻め立て俺が隙を晒すも、次の一手は俺が返す。
決闘が開始されてから幾度となく繰り返しているやり取りに俺は警戒し、深く踏み込めずに様子見のカウンターに留めていた。
マリ姉から聞いた話では、ケインは細剣の連撃で相手を消耗させ、相手の動きが止まったら練り上げた『魔弾』の一撃で止めというやり方を好んでいたらしい。
現にケインは魔法を一度も使用しておらず、マリ姉に聞いた通りの闘い方のように思える。
しかしその一方で合間合間に仕切り直しが挟まれ、このまま続けても俺が消耗し切るまでは長くなりそうだった。
俺は特に持久力に優れているわけではなく、どちらかと言えば“待ち”の闘い方が向いている。
「はぁ…はぁ…、中々やってくれる…!」
肩を上下させ乱れた息吐きながらも、尊大な態度を崩さずに言うケイン。
だがその様子が、却って悲壮さを感じさせる。
ケインの闘い方はとにかく体力を使う。
だというのにケインは俺の勝ち筋を潰すため、金属の鎧を全身に纏ってしまった。
更にケインの細剣の柄は黄金色…細剣を抱え持っていたセハスの様子から、これがメッキではなく純金製の柄であると窺える。
金は鉄の倍以上に重いと聞く。
鎧はケインの闘い方を阻害し、武器は軽く手数を増やせるという強みが活かしきれない。
端的に言うと「装備が致命的に合っていない」、それが俺の感じた違和感の正体だった。
だからといって攻めに転じることができるかというと、依然ケインの攻撃魔法が脅威であることは変わらず。
むしろ装備が致命的に合っていないにも関わらず、ここまで互角の闘いをできるケインは確かに強い。
(埒が明かないな…。)
「これ程とは…、我は貴様を侮っていたようだ。」
俺がどうするか考えていると、少し息の整ったケインが話かけてくる。
「だが貴様は我を本気にさせた。
次の一手で貴様を終わりにしてやろう。」
どうやらケインもこの決闘が長引くと感じたのか、次の攻防で本気…つまり攻撃魔法を使ってくると宣言した。
スッ…
ケインがいつでも刺突を繰り出せるように腕を自身に引き寄せ、剣身が目の高さで水平になるようにして右半身で構える。
「っ…!」
グッ…
俺はこの決闘で一番の圧をケインから感じ取り、しかし迎え打つべく槍を握り直して“その瞬間”に集中する。
「………。」
「………。」
「「「「………。」」」」
睨み合う俺とケインの気迫に呑まれ、煩く騒いでいた野次馬達も黙りこくる。
修練場が沈黙に落ちる。
…ゴクリ
それは野次馬の誰かが、緊張に堪えかねて唾を飲んだ音だった。
「っ…」
一瞬途切れる集中。
ダッ…!
その隙を逃さずケインが飛び出す。
「っ!」
ケインに一瞬遅れ、俺は迎撃体勢を取った。
「『魔弾』オォッ!!」
「っ!?」
力強い言葉と共に放たれる魔力の塊。
ケインは自らの十八番を、止めではなく牽制として放ってきたのだ!
(不味っ…!)
迎撃する気満々だった俺は、それでも何とか回避するべく行動を開始する。
しかし──
「危ないっ!」
野次馬の誰かが叫ぶ。
その警告は俺に向けられたものでは無かった。
「…え?」
ケインが不意を突くために放った『魔弾』。
ろくに狙いも付けずに放たれた『魔弾』は、あろうことかこの決闘の審判の一人をしていたリタに向かう。
「クソッ…!」
突然自分を襲った危機に動けないリタ。
ザリッ…、バッ!
回避をキャンセルして反対側に跳び、俺はリタの前に割り込む。
(間に合えっ…!)
『魔弾』の前に躍り出た俺は、向かって来る『魔弾』を叩き落とすべく槍を振るおうとした。
…が。
ボンッ!
「ぐっ…、ふっ!?」
『魔弾』が腹に直撃し、息を強制的に吐き出させられる。
ヨロ…
「かっ…、はぁっ…。」
呼吸が乱されただけでなく、無視出来ないダメージに足元がふらつく。
「貰った!」
決定的な隙を晒した俺に、ケインは細剣を持つ腕を伸ばす。
しかしそれは少々勇み足。
「やるか、よっ…!」
距離は未だに俺が有利。
俺は槍をケインに向けるだけで、ケインが自ら突っ込んできてくれるオマケ付きだ。
「食らえ我が必殺、閃光の一突きッ!」
ビュッ!
「なっ…!?」
届かない筈の距離。
しかし“飛んで”その距離を埋めた細剣の刃先は、一直線に俺の胸を捉えていた。
流石貴族、汚ない手を平然と使ってくる!
そこに憧れないし、痺れ無い。
(要約:卑怯だぞテメェ!)
某侍「卑怯とは…言うまいな?」
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