57 貴族流交渉術
イベント回避?
できるワケ無いじゃないですかぁ~。
急なPV数の増加ですが、どうやら注目ランキングに載っていたようです。
これも読者の方々に本作をブックマークして貰えたおかげです。
本当にありがとうございます! 2025/1/23
ケインの指摘は疑惑の体を取りはしていたものの、直前のセハスとの密談の様子から、ニーニャがケインの話に出ていた猫人族だと断定していることは確実だ。
(そこで繋がるか…!)
ニーニャを探す(推定)アーコギ商会の商会員を警戒していたところへの、全く予想だにしていなかったところからの発覚の衝撃に、俺の思考は一周回って逆に冷静になっていた。
「彼女は違う。」
ケインの指摘を否定したのはギルマスだった。
「彼女は冒険者ギルドに所属している、冒険者パーティー〈白の大樹〉のメンバーだ。」
マリ姉の件から分かる通り、奴隷の冒険者ギルド所属にはマリ姉の件ほどでは無いにしろ面倒がある。(というかマリ姉の件が特殊過ぎるだけなのだ)
つまりニーニャが冒険者ギルド所属という事実だけで、ニーニャが奴隷でないことの強い説得力になるのだ。
しかしケインも貴族であり、ギルマスの挙げ足を取る。
「おや、我は彼女の特徴が話の亜人と一致していると言っただけだが?
そんなに必死になられると、特徴の一致も相まって逆に疑わしいぞ?」
「………。」
ここでクソ兄貴にならば「好きにすればいい」と啖呵をきるのだが、良くない予感がした俺は黙るギルマスに従い口を慎む。
…後に聞いたことだが、貴族相手にそれを言ってしまうと、言質を取ったとして本当に“好きに”されてしまうらしい。
この時の俺グッジョブである。
「黙りか…まあ良い。
本人かどうかなんて関係は無い。
特徴が一致してしまった以上、奴が知れば何としても彼女を手に入れようとするだろう。
アックはそういう奴さ。」
ケインの言う「何としても」というのは、合法・非合法問わずということだろう。
敵対派閥の…いわゆるライバルのような関係(?)の相手らしいが、ケインからしても最低に近い人物評に、ニーニャを欲しているアックという子爵令息がまともな人物ではないことが窺える。
(ニーニャを狙う相手は貴族か…、厄介だな…。)
しかし逆に言えば、警戒する相手がはっきりしたことでより効果的な対策ができるようになった。
…と言っても俺ができることは自衛とダイカーン子爵家の治める街に行かないようにすることくらいで、表から接触してきた場合はギルマスに泣きつくしかない。
(人頼りとは…、情けない。)
自衛するにしてもEランク冒険者など、私兵の一人でも排除には十分で、暗殺者を仕向けられたら抵抗することもできない。
(…強く、ならないとな。)
この時に俺は始めて、自分達に振り掛かる困難を払える“力”を求めるようになったのだ。
それは今はさておき、自分には直接関係の無い話をケインは何故今話したのか?
家が敵対していて、ケイン自身もアックとやらを毛嫌いしている。
仮にそいつがニーニャを血眼になって探していたとして、ケインがアックにニーニャの所在を教える理由は無さそうなものだが…?
「実はこの後ダイカーン子爵家の夜会に招待されていてな、クレク連邦の奴らがオーツミール辺境伯領に侵入を繰り返しているらしい。」
またケインの話が飛んだ。
ダイカーン子爵家の夜会の招待と隣国の侵入に何の関係があるのだろうか?
「…戦争になるとは聞いていないが?」
(戦争だって!?)
ケインの話を理解できたらしいギルマスの発した言葉に、俺は内心で激しく動揺した。
「何、あっても精々が小競り合いさ。
今年の不作で、連邦はどうやら食料が欲しいらしい。」
…そんな機密をこんなところで話しても良いのだろうか?
「…そうか、情報提供感謝する。」
そうか、ギルマスは爵位持ち。
戦争となって元Aランク冒険者の戦力を遊ばせる国は無いだろう。
「夜会もダイカーン子爵家の示威みたいなものさ。」
ケインはそこまでギルマスと話したところで、俺達…正しくはニーニャを見た。
「アックも当然功績を上げるチャンスを我に自慢しようとするだろう。
しかし我も運が良い。
アックの奴に、ここで「珍しい白毛の猫人族に会った」と自慢し返せそうだ。」
(そうくるのか!?)
敵対しているから情報提供はしないと高を括っていたが、ケインは自慢という形で情報を渡すつもりだ!
(やられた。)
…ニーニャを狙う貴族、アックの悪辣さを先に話したのはこのためだ。
となると次にくるのが…
「だが我とて、我の自尊心のために民を奴の手に掛けさせるのは…少々忍びない。」
思っても無いことを…、よくもまあつらつらと口にできるものだ。
「しかし貴族が民一人一人に気を使っていてはキリが無いのが現実だ。
ではどうするか…、いくら無学な貴様にも分かるな?」
平民が貴族に何かを要求するのであれば嘆願書の提出が一般的なのだが、ドクソン子爵家の領地など知らないし、第一受けて貰えるとも思わない。
賄賂…という手もあるにはあるが、安定した生活がやっとのEランク冒険者パーティーに貴族が納得するような金があるとでも?
…いくらかの選択肢があるようで、財力も権力も…そして純粋な暴力も無い俺に取れる選択など、実質“それ”一つしか無かった。
チラッ
…コク
マリ姉を見やると、マリ姉は何も言わず…しかし力強い眼差しをして頷いた。
ガシッ
「…これでいいか?」
「良いとも、条件を詰めよう。」
ニヤリと嗤うケインを睨む俺の手には、ケインが机に投げつけたままだった片側の手袋が握られていた。
これを一般に「脅迫」という。
※ここで「マリアを寄越せ」としないあたり、ケインはまだ良い方の貴族。
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